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マルダー歩兵戦闘車





西ドイツ陸軍は1950年代末に、当時フランス陸軍と共同で開発を進めていた新型主力戦車(後のレオパルト1戦車)に随伴して行動する歩兵戦闘車の開発を企画したが、西ドイツ陸軍では同時期に対戦車車両、偵察車両、その他各種支援車両の開発も計画されていたため、開発コストを抑えるためにこれらは共通の車体を用いてファミリー化することになった。

そしてファミリーの基本となる新型歩兵戦闘車の設計が、1960年1月にラインシュタール・ハノマーク社を中心とするラインシュタール・グループと、ヘンシェル社およびスイスのモヴァーク社による共同グループの2チームに対して発注された。
これを受けて両チームは同年中に第1次試作車を開発したが、1967年に第3次試作車の開発が始められる頃にはラインシュタール・グループが主導的立場を取るようになり、1967〜68年に先行生産型10両が完成している。

1968年10月に部隊運用試験のため西ドイツ陸軍に引き渡された先行生産型は1969年3月まで試験に供され、1969年5月には「マルダー」(Marder:貂)という制式名称も与えられ、1969年10月にはラインシュタール社を主契約者として西ドイツ陸軍との間に生産契約が結ばれ量産に入っている。

マルダー歩兵戦闘車の量産ラインはラインシュタール社とMaK社(Maschinenbau Kiel:キール機械製作所)の2カ所に作られ、当初は1,926両の発注だったが1974年には210両の追加発注を受け、1975年には2,136両の全生産を終了している。
マルダー歩兵戦闘車は固有の乗員3名に加え、車体後部の兵員室に6名の完全武装歩兵を乗車させることができ、兵員室の左右側面には各2基ずつモヴァーク社製のボールマウント式ガンポートが配されている。

歩兵の出入り口は車体後方部分で、ランプ式のハッチを使用する。
車体中央部に搭載された2名用の全周旋回式砲塔には、オーバーヘッド式にラインメタル社製の100口径20mm機関砲MK20 Rh202が装備されている他、同軸機関銃の7.62mm機関銃MG3とサーチライトが装備されている。
また車体後部には当初、リモコン式の7.62mm機関銃架が設けられていた。

マルダー歩兵戦闘車は生産終了後、1977〜79年にかけて砲塔右側の車長用ハッチ前方部にミラン対戦車ミサイルの発射機を取り付ける改修を受け、また1979〜82年にかけては、火力強化と暗視能力の向上を狙ったA1/A1A型への改修が全配備車に対して実施されている。
A1型では砲手用のサイトが光量増幅式夜間サイトを組み込んだ大型のものとなり、砲塔左側面には熱源探知装置も備えられている。

さらに1984〜89年にかけてはA1A型に対し車体後部のリモコン式機関銃架の廃止、熱線暗視装置を組み込んだ砲手用サイトの装備などの改修が加えられ、A2型という名称が与えられている。
そして1989年以降は、装甲防御力の強化を主眼とするA3型への改修が実施されている。
このA3型では車体と砲塔の主要部分に増加装甲板が取り付けられるようになり、これによる5tの重量増加に対処するため駆動系にも手が加えられ、兵員室上面のハッチは大型のもの3個に改められている。

また、その頃から効果が取り沙汰されていた兵員室側面のガンポートは全廃され、側面部分には大型の収納箱が取り付けられるようになった。
それまで砲塔に組み込まれていた7.62mm機関銃MG3は外部装備とされ、砲塔内の操作性や居住性が改善されている。

マルダー歩兵戦闘車の派生型としては砲塔を外して自走レーダーを搭載したものや、ローラント対空ミサイルの発射機を左右に備えるミサイル・ターレットを搭載したものも開発されている。
また1980年代末には後継のマルダー2歩兵戦闘車の開発が開始され、1991年9月には試作第1号車が完成し750両の調達が計画されたが、1990年に東西ドイツが統合されたことによる資金難から結局計画はキャンセルされてしまった。


<マルダー歩兵戦闘車>

全長:    6.79m
全幅:    3.24m
全高:    2.86m
全備重量: 28.2t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  MTU MB833Ea-500 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,200rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 520km
武装:    100口径20mm機関砲MK20 Rh202×1 (1,250発)
        7.62mm機関銃TPA-1×1 (5,000発)
        7.62mm機関銃MG3×1
装甲厚:


<マルダーA2歩兵戦闘車>

全長:    6.79m
全幅:    3.24m
全高:    2.99m
全備重量: 29.2t
乗員:    3名
兵員:    6名
エンジン:  MTU MB833Ea-500 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,200rpm
最大速度: 75km/h
航続距離: 520km
武装:    100口径20mm機関砲MK20 Rh202×1 (1,450発)
        7.62mm機関銃MG3×1 (5,000発)
        ミラン対戦車ミサイル発射機×1 (4発)
装甲厚:


<マルダーA3歩兵戦闘車>

全長:    6.88m
全幅:    3.38m
全高:    3.02m
全備重量: 33.7t
乗員:    3名
兵員:    5名
エンジン:  MTU MB833Ea-500 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,200rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 500km
武装:    100口径20mm機関砲MK20 Rh202×1 (1,450発)
        7.62mm機関銃MG3×1 (5,000発)
        ミラン対戦車ミサイル発射機×1 (4発)
装甲厚:


<マルダーA5歩兵戦闘車>

全長:    6.88m
全幅:    3.38m
全高:    3.02m
全備重量: 37.5t
乗員:    3名
兵員:    5名
エンジン:  MTU MB833Ea-500 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 600hp/2,200rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 500km
武装:    100口径20mm機関砲MK20 Rh202×1 (1,450発)
        7.62mm機関銃MG3×1 (5,000発)
        ミラン対戦車ミサイル発射機×1 (4発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2008年1月号 特集 マルダー戦闘兵車」 竹内修/三鷹聡/柘植優介 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年5月号 防禦力強化が進む最近の戦闘兵車」 齋木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2004年3月号 AFV比較論 マルダー vs AMX10P」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2007年3月号 マルダー戦闘兵車 インアクション」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 ドイツ陸軍の主要車輌」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年8月号 ドイツAFV インアクション」  アルゴノート社
・「パンツァー2011年6月号 今月のトピックス」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「最新&最強 世界の兵器」 おちあい熊一/野木恵一 共著  学研
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版


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