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Pbv.301装甲兵員輸送車





●開発

第2次世界大戦において、国産のStrv.m/42中戦車と並んでスウェーデン陸軍の戦車戦力の中心を担ったのが、チェコ製の38(t)戦車のライセンス生産型であるStrv.m/41軽戦車であった。
Strv.m/41軽戦車はスカニア・ヴァビス社の手で第1生産ロットのS-I型が116両、第2生産ロットのS-II型が104両ライセンス生産され、1942年12月〜1944年3月にかけて合計220両がスウェーデン陸軍に引き渡された。

幸いにも第2次世界大戦においてスウェーデンは中立を貫いたため、Strv.m/41軽戦車は戦火をくぐること無く全車が無事に生き延びることができた。
Strv.m/41軽戦車は戦後の1950年代になってもスウェーデン陸軍に在籍していたが、さすがにこの頃には戦力的価値が著しく低下しており、同陸軍の戦車戦力の中心は第2次大戦後期に開発された国産のStrv.m/42中戦車に移行していた。

しかしStrv.m/42中戦車もすでに旧式化が目立っていたため、スウェーデン陸軍は新たな主力戦車としてイギリスからセンチュリオン戦車シリーズの導入を開始した。
センチュリオン戦車シリーズの配備が進むにつれて、Strv.m/42中戦車はこれと代替して第一線部隊から退き、それまでStrv.m/41軽戦車が配備されていた二線級部隊はStrv.m/42中戦車に置き換えられ、玉突き式にStrv.m/41軽戦車は予備役に回された。

しかしこの不要になったStrv.m/41軽戦車に目を付けたのが、スウェーデンの民間企業スヴェン・ベルガ社であった。
同社は1954年にスウェーデン陸軍に対して、戦車としての役目を終えたStrv.m/41軽戦車を装軌式のAPC(装甲兵員輸送車)として再生することを提案したのである。

当時、同陸軍はまだあまり装軌式APCの必要性を認識していなかったが、装輪式や半装軌式のAPCに比べて不整地での機動力に優れ、あらゆる地形において戦車に随伴することが可能な装軌式APCは近い将来世界的に普及するとスヴェン・ベルガ社は予見していた。

実際に1960年代にはアメリカのM113装甲兵員輸送車、イギリスのFV432装甲兵員輸送車、日本の60式装甲車など世界中の軍隊に装軌式APCが急速に普及していったので、同社の予見は正しかったといえよう。
またStrv.m/41軽戦車の装軌式APCへの転用が考えられたのには、もう1つ理由があった。
それは、Ikv.102駆逐戦車用に開発されたスヴェンスカ・フリーグムートル社製のB44 水平対向4気筒空冷ガソリン・エンジン(出力150hp)の存在である。

このエンジンは元々航空機用のもので、Strv.m/41軽戦車が搭載していたスカニア・ヴァビス社製の直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(S-I型が出力142hpの1664エンジン、S-II型が出力160hpのL603エンジン)より容積も重量も小さかったため、このB44空冷ガソリン・エンジンに換装することで、Strv.m/41軽戦車の車体に容積的かつ重量的余裕が生まれることになったのである。

Strv.m/41軽戦車を装軌式APCに改造するためのおよそ2年間に及ぶ研究の後、1957年にスウェーデン陸軍は2両の試作車の製作を発注した。
この内1両はヘグルンド社が担当し1959年2月に引き渡され、もう1両はランツヴェルク社が担当してわずかに遅れて引き渡された。

そしてこの2両の試作車を用いて各種試験が開始されたが、まだそれほど経たない同年6月にはヘグルンド社に7両、ランツヴェルク社に3両の増加試作車の製作が発注された。
これは最初の試作車の試験成績が極めて良好だったからか、スウェーデン陸軍当局が装軌式APCの必要性に目覚めたということであろう。

増加試作車は1961年1〜4月にかけてスウェーデン陸軍に引き渡されたが、陸軍当局はずいぶん完成を急いでいたようで、はるか以前の1960年6月にはヘグルンド社の設計案を採用し、同社に対して陸軍が保有する全てのStrv.m/41軽戦車の装軌式APCへの改造を発注していた。
これを受けてヘグルンド社はStrv.m/41軽戦車の改造作業を開始し、APC型の第1号車は1962年1月にスウェーデン陸軍に引き渡され、最終号車は1963年4月に引き渡された。

なおStrv.m/41軽戦車ベースのAPC型には、「Pbv.301」(Pansarbandvagn 301:301型装甲兵員輸送車)の制式名称が与えられている。
スウェーデン陸軍が保有していたStrv.m/41軽戦車220両は、全てがPbv.301装甲兵員輸送車(およびその派生型)に改造されたことになっているが、第2次世界大戦において母国が中立を守ったとはいえ、Strv.m/41軽戦車が1960年代まで1両も欠損することなく生き残っていたのは驚きである。

