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M75装甲兵員輸送車





アメリカ陸軍は1945年4月に、27名の兵員を収容することができる大型装軌式装甲車の開発計画を「T16」の呼称でスタートしたが、このT16装甲車とその生産型であるM44装甲車を運用した結果、これからの兵員輸送用装甲車は1個分隊を構成する12名を収容できれば充分であり、M44装甲車はオーバーサイズであるという結論が導き出された。

このためM44装甲車の生産は早々に打ち切られることになり、戦後間もない1945年9月21日から「T18」の呼称で12名の兵員を収容する新型装軌式装甲車の開発計画がスタートしたが、車台には1945年4月19日付で開発が始められていたT43貨物輸送車のものが流用された。
T18装甲車への変身に際して、サスペンションは垂直コイル・スプリングからトーションバー(捩り棒)方式に改められたが、T43貨物輸送車も同様にサスペンションをトーションバー方式に改めたT43E1に発展している。

T18装甲車の開発は、1946年9月26日に試作車4両が発注されて本格化した。
本車は当時「AUV」(Armored Utility Vehicle:汎用装甲車)に分類されており、IHC社(International Harvester Company:国際収穫機企業)が開発を担当したが、4両製作された試作車は装備等が車両により異なっており、このため外観にも若干の変化が見られた。

まず1947年に入って完成した実物大モックアップでは車体前部左側に正操縦手席、前部右側に副操縦手席を配し、車体中央部に機関室を置き、その後方に車長席が配されているのはT16装甲車と同様だったが、車長席の左右には銃手席が設けられており、車体上面に装備された遠隔操作式の12.7mm重機関銃の操作に当たった。
12.7mm重機関銃の照準は銃手席と車長席に装備された照準機が用いられ、車長も射撃を行うことが可能となっていた。

車体最後部は兵員室となっており、兵員室内には4基のシートが置かれ総乗員数は14名となっていた。
完成した試作車はモックアップのレイアウトを基本としていたが、前述のように装備が各車で若干変化していた。
「T18E1」と呼ばれた試作第1号車は、モックアップと同じく遠隔操作式の12.7mm重機関銃を装備していたが、副操縦手席は廃止され(この副操縦手席の廃止は他の試作車にも共通する)、「T18E2」と呼ばれた試作第2号車では遠隔操作式の12.7mm重機関銃が姿を消し、車長用キューポラは背の高いものに換装されている。

「T18E3」と呼ばれた試作第3号車は、この車長用キューポラに7.62mm機関銃もしくは12.7mm重機関銃を装備することが可能となっていた。
なお、試作第4号車の「T18E4」についての詳細は不明だがT18E3と大差無いものと思われ、いずれの車両も後部兵員室のシートは3基に減り総乗員数は12名となっていた。

当初武装を持たない状態で完成したT18E1だが、後に車長用キューポラをT18E2から採用された背の高いものに換装し12.7mm重機関銃を装備した。
その後、7.62mm機関銃を内蔵して車内から射撃ができるT10キューポラに再び換装され、さらに武装を12.7mm重機関銃に替えたM13キューポラに再換装されて試験に供されている。

いずれの車両も車体後面には2枚の大きなドアが設けられ、車体上面左右にも独立した折り畳み式ハッチが備えられ、さらには車体右側面にもドアを装着して乗員の乗降の便を図っていた。
機関系にはコンティネンタル社製のAO-859-2 水平対向6気筒空冷ガソリン・エンジン(出力375hp)と、アリソン社製のCD-500変速機(前進2段/後進1段)が組み合わされていた。

さらに1950年1月には先行生産型5両が発注されたがこれは後に2両に減らされて、残る3両はコスト低減型のT73装甲車の試作車に振り向けられている。
試験の結果はT18E1がベストと判定され、1951年1月18日に「M75」として制式化が行われたが、これと時期を同じくして車両分類は「AUV」から「APC」(Armored Personnel Carrier:装甲兵員輸送車)へと変更されている。

M75装甲兵員輸送車の生産はIHC社に対して1,000両、FMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)に730両がそれぞれ発注されて開始されたが、その後FMC社に対して10両が追加発注されているのでその生産数は1,740両となるが、この中には試作車4両と先行生産型2両が含まれている。
前述のようにM75装甲兵員輸送車はT18E1の生産型であるが、車体上面のハッチは折り畳み機構が廃止されてサイズも小型になり、車体右側面のドアの窪みが無くなるなど細部には変化が見られる。

また生産中に多くの車両でサンド・シールドが廃止され、後期生産車ではそれまでの2個の289リットル容量のゴム製燃料タンクが、568リットル容量に大型化された金属製タンクに改められる等、改良が図られている。
M75装甲兵員輸送車は戦後型APCとしてはそれなりに成功を収めた車両であり、一部の車両は実用試験を兼ねて朝鮮戦争に投入されており満足すべき性能を発揮している。


<M75装甲兵員輸送車>

全長:    5.194m
全幅:    2.845m
全高:    2.756m
全備重量: 18.824t
乗員:    2名
兵員:    10名
エンジン:  コンティネンタルAO-859-4 4ストローク水平対向6気筒空冷ガソリン
最大出力: 375hp/2,800rpm
最大速度: 70.81km/h
航続距離: 185km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (1,800発)
装甲厚:   12.7〜25.4mm


<参考文献>

・「パンツァー2013年5月号 AFV比較論 一式装甲兵車 vs M75」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 ベルギー軍AFV 1970〜2010」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2019年9月号 テキサス州兵博物館に行ってきた★」  アルゴノート社
・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2021年12月号 M41軽戦車シリーズ」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版


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