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メルカヴァMk.III戦車





●防御力

メルカヴァMk.III戦車は現在イスラエル陸軍のメルカヴァ戦車シリーズの主力となっている型式で、メルカヴァMk.II戦車の部隊配備が開始された1983年に開発に着手され1989年より生産が開始されている。
前作のメルカヴァMk.II戦車がMk.Iの基本構造を維持したまま各部に改良を施したものだったのに対し、メルカヴァMk.III戦車は基本的なコンセプトは維持しながらも各部が根本から設計し直されており、車体と砲塔はMk.I/Mk.IIに比べて延長されている。

またメルカヴァMk.III戦車では、砲塔の前面と左右側面に新開発のモジュール式追加装甲が装着されている。
各モジュールは容易に着脱が可能であり、整備や交換が容易になるだけでなく将来的な装甲のアップグレードにも対応し易い。
このモジュール式追加装甲の内部には、運動エネルギー弾と成形炸薬弾の両方に高い防御力を発揮する複合装甲が収められているといわれている。

車体は操縦手席前方の左側傾斜部に追加装甲がボルト止めされ、メルカヴァMk.II戦車の後期型と同様にサイドスカートが複合装甲を内蔵したものになっている。
以前から防御力や乗員の生残性には定評のあるメルカヴァ戦車だが、これらの改良によりMk.IIIの防御力はさらに向上している。

なおNBC防護装置は、メルカヴァMk.I/Mk.II戦車の与圧式のものから集中フィルター式に変更されている。
またメルカヴァMk.III戦車には、アンコラム社が開発したLWS-2レーザー警戒システムが装備されている。
これは対戦車ミサイルや誘導砲弾の誘導用レーザーを感知して警報を発するもので、砲塔の左右側面後部と主砲防盾上の3カ所に取り付けられたレーザー検知機により360度の警戒が行われる。


●攻撃力

メルカヴァMk.III戦車は攻撃力についても大幅な強化が図られており、主砲はメルカヴァMk.I/Mk.II戦車に装備されていたアメリカ製の51口径105mmライフル砲M68に代えて、IMI社(Israel Military Industries:イスラエル軍事工業)が新規開発した44口径120mm滑腔砲MG251が装備されており、砲弾も同じくIMI社製のものが使用される。
120mm滑腔砲MG251は、西側諸国の戦後第3世代MBTに広く採用されているドイツのラインメタル社製の44口径120mm滑腔砲Rh120を参考に開発されており、砲弾もRh120用のものを使用することが可能である。

ただしMG251はRh120に比べて駐退復座機構のコンパクト化が図られており、復座用のスプリングに従来のコイル・スプリングに代えて窒素ガス・スプリング方式が採用されている。
またMG251は排煙機の形状もRh120と大きく異なっており、砲身にサーマル・スリーブを装着したまま排煙機のみ取り外して整備や交換を行うことが可能となっている。

IMI社では120mm滑腔砲MG251用の弾薬としてM322/M338 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、M325 HEAT-MP(多目的対戦車榴弾)などを開発している。
M322 APFSDSはラインメタル社製のDM33 APFSDSと同程度、M338 APFSDSは同社製のDM53 APFSDSと同程度の性能といわれている。

ちなみにDM33 APFSDSを44口径120mm滑腔砲で発射した場合砲口初速1,650m/秒、射距離2,000mで460mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能であり、DM53 APFSDSは同条件で砲口初速1,650m/秒、射距離2,000mで650mm厚のRHAを貫徹することができる。

またメルカヴァMk.III戦車はIAI社(Israel Aerospace Industries:イスラエル航空宇宙工業)が開発した砲腔発射式のLAHAT対戦車ミサイルを使用することも可能で、敵MBTに対してアウトレンジで攻撃を行うことができる。
ただしLAHAT対戦車ミサイルは元々、L7系105mmライフル砲の砲腔から発射することを前提に開発されたものであるため、120mm滑腔砲から発射する場合はサイズを合わせるために分離式の装弾筒を取り付けるようになっている。

メルカヴァMk.III戦車の主砲弾薬搭載数は48発となっており、従来通り即用弾は砲塔部、予備弾薬は車体後部に置かれている。
メルカヴァMk.I/Mk.II戦車では主砲弾薬を砲尾に装填する際、砲塔底部に置かれた即用弾を装填手が一発ずつ持ち上げて装填していたが、メルカヴァMk.III戦車では主砲の大口径化に伴って主砲弾薬の重量が増大したため、装填手の負担を軽減するために半自動装填機構が導入されている。

メルカヴァMk.III戦車の砲塔内後部には即用弾5発を収めた回転式弾倉が2個配置されており、装填手が任意の弾種を選択すると主砲の砲尾近くまで砲弾が自動的に運ばれるようになっている。
メルカヴァMk.III戦車では砲塔の旋回と主砲の俯仰も、従来の油圧式から反応が早く火災の危険性が低い電動式に変更されており、FCS(射撃統制システム)にも大幅な改良が加えられている。