なお、Pbv.301装甲兵員輸送車には指揮車型の「Slpbv.3011」(Stridsledningspansarbandvagn 3011:3011型装甲指揮車)と、観測車型の「Epbv.3012」(Eldledningspansarbandvagn 3012:3012型装甲観測車)の2種類の派生型が存在しており、Pbv.301装甲兵員輸送車が185両、Slpbv.3011装甲指揮車が20両、Epbv.3012装甲観測車が15両それぞれStrv.m/41軽戦車から改造生産されている。

Strv.m/41軽戦車をPbv.301装甲兵員輸送車に改造するにあたって、Strv.m/41軽戦車の砲塔と車体上部は全て撤去され、代わりに背の高い密閉式の箱型構造の新しい上部車体が取り付けられたが、スウェーデン陸軍はStrv.m/41軽戦車から撤去した37mm戦車砲装備の砲塔を廃棄してしまうのはもったいないと考え、基地防備用の固定砲台として再利用することを決定した。
驚くことに、Strv.m/41軽戦車の砲塔を転用した固定砲台は1990年代まで使用が続けられたという。

Pbv.301装甲兵員輸送車はスウェーデン陸軍の6個機甲旅団に配備されたものの、各機甲旅団が保有する3個機甲大隊(合計18個)に行き渡る数は無かったため、各旅団で1個大隊を編制するに留まった。
また原型が第2次世界大戦中に生産された旧式戦車であるため、スウェーデン陸軍はPbv.301装甲兵員輸送車を長く運用することは困難であると当初から認識していた。

このためスウェーデン陸軍は、ヘグルンド社にPbv.301装甲兵員輸送車の生産発注を行ってから間もない1961年2月には早くも、本車の後継となる新型装軌式APCの研究に着手している。
この新型装軌式APCの開発はヘグルンド社とセーネル社が担当することになり、1962年12月には最初の試作車が完成した。

1963年1月から試作車を用いた各種試験が開始されたが、試験の結果が良好だったため早くも同年10月にスウェーデン国防省は両社に対して700両を生産発注すると共に、「Pbv.302」(Pansarbandvagn 302:302型装甲兵員輸送車)の制式名称を与えている。
Pbv.302装甲兵員輸送車の最初の生産型は1966年2月に完成し、以後生産は1971年12月まで続けられた。
このPbv.302装甲兵員輸送車の実用化に伴い、Pbv.301装甲兵員輸送車は1971年に全車が退役した。


●構造

Strv.m/41軽戦車からPbv.301装甲兵員輸送車への改造要領は、まずStrv.m/41軽戦車の砲塔と車体上部を全て撤去し、代わりに背の高い密閉式の箱型構造の新しい上部車体が取り付けられた。
この新しい上部車体はStrv.m/41軽戦車のリベット接合で構成された古臭い上部車体と異なり、近代的な溶接構造が採用されていた。

特に上部車体前面は避弾経始を考慮して良好な傾斜面で構成されており、また上部車体の四隅と上縁は跳弾効果を狙って丸みを帯びた形状に加工されていた。
車内レイアウトについても全面的に変更され、戦車型では車体後部に配置されていたエンジンが車体前部左側に移され、車体前部右側に操縦手席が配置された。

操縦手席の上には後ろ開き式の専用ハッチが設けられており、安全な状況では操縦手はこのハッチを開いて外部を視察するようになっていた。
また操縦手用ハッチの直前には3基の視察用ブロックが備えられており、ハッチ閉鎖時にはこれによって視界を確保していた。
操縦手席の後方には砲手席が設けられ、砲手の頭上には武装を装備したキューポラが備えられていた。

Pbv.301装甲兵員輸送車の試作車では砲手用キューポラは半球形をしており、ベルギーのFN社製の7.62mm機関銃FN-MAGを国産化したKsp.58を内部に組み込んでいたが、生産型ではボフォース社製の65口径20mm機関砲m/45Bを外装式に搭載したキューポラに変更された。
なお、Pbv.301装甲兵員輸送車の生産型に装備された20mm機関砲m/45Bは新規生産品ではなく、スウェーデン空軍から退役したJ21R戦闘機が搭載していたものを再利用している。

この20mm機関砲は対空射撃も可能で、砲の右側には砲身とリンクした対空照準環が取り付けられていた。
Pbv.301装甲兵員輸送車の砲手用キューポラはスヴェン・ベルガ社が開発したが、生産はボフォース社が担当している。
なお、この砲手用キューポラは本車専用に開発されたわけではなく、当初はStrv.103戦車と共用される予定であったが、結局Strv.103戦車は7.62mm機関銃Ksp.58を装備する背の低いキューポラを採用している。

Pbv.301装甲兵員輸送車の砲手用キューポラは、20mm機関砲を車内からの遠隔操作によって射撃できるだけでなく、給弾も砲左側のマウントを通して車内から行うことができたため、砲手は車外に出て銃火の危険に身を晒さずに済んだ。
このように砲塔形式に機関砲を装備するのは後のIFV(歩兵戦闘車)では一般的になったが、この当時のAPCとしては非常に先進的であった。

