エンジンは戦車の機動性能を左右する重要なコンポーネントであり、以前は出力を表す単位として「馬力」(ヤード・ポンド法に基づく「英馬力」(hpまたはbhp)や、メートル法に基づく「仏馬力」(ps)がある)がよく用いられていましたが、最近は国際単位系(SI)の「ワット」(w)に統一されつつあるようです。 ちなみに1kw=1.3410hp=1.3596psとなります。
上の表は、代表的な日本戦車のエンジンをまとめたものです。 戦車のエンジンについて戦前からディーゼルを主流としていたのは日本だけであり、この点では非常に先進的であったといえます。 旧ソ連も1938年に傑作ディーゼル・エンジンV-2を実用化した後は、今日に至るまで一貫して戦車にV-2系列のディーゼル・エンジンを採用し続けています。 一方、第2次世界大戦において多数のAFVを製造してきたアメリカ、イギリス、ドイツは1960年代までガソリン・エンジンに頼っていました。 戦車用エンジンとしてガソリンとディーゼルのどちらが優れているかについては、すでに決着がついています。 まず戦車の運用コストに大きな影響を与える燃費効率の点で、ディーゼルはガソリンに比べて圧倒的に有利です。 また戦車が被弾した際に搭載燃料に引火する危険性に関しても、ディーゼル・エンジンに用いられる軽油はガソリンに比べてはるかに引火し難く安全です。 最近のMBT(主力戦車)のエンジンは、以下のようなものが主流となっています。 ●空冷または液冷のディーゼル ●気筒数8〜12のV型 ●排気量20〜40リットル ●最大出力800〜1,500hp。最大出力時の回転数2,000〜3,000rpm ●ほとんどがターボチャージャー、あるいはメカニカル・スーパーチャージャー付き 一方アメリカのM1エイブラムズ戦車、ロシアのT-80戦車などはガスタービン・エンジンを搭載しています。 航空機、高速艇に用いられているタービン・エンジンが戦車に適しているかどうか、専門家の間でも議論がありましたが、1991年の湾岸戦争地上戦の際M1戦車は高い機動性能を発揮し、ガスタービン・エンジンの有効性を実証しました。 ガスタービン・エンジンは軽く高出力ですがその反面燃料消費量が多く、かつ高回転のため重く複雑な減速機を必要とします。 この問題を、M1戦車は新開発のトルク変換機を使って解決しています。 しかし、AFVのエンジンの主流が今後とも大出力ディーゼルであることは何ら変わりません。 エンジンの配置については、 ●フロント配置の車両 イスラエルのMBTメルカヴァ、イギリスのFV101スコーピオンなどの軽戦車、あるいは装甲兵員輸送車、歩兵 戦闘車など ●リア配置の車両 ほとんどのMBT となっています。 地上戦において先頭に立って戦うMBTでは被弾確率の低いリア配置が望ましいのですが、メルカヴァ戦車の場合は乗員の生残性の向上を最優先に設計されているため、あえてフロント配置を採用することでエンジン・ブロックや変速・操向機さえも乗員を守る盾として利用しているのです。 |