メルカヴァMk.III戦車のFCSはエルビット社とエロップ社が共同開発した「ナイト」(Knight:騎士)FCSが採用されており、走行間射撃における主砲の命中精度が大きく向上している他、目標の捕捉・射撃操作が大幅に簡略化されている。
なおメルカヴァMk.I/Mk.II戦車では主砲は上下方向のみ安定化されていたが、メルカヴァMk.III戦車では左右方向の安定化装置も追加されている。


●機動力

メルカヴァMk.III戦車は、機関系やサスペンションについても大幅な改良が図られている。
従来のメルカヴァMk.I/Mk.II戦車は、イスラエル陸軍がイギリスから導入したセンチュリオン戦車のサスペンション方式を踏襲しており、「ホルストマン式」と呼ばれる縦置きコイル・スプリングとボギーで転輪を2個一組で懸架するサスペンション方式を採用していた。

一方メルカヴァMk.III戦車では、同軸コイル・スプリングとトレイリング・アームを組み合わせた独立懸架方式に変更されており、サスペンションの緩衝性能が向上している。
サスペンション・ユニットは従来通り車体側面に外装式に装着されており、他国のMBTで広く採用されているトーションバー(捩り棒)式サスペンションのように車内スペースを占有しないようになっている。

メルカヴァMk.III戦車のエンジンはメルカヴァMk.I/Mk.II戦車に用いられた、アメリカのテレダイン・コンティネンタル社(現L-3 CPS社)製のAVDS-1790-5A V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンの改良型である、AVDS-1790-9AR V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンに換装され、出力はそれまでの908hpから1,200hpに大きく向上している。

変速機については、メルカヴァMk.II戦車と同じくAAI社(Ashot Ashkelon Industries:アショット・アシュケロン工業)製の電子制御式自動変速機(前進4段/後進2段)が採用されている。
これらの改良の結果メルカヴァMk.III戦車は戦闘重量が従来より増加しているにも関わらず、路上最大速度はメルカヴァMk.I/Mk.II戦車の46km/hから55km/hへと大幅に向上している。


●ヴァリエーション

以上のようにメルカヴァMk.III戦車はMk.IIまでと比べて攻撃力・防御力・機動力の全ての面で大幅にパワーアップしており、M1エイブラムズ戦車やレオパルト2戦車など西側諸国の戦後第3世代MBTと肩を並べられる戦車に進化している。
またメルカヴァMk.III戦車は他のイスラエル陸軍MBTと同様に、その後も段階的に近代化改修が実施されている。

まずメルカヴァMk.III戦車の生産開始後間もなく、メルカヴァMk.IIB戦車と同様にトップアタック方式の対戦車兵器への対策として砲塔上面にモジュール式の追加装甲が装着されるようになり、また同じ頃から従来のゴム縁付きの転輪に代えて防弾鋼製の全鋼製転輪が使用されるようになった。

続いて1995年からFCSを改良型のナイトMk.III FCSに換装する改修が実施されたが、この改修を実施した車両は「メルカヴァMk.IIIBAZ(バズ:ヘブライ語で「雷光」を意味する”Barak Zoher”の略語)」、または単純に「メルカヴァMk.IIIB」と呼ばれる。

ナイトMk.III FCSではエルビット社製のATT(Automatic Target Tracker:自動目標追尾装置)が導入され、照準機が捉えた移動中の目標を主砲と照準線が自動的に追い続ける機能を実現している。
また砲手が目標を攻撃している間に、車長が次の目標を捜索・捕捉してその情報を砲手に伝達するハンター・キラー能力も付加されている。

さらに1990年代末頃からは、メルカヴァMk.IID戦車と同様に砲塔の左右側面に楔形断面の大きな追加装甲モジュールが装着されるようになり、この改修を実施した車両には「メルカヴァMk.IIIDor-Dalet(ドル・ダレット:ヘブライ語で「第4世代」を意味する)」の呼称が与えられている(単純に「メルカヴァMk.IIID」とも呼ばれる)。
また2004年からさらなる発展型であるメルカヴァMk.IV戦車の部隊配備が開始されており、旧式化したマガフ戦車シリーズの後継として約400両の生産が計画されている。


<メルカヴァMk.III戦車>

全長:    8.78m
車体長:   7.60m
全幅:    3.72m
全高:    2.66m
全備重量: 62.0t
乗員:    4名
エンジン:  テレダイン・コンティネンタルAVDS-1790-9AR 4ストロークV型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼ
        ル
最大出力: 1,200hp/2,400rpm
最大速度: 55km/h
航続距離: 500km
武装:    44口径120mm滑腔砲MG251×1 (48発)
        13.3口径60mm迫撃砲C04×1
        12.7mm重機関銃M2×1
        7.62mm機関銃FN-MAG×3
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「世界の戦車イラストレイテッド26 メルカバ主力戦車 MKs I/II/III」 サム・カッツ 著  大日本絵画
・「パンツァー2000年12月号 メルカバMk.3 vs T-80UM戦車」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年11月号 メルカバ戦車の開発と発展」 斎木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年5月号 ステップアップを続けるメルカバ戦車」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート18 メルカバとイスラエルMBT」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2011〜2012」  アルゴノート社
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「決定版 世界の最強兵器FILE」 おちあい熊一 著  学研
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「徹底解説 世界最強7大戦車」 斎木伸生 著  三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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