砲手席の後方左側には車長席が設けられており、車長の頭上には専用のキューポラが取り付けられていた。
この車長用キューポラは外部の視察専用で、武装は備えられていなかった。
車長席の右側には分隊長席が設けられており、戦車型では機関室となっていた車体後部は6名の兵員を収容する兵員室に改装されていた。

兵員室内には向かい合わせに独立したシートが3基ずつ配置されており、兵員室の後面と上面にはそれぞれ大型の観音開き式のハッチが設けられていた。
兵員室後面の観音開き式ハッチには1基ずつガンポートが備えられていたが、兵員室の左右側面にはガンポートは備えられておらず、搭乗歩兵が車外を射撃する際には兵員室上面の観音開き式ハッチから身を乗り出すようになっていた。

また、全てのPbv.301装甲兵員輸送車の車体左右側面前部には、3連装の発煙弾発射機が各1基ずつ標準装備されていた。
前述のように、Pbv.301装甲兵員輸送車は指揮車型のSlpbv.3011装甲指揮車と共に運用されたが、この両者は外見上の違いはほとんど無く、さらに敵に指揮車両を特定されないように全ての車両がアンテナを4本装備していた。

しかし、後に通信装置のアップグレードによって指揮車両以外のアンテナが2本に減らされたため、外見から指揮車両が特定されるようになってしまった。
Pbv.301装甲兵員輸送車の下部車体は原型のStrv.m/41軽戦車からほとんど変化しておらず、圧延防弾鋼板をリベット接合して構成されている点も同様であった。

足周りは片側4個の大直径転輪と片側2個の上部支持輪、起動輪、誘導輪で構成されており、サスペンションは転輪を2個ずつペアでリーフ・スプリング(板ばね)で懸架する方式を採用していた。
駆動方式は前方に起動輪、後方に誘導輪を配するフロント・ドライブ方式を採用しており、転輪、起動輪、誘導輪、履帯などはStrv.m/41軽戦車のものをそのまま流用していた。

前述のように、Pbv.301装甲兵員輸送車は原型のStrv.m/41軽戦車が搭載していたスカニア・ヴァビス社製の直列6気筒液冷ガソリン・エンジンに代えて、スヴェンスカ・フリーグムートル社製のB44 水平対向4気筒空冷ガソリン・エンジン(出力150hp)を搭載していた。
Pbv.301装甲兵員輸送車の戦闘重量はStrv.m/41軽戦車から約1.2t増加していたが、この新型エンジンの性能は良好で、原型と同じく路上最大速度45km/hの機動性能を発揮することができた。

エンジンは操縦手席の隣の車体前部左側に新たに設けられた機関室に収納され、機関室上面の装甲板はエンジン点検の便を考慮してボルト止めのパネルとなっていた。
エンジンの排気は、車体左側面に設けられた下向きのルーヴァーから排出するようになっていた。
変速・操向機は車体最前部に配置されており、上部車体の最前部にはボルト止めの点検用ハッチが設けられていた。

この点検用ハッチの上には、左右に各2枚ずつ予備履帯を取り付けるのが標準となっていたようである。
Pbv.301装甲兵員輸送車の変速・操向機の詳細については不明であるが、原型のStrv.m/41軽戦車のもの(イギリスのウィルソン社からライセンス生産権を得て、チェコのプラガ社が独自に改良を加えた前進5段/後進1段のプラガ・ウィルソン変速・操向機)をそのまま用いたのではなく、新型のものに交換されていると推測される。


<Pbv.301装甲兵員輸送車>

全長:    4.66m
全幅:    2.23m
全高:    2.64m
全備重量: 11.7t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  スヴェンスカ・フリーグムートルB44 4ストローク水平対向4気筒空冷ガソリン
最大出力: 150hp
最大速度: 45km/h
航続距離: 300km
武装:    65口径20mm機関砲m/45B×1
装甲厚:   8〜50mm


<参考文献>

・「パンツァー2000年12月号 スウェーデンで生まれた戦闘兵車 Pbv.302装甲兵車」 斎木伸生 著  アルゴノー
 ト社
・「パンツァー2001年12月号 スウェーデンのPbv.301装甲兵車」 水上眞澄 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年6月号 スウェーデンのSav m/43突撃砲」 水上眞澄 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年6月号 ICV化されたAPC」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」  アルゴノート社
・「グランドパワー2019年9月号 スウェーデン戦車発達史」 斎木伸生 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2013年4月号 ドイツ軽戦車 38(t)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー1999年9月号 ドイツ38(t)軽戦車」 佐藤光一 著  デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著  大日本絵画
・「戦車ものしり大百科 ドイツ戦車発達史」 斎木伸生 著  光人社


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