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プリムス155mm自走榴弾砲





●開発

シンガポール陸軍は1990年代まで自走砲を運用しておらず、砲兵部隊は牽引式の火砲のみしか保有していなかった。
しかし陸軍の近代化を進めていく上で、素早い展開・射撃が可能な自走砲の保有が必要と判断されたため、シンガポール国防省は将来的に自走砲を導入することを前提に、他国の自走砲の調査・研究を開始した。

この作業は1995〜96年にかけて行われ、対象車種としてアメリカのM109 155mm自走榴弾砲、イギリスのAS-90 155mm自走榴弾砲、日本の75式自走155mm榴弾砲、ロシアの2S3M1 152mm自走榴弾砲が挙げられた。
しかし、これら外国製の自走砲は火力や機動力は申し分ない性能を持っているが、国土の狭いシンガポール国内で運用するにはサイズが大き過ぎると結論付けられた。

シンガポール陸軍としては重量30t未満で車幅は3m以内、それでいて現代戦には不可欠な射程30km以上やデータリンク・システム等の装備を兼ね備えていることが必須との要望を出しており、これらの研究結果から1996年には新型自走砲を国内開発する方針が決定され、シンガポール初の国産自走砲プリムスの開発が開始されたのである。

プリムス自走榴弾砲の開発はDSTA(Defence Science and Technology Agency:防衛科学技術庁)とシンガポール・テクノロジーズ・キネティックス社が共同で行う形で始まり、2000年4月には最初の試作車が完成している。
ただし、この時の試作車はあくまでも車体の完成度を図るためのものであり、アメリカのユナイテッド防衛工業(UDI社)製のユニヴァーサル・シャシー(M109A6パラディン自走榴弾砲、M8軽戦車、M2ブラッドリー歩兵戦闘車等のコンポーネントを組み合わせたもの)を流用したものであった。

それでも試作車は、ニュージーランド(キャンプ・ワイオウル)やオーストラリア(ショールウォーター・ベイ訓練場)などで行われた一連の試験で満足な成績を残し、プリムス自走榴弾砲はシンガポール陸軍が提示していた各種要求に応じられるだけの結果を出した。
その結果、本車は2002年9月に「SSPH1(Singapore Self-Propelled Howitzer 1) Primus」(シンガポールの1号自走榴弾砲プリムス)として制式化され、シンガポール陸軍向けに54両が生産された。

シンガポール陸軍は、プリムス自走榴弾砲6両で編制された1個射撃中隊を編制上の基幹として考えているようで、この射撃中隊が複数集まって砲兵大隊を編制し、この砲兵大隊が各旅団の指揮下に入るような形を採っている。
各車両はデータリンクで結ばれており、当然ながら射撃指揮所とも情報共有が可能であるため、各車および指揮所が相互にリンクすることで目標の算定から実際の射撃まで、指揮所での遠隔操作が可能となっている。

なおシンガポール・テクノロジーズ・キネティックス社は、プリムス自走榴弾砲をシンガポール陸軍のみならず、海外に向けても積極的に売り込みを図っているが、本車はシンガポール陸軍の要求に基づいて車体が小振りに設計されているため、射撃プラットフォームとしての安定性にやや問題を抱えており、それが主な理由で今のところシンガポール以外の採用国は現れていない。


●構造

シンガポールはこれまで自走砲を国内開発した経験が無かったため、新型自走砲を一から新規に開発するには技術も経験も不足していた。
このためプリムス自走榴弾砲の開発にあたっては、アメリカのUDI社製のM109自走榴弾砲をベースに、シンガポール陸軍の要求する仕様を盛り込む形で作業が進められた。

プリムス自走榴弾砲の車体と砲塔は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、通常のこのクラスの自走榴弾砲に比べて小振りに作られているのが特徴である。
これは国土の狭いシンガポールの国情を考慮したためで、本車の車体サイズは全長6.60m、全幅3.00m、全高3.28mとなっている。
乗員は車長、砲手、装填手、操縦手の4名で、戦闘重量は28.3tである。

プリムス自走榴弾砲のパワーパックは、アメリカのデトロイト・ディーゼル社製の6V-92TA V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力550hp)と、ジェネラル・ダイナミクス・ディフェンスシステムズ(GDDS)社製のHMPT-500-3EC自動変速機(前進3段/後進1段)の組み合わせで、路上最大速度50km/h、路上航続距離350kmの機動性能を発揮する。

これはシンガポール陸軍が運用している国産のバイオニクス歩兵戦闘車と同じパワーパックであり、コンポーネントを共用することで運用の効率化を図っている。
主武装である39口径155mm榴弾砲は、シンガポールが国内開発した牽引式の39口径155mm榴弾砲FH-88をベースにしているが、FH-88の発展型である52口径155mm榴弾砲FH-2000の技術がフィードバックされている。

砲弾の装填は半自動式で、装薬は手動装填式である。
本車はAHS(自動弾薬取扱システム)を備えており、発射速度は緊急時のバースト射撃で20秒間に3発、最高時は1分間のバースト射撃で6発、持続射撃で2発/分となっている。
砲の射程は通常弾使用時で19km、射程延伸弾を用いた場合で30kmとなっている。

砲塔内には22発の即用弾が収納されているが、外部から連続して弾薬の供給を受けることで連続射撃を実施することも可能である。
プリムス自走榴弾砲の最大の特徴はディジタル式自動FCS(射撃統制システム)の搭載にあり、POSNAV(リング・レーザー・ジャイロ航法システム)と連接して正確・迅速な砲撃計算を行うだけでなく、砲弾の装填、消費量・保管量・種類までも一括管理する。


<プリムス155mm自走榴弾砲>

全長:    10.21m
車体長:   6.60m
全幅:    3.00m
全高:    3.28m
全備重量: 28.3t
乗員:    4名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル6V-92TA 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 550hp/2,400rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 350km
武装:    39口径155mm榴弾砲×1 (22発)
        7.62mm機関銃GPMG×1 (1,000発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2011年6月号 シンガポール独自の自走砲車 プリムス」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2004年3月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版


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