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ナクパドン装甲兵員輸送車





●開発

ナクパドンAPCは、ナグマフォンAPCと同じく1987年のパレスチナにおける民衆蜂起(第1次インティファーダ)以降の暴動鎮圧用の警備用装甲車として開発されたもので、1990年代初めからイスラエル陸軍による運用が開始されている。
ちなみに名称の「ナクパドン」(Nakpadon)は、ヘブライ語で「ヤマアラシ」を意味する単語である。

ナクパドンAPCはナグマショットAPCやナグマフォンAPCと同様、旧式化して不要になったイギリス製のセンチュリオン戦車シリーズ(イスラエル名:ショット)から廃物利用的に生み出された重装軌式APCであり、基本的な構造もこれらの車両と似通っている。
本車はショット戦車から砲塔を取り外して代わりに上部構造物を設け、車体中央部の戦闘室を兵員を収容する兵員室に改装して製作された。

ただし、ナグマショットAPCやナグマフォンAPCの上部構造物がオープントップだったのに対して、ナクパドンAPCの上部構造物は密閉式となっており、上面には車長および機関銃手用に視察ブロックを備えたウルダン工業製の背の低いキューポラが装備されている。
また、前2者の上部構造物がいかにも急造といった感が強かったのに対し、本車の上部構造物はきれいに成形されており、なおかつ周囲にはモジュール式の増加装甲がびっしり装着されている。

ナクパドンAPCは既存のナグマショットAPCから改造されたものが一部存在するが、大部分は予備装備として保管されていたショット戦車から新規に製作されている。
本車はガザ地区、ヨルダン川西岸地区などにおいて治安維持活動に投入されているが、大部分はレバノン南部での武装組織ヒズボラに対する作戦用にイスラエル北部地域に配備されている。


●構造

前述のように、ナクパドンAPCはショット戦車から砲塔を取り外して代わりに密閉式の上部構造物を設け、車体中央部の戦闘室を10名の兵員を収容する兵員室に改装して製作されている。
武装は、車体上面の4カ所に設けられたピントルマウントに7.62mm機関銃FN-MAGを1挺ずつ装備している(この内1挺を12.7mm重機関銃M2や、40mm自動擲弾発射機Mk.19に換装している車両もある)他、メルカヴァ戦車と同様に対歩兵用の60mm迫撃砲も1門搭載している。

ナクパドンAPCのパワーパックは、ベースとなったショット戦車に搭載されていたもの(アメリカのコンティネンタル社製のAVDS-1790-2A V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力750hp)と、アリソン社製のCD-850-6クロスドライブ式自動変速機(前進2段/後進1段)の組み合わせ)を流用しているが、一部の車両では、メルカヴァMk.I戦車と同じパワーパック(AVDS-1790-5A V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力908hp)と、国産のCD-850-6BX自動変速機の組み合わせ)に換装されている。

他のショット戦車ベースの重APCと同じく車体後部にパワーパックを搭載しているため、M113APCのように車体後部に兵員の乗降に用いるランプドアを設けることができず、兵員は敵に狙撃される危険を承知で車体上面のハッチから乗降しなければならない。
ナクパドンAPCは敵歩兵やゲリラが使用する携帯式対戦車兵器に対抗するため、車体前面上部と上部構造物の周囲にモジュール式の増加装甲をびっしりと装着している。

この増加装甲はIMI社(Israel Military Industries:イスラエル軍事工業)によって開発されたもので、セラミック系の複合装甲とERA(爆発反応装甲)を組み合わせたものである。
IMI社によればこの増加装甲は、旧ソ連製の9M14マリュートカ対戦車ミサイルやRPG-7携帯式無反動砲、20mm機関砲から発射される徹甲弾の直撃に耐えることができるという。

また、ナクパドンAPCはナグマフォンAPCと同じく分厚い複合装甲製のサイドスカートを装着しているが、ナクパドンAPCのサイドスカートはより分厚いものが用いられており、表面が波状に成形されているのが特徴である。
このようにナクパドンAPCは増加装甲によって大幅に防御力が強化された結果、戦闘重量55tとAPCとしては異例の大重量の車両となっている。
そのため本車は機動力が低下してしまっているが、治安維持という任務上はそれほど問題ではないようである。


<ナクパドン装甲兵員輸送車>

全長:    
全幅:    
全高:    
全備重量: 55.0t
乗員:    2名
兵員:    10名
エンジン:  コンティネンタルAVDS-1790-2A 4ストロークV型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 750hp/2,400rpm
最大速度: 
航続距離: 
武装:    7.62mm機関銃FN-MAG×4
        13.3口径60mm迫撃砲C04×1
装甲厚:  


<参考文献>

・「世界の戦車イラストレイテッド33 イスラエル軍現用戦車と兵員輸送車 1985〜2004」 マーシュ・ゲルバート 著
 大日本絵画
・「パンツァー2008年11月号 ユニークなイスラエルの戦車改造重装甲車輌」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年10月号 イスラエル軍の市街戦用装甲車輌」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年6月号 イスラエルの戦車改造重APC」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート35 イスラエル軍のAFV 1948〜2014」  アルゴノート社
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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