アメリカ陸軍の戦後第2世代MBTとして1950年代末に実用化されたM60スーパー・パットン戦車は、現在では旧式化してしまっており、アメリカ陸軍では戦後第3世代MBTであるM1エイブラムズ戦車に置き換えられ、大部分が退役している。 しかし第3世代MBTは非常に高価で簡単には購入できないため、世界25カ国の軍隊において現在もM60戦車シリーズが主力MBTとして使用され続けている。 そこで旧式のM60戦車を、2000年代にも通用するMBTに近代化改良するプログラムが幾つも公表されている。 最近、M1エイブラムズ戦車の製造メーカーであるGDLS(ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ)社が、少なくともM1A1戦車レベルに匹敵するM60戦車の改良モデルを提案した。 これが「M60-2000」と呼ばれる試作案で、トルコ陸軍が1990年代末に計画したM60戦車の後継MBT調達計画(1,000両規模)に参加するために企画されたといわれる。 M60-2000戦車の基本コンセプトは、既存のM60戦車の車体に120mm滑腔砲を装備するM1A1戦車の砲塔を搭載し、2000年代に通用するMBTに仕立て上げようというもので、車体と砲塔にはさらに手が加えられる。 もちろん費用は、新品のM1A1戦車を買うよりずっと安く済む。 M60-2000戦車の砲塔は、M1A1戦車のものがそのまま用いられている。 砲塔前面の装甲は、1991年の湾岸戦争地上戦で貫徹されることの無かった複合装甲が組み込まれている。 M60-2000戦車の戦闘重量はM60A1戦車に比べて約8tも増えているが、その大半は装甲が増加した分だといえよう。 主砲は当然、M1A1戦車と同じアメリカ製の44口径120mm滑腔砲M256である。 120mm砲弾は砲塔に36発、車体に6発搭載できる。 FCS(射撃統制システム)はM1A1戦車と同系のもので、砲手用サイトにはレーザー測遠機、熱線映像装置が内蔵されている。 そして車長用サイトには、最新型のM1A2戦車が装備しているCITV(Commander's Independent Thermal Viewer:車長用独立熱線映像装置)を採用している。 このシステムの搭載によってM60-2000戦車は、夜間・悪天候であっても砲手が標的を攻撃し、同時に車長が他の敵を捜索できるようになるのである(ハンター・キラー能力の獲得)。 M60-2000戦車は、機関系とサスペンションについても改良が加えられている。 パワーパックは、GDLS社製のAVDS-1790-9 V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)と、アリソン社製のX-1100-5自動変速機(前進4段/後進2段)の組み合わせに変更される。 サスペンションはM1A1戦車と同じトーションバーあるいは、荒れ地での踏破性に優れたGDLS社製の油気圧式サスペンションが採用される。 この高性能ハイパワーになった足周りにより、M60-2000戦車は機動力についても従来のM60戦車シリーズに比べて飛躍的にパワーアップすることになる。 戦車の機動力を表示するのに利用される出力/重量比を比較すると、M60A1戦車の15.6hp/tに対して、M60-2000戦車は21.3hp/tと大幅に向上しているのが分かる。 路上最大速度についてもM60A1戦車の48.3km/hに対して、M60-2000戦車では61.6km/hと実に28%もアップするのである。 クロスカントリーでも、平均40km/hのスピードを維持できるという。 加速性能は、32km(20マイル)/hまで9.2秒と素早い。 このようにGDLS社の提案するM60-2000戦車は、既存の最新システムを旧式なM60戦車に組み込むだけで安価に、M1A1戦車クラスのMBTを確実に実現できる戦車プランといえるであろう。 そしてその潜在的な需要は、現在もM60戦車シリーズを運用している25カ国にあるともいえる。 |
<M60-2000戦車> 全長: 9.54m 全幅: 3.77m 全高: 2.89m 全備重量: 56.25t 乗員: 4名 エンジン: GDLS AVDS-1790-9 4ストロークV型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,200hp/2,400rpm 最大速度: 61.6km/h 航続距離: 443km 武装: 44口径120mm滑腔砲M256×1 (42発) 12.7mm重機関銃M2×1 (1,000発) 7.62mm機関銃M240×2 (12,400発) 装甲: 複合装甲 |
<参考文献> ・「パンツァー2008年3月号 M60戦車の40年」 佐藤慎ノ亮/竹内修 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年4月号 MBTのアップグレード」 二木巌 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年3月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「世界の主力戦車カタログ」 三修社 |