+構造
マルダーI対戦車自走砲の車台はロレーヌ37L装甲輸送・牽引車のものをそのまま流用していたが、貨物室の最前部に車台左右の内壁と床板に架台を固定して、これに砲架ごと7.5cm対戦車砲PaK40を載せた。
この変更に伴い、マルダーIの主砲は「PaK40/1」と改称されている。
また戦闘室は全周10mm厚の圧延防弾鋼板を溶接して形成されたが、アルケット社の手になる他のフランス軍戦車をベースとした自走砲に共通して、下部側面を外側に張り出すことで内部容積の拡大を図っていた。
また前面装甲板は、主砲の俯仰角と旋回角の確保のために左右に分割されて中央部に空間を設け、開口部は主砲の機関部に取り付けられた金属支柱に、10mm厚で外装式の防盾が固定された。
なお外装式防盾の左右部分はヒンジを用いて分割され、左右に主砲を振った際に戦闘室の前面装甲板で旋回角を制限されないよう、可動式となっていた。
この外装式防盾も、中央に間隔を空けて左右に分割され俯仰角を確保したが、砲身上方のみ弾片防御のため上下スライド式装甲板を装着するなど、結構凝ったレイアウトが採られていた。
なお左側の防盾には、倍率3倍/視野角8度の照準機用として開口部が設けられ、開口部は上下に分割されて砲手の操作により上部のみスライドして上に開く、装甲カバーが設けられていた。
なお主砲の旋回角は左右各20度ずつで、-8~+10度の俯仰角を備えていた。
マルダーIの主砲である7.5cm対戦車砲PaK40/1は、Pz.Gr.39風帽付被帽徹甲榴弾(弾頭重量6.8kg)を用いた場合砲口初速792m/秒、射距離100mで106mm、500mで96mm、1,000mで85mm、1,500mで74mm、2,000mで64mmのRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能であった(傾斜角30度)。
さらに、タングステン弾芯のPz.Gr.40硬芯徹甲弾(弾頭重量4.1kg)を用いた場合には砲口初速933m/秒、射距離100mで143mm、500mで120mm、1,000mで97mm、1,500mで77mmのRHAを貫徹することができた(傾斜角30度)。
また戦闘室の後面装甲板は、前面と同様に中央部を開けたスタイルで左右に分けられ、下半分は下方開き式の乗降用ドアが装着された。
さらに後面装甲板の下部左側には、乗降用のステップが装着されて乗降の便を図っていた。
戦闘室内には車長と砲手、そして装填手の3名が収まったが、主砲操作の便を考慮して装填手が追加搭乗した例も結構確認できる。
しかしベースとなったロレーヌ37Lが元々小柄な車両なので、4名が収まるとかなり手狭となるのは否めなかった。
主砲弾薬は主砲架台の後方に、前後3個の弾薬庫を設けてそれぞれに6発を立てた状態で収め、加えて左後部の床上に30発を収める弾薬庫が設けられたことで、小柄な車両ながら主砲弾薬搭載数は48発と意外なほど多かった。
砲手席後方にあたる壁面には無線機のラックが装着されて、受信専用のFu.Spr.a無線機が収められ、戦闘室後面の右端にはアンテナとその基部が設けられた。
戦闘室の前方には、それぞれ吸気ダクトを備える左右開き式の機関室点検用ハッチが配され、その後方にあたる戦闘室下部に開口された縦長のスリットから、ラジエイターからの熱気を車外に排出した。
このレイアウトはオリジナルのロレーヌ37Lに準じるが、車体側面と戦闘室側面の間には当然ながら間隔が生じているため、何らかの形で内部にはダクトが設けられていたと思われる。
また機関室の左側には円筒形のマフラーが装着され、放熱用のスリットを備える金属製のカバーで周囲が覆われたが、これはオリジナルそのままである。
そして機関室上面の最前部には、走行中に主砲に生じる振動への対処として支柱を組み合わせたトラヴェリング・クランプを備えていたが、その下方にあたる操縦室左側に配された操縦手のロッド操作で、車外に出ること無く車内からクランプを解除し、後方に倒す機械的機構が備えられていた。
操縦室前面には、上方開き式の大型装甲ヴァイザーが2枚並列に装着されていたが、中央部で左右を結合することで1枚の大型ヴァイザーとして用いることも可能だった。
また左側ヴァイザーの下方には視察用の細いスリットが設けられていたが、走行中は片側もしくは左右一体としてヴァイザーを開くことでさらなる視界向上を可能としていた。
なおこの配置に伴い、操縦室の左側面のみ視察用として細いスリットが配されて、また操縦室の前方には前方に開く車台幅一杯の乗降用ハッチが配され、このハッチと装甲ヴァイザーを開いて操縦手は車内に収まった。
操縦手席の右側には変速・操向機がオフセットして置かれていたが、操縦手席との間隔は極めて狭く、操縦手は熱気と騒音に苦しめられたことは想像に難くない。
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