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MLI-84歩兵戦闘車


●MLI-84歩兵戦闘車




ルーマニアは1982年に旧ソ連からBMP-1歩兵戦闘車178両のライセンス生産権を購入したが、同時に独自改良権も獲得しており、この協定に従って開発されたルーマニア版のBMP-1歩兵戦闘車がMLI-84歩兵戦闘車である。
MLI-84歩兵戦闘車は1984年にルーマニア陸軍に制式採用され、1985〜91年にかけて178両が生産された。

BMP-1歩兵戦闘車からの大きな改良点は、エンジンが原型のUTD-20 V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力300hp)から、ルーマニア国産の8V-1240-DT-S V型8気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力355hp)に強化された点である。
ただし、この国産エンジンは原型のエンジンよりも高出力であったがサイズが大きかった。

また、MLI-84歩兵戦闘車は航続距離を延長するために燃料タンクの容量が600リットルに増大されたため、これらの理由により車体を拡大しなければならなくなった。
結果的にMLI-84歩兵戦闘車はBMP-1歩兵戦闘車に比べて全長が約60cm、全幅が約20cm拡大されている。
車体の拡大に伴ってMLI-84歩兵戦闘車は戦闘重量も16.6tに増大したが、エンジンを強化したおかげで路上最大速度は原型の65km/hから70km/hに向上している。

それ以外の部分は基本的にBMP-1歩兵戦闘車と同様で、車体は原型と同様に低平な舟型にデザインされており、前面装甲は14.5mm重機関銃弾の直撃に耐えることができる。
MLI-84歩兵戦闘車の車内レイアウトは基本的に原型と同じで、車体前部右側が機関室、前部左側が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が兵員室となっている。
またBMP-1歩兵戦闘車と同様、車内にはNBC防護装置と自動消火装置を備えている。

戦闘室上面に搭載されている砲塔は1名用で、原型と同じく30口径73mm低圧滑腔砲2A28「グロム」(雷鳴)と、7.62mm機関銃PKTを同軸に装備しており、砲塔防盾上部には9M14「マリュートカ」(赤ん坊)対戦車ミサイルの発射レールも備えている。
さらにMLI-84歩兵戦闘車では、車体上面最後部左側に対空用の12.7mm重機関銃DShKが追加装備されている。
このため、BMP-1歩兵戦闘車では4枚設けられていた兵員室上面のハッチは3枚に減っている。

搭乗兵員はこの兵員室上面ハッチか、車体後面に設けられた2枚のドアから乗降を行うようになっている。
また兵員室の側面には各4基ずつガンポートが設けられており、携行火器によって車外を射撃できるようになっている。
MLI-84歩兵戦闘車は原型と同じく水陸両用能力を備えており、水上での推進力を履帯の回転から得るのも同じである。


●MLI-84M歩兵戦闘車




MLI-84歩兵戦闘車が開発される以前の1980年には、すでにソ連本国ではBMP-1歩兵戦闘車の改良型であるBMP-2歩兵戦闘車が登場しており、MLI-84歩兵戦闘車は登場した時点で旧式化した存在となっていた。
このため、ルーマニア陸軍は1995年に旧式化したMLI-84歩兵戦闘車を近代化改修することを決定し、改修車には「MLI-84M」(資料によってはMLI-84M1とも)の名称が与えられることになった。

MLI-84M歩兵戦闘車の最大の特徴は、MLI-84歩兵戦闘車の砲塔をイスラエルのラファエル社製の遠隔操作式武装ステイションOWS-25Rに換装した点である。
OWS-25Rは無人砲塔で車内から遠隔操作することができ、武装としてスイスのエリコン社製の80口径25mm機関砲KBAと7.62mm機関銃PKTを同軸に装備している他、左側面にユーゴスラヴィア製の9M14-2Tマリュートカ2T対戦車ミサイル、もしくはイスラエル製のスパイクLR対戦車ミサイルの連装発射機を備えている。

この新型砲塔を装備した結果戦闘重量が17.6tに増加したため、MLI-84M歩兵戦闘車はエンジンをアメリカのキャタピラー社製のC9 直列6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力400hp)に強化している。
それでも機動性能は若干低下し、MLI-84M歩兵戦闘車の路上最大速度は65km/hとなっている。
当初、ルーマニア陸軍は全てのMLI-84歩兵戦闘車をMLI-84M歩兵戦闘車に改修することを計画していたが、ルーマニア政府の財政難等の理由で99両のみの改修に留まっており、2005年から部隊配備が開始されている。

またMLI-84歩兵戦闘車の車体を流用した派生型として、旧ソ連製の2S1「グヴォジーカ」(カーネーション)122mm自走榴弾砲の砲塔を搭載したMd.89 122mm自走榴弾砲が1980年代末に開発されたが、現在は全て予備保管状態に置かれ現役には無い。


<MLI-84歩兵戦闘車>

全長:    7.335m
全幅:    3.15m
全高:    2.11m
全備重量: 16.6t
乗員:    3名
兵員:    8名
エンジン:  8V-1240-DT-S 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル
最大出力: 355hp
最大速度: 70km/h
航続距離: 550〜600km
武装:    30口径73mm低圧滑腔砲2A28グロム×1
        12.7mm重機関銃DShK×1
        7.62mm機関銃PKT×1
        9M14マリュートカ対戦車ミサイル発射機×1
装甲厚:


<MLI-84M歩兵戦闘車>

全長:    7.335m
全幅:    3.30m
全高:    2.942m
全備重量: 17.6t
乗員:    3名
兵員:    8名
エンジン:  キャタピラーC9 4ストローク直列6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 400hp/2,200rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 550〜600km
武装:    80口径25mm機関砲KBA×1
        7.62mm機関銃PKT×1
        9M14-2Tマリュートカ2TまたはスパイクLR対戦車ミサイル連装発射機×1
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2003年2月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(1)」 小野山康弘 著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年6月号 アメリカ第2騎兵連隊とルーマニア軍共同訓練」  アルゴノート社
・「パンツァー2021年3月号 衝撃の歩兵戦闘車 BMP」 藤村純佳 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年5月号 砲塔ビジネス最新情報(2)」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年10月号 現代のルーマニア軍」 鹿内誠 著  アルゴノート社
・「パンツァー2023年8月号 ルーマニア軍IFV MLI-84M1」  アルゴノート社
・「パンツァー2003年12月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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