ドイツ軍のIII号突撃砲のイタリア版といえるセモヴェンテ(Semovente:イタリア語で突撃砲を意味する)シリーズは、当初歩兵を支援して強固なトーチカや陣地などを排除し、歩兵の突入を容易に行えるよう計画されたものであり、この任務はIII号突撃砲と全く同一であった。 しかしドイツ軍のIII号突撃砲が歩んだのと同様に、セモヴェンテもまた本来の目的であった歩兵支援より、その強力な火力と装甲、視認性の低いシルエットを活かして対戦車戦闘に投入されるようになったのである。 北アフリカ戦に参加したセモヴェンテは、連合軍の戦車と互角以上に戦うことができる対戦車車両として高い評価を受けたが反面、開発当初の目的であった歩兵支援はほとんど行うことができなくなってしまったのである。 この推移もIII号突撃砲と同じであり、このため新たに歩兵支援用の突撃砲の開発が1942年秋頃から開始され、その具現化として登場したのがセモヴェンテM42L da 105/25であった。 主砲として選ばれたのはアンサルド社製の牽引式25口径105mm榴弾砲で、当時イタリア軍が師団レベルで用いていたポピュラーなものであった。 ベース車体には当初、イタリア軍初の重戦車として開発を進めていたP40重戦車が用いられる予定であったが、P40重戦車の開発は大きく遅れてしまい、このためベース車体を開発が最終段階に入っていた、イタリア軍最後の制式中戦車となるM15/42中戦車に変更して開発を行うことになった。 大柄なP40重戦車の車体を用いるのであればそのままで問題は無かったが、比較的小柄なM15/42中戦車の車体に105mm砲をそのまま搭載することは砲手と装填手、そして弾薬などの収容スペースを考えると不可能であった。 このため、車体幅を約17cm拡大した「M43」と呼ばれる改修型車体が用いられることになった。 車体上部にはセモヴェンテ・シリーズに共通する、箱型に装甲板を組み合わせた背の低い密閉式の固定戦闘室が搭載されたが、内部スペースの確保のため左右フェンダーの幅いっぱいに広げられており、いっそう精悍なシルエットに変化した。 またフェンダーには全長に渡るサイドスカートが取り付けられるようになり、イタリア兵はその幅広で低車高のシルエットから、本車を「ダックスフント」の愛称で呼んでいたということである。 主砲の25口径105mm榴弾砲は、戦闘室前面中央に内防盾を有するジンバル式砲架を介して限定旋回式に搭載された。 砲の旋回角は左右各19度ずつで、俯仰角は−12〜+22度となっていた。 ベースとなったM15/42中戦車の車体前面は丸型に整形された装甲板を用いていたが、本車では耐弾性の強化と生産性の向上を図って、上下に平面装甲板を楔形に配した形状に改められた。 各部の装甲厚は車体が前面50mm、側/後面25mm、上/下面15mm、戦闘室が前面75mm、側面45mm、後面25mm、上面15mmとなっていた。 試作車の完成を待たずに、本車は1943年2月に「セモヴェンテM42L da 105/25」の名称で30両が発注されて生産が開始された。 本車は同年9月にイタリアが連合軍に降伏するまでに少なくとも26両が生産されており、降伏直前にアリエテ機甲師団の砲兵連隊に配備されて、イタリア降伏後にローマ郊外でドイツ軍と戦っている。 これらのセモヴェンテM42L da 105/25は後にドイツ軍に捕獲され、「シュトゥルムゲシュッツM43 mit 105/25 853(i)」の捕獲兵器名称が与えられた。 また他のセモヴェンテなどと同様に、北イタリアの工業地帯を占領しているドイツ軍の指示により本車の再生産が行われ、1944年半ばまでに61両が完成し、慢性的な支援火力不足に苦しむドイツ軍の機甲師団において使用されることになった。 また主砲の代わりに13.2mmブレダM31重機関銃を装備し、所要の機材を搭載した指揮車型も作られているが、その生産数や詳細については全く不明である。 さらにセモヴェンテM42L da 105/25をベースとして、ドイツ軍の管理下に北イタリアで開発された火力強化型が「セモヴェンテM42T da 75/46」の名称で制式化されている。 この車両はイタリア軍の75mm高射砲をベースとする46口径75mm戦車砲を装備し、ドイツ軍の7.5cm対戦車砲PaK40の弾薬を使用できるように薬室を改修したもので、1944年から生産が始まったが1945年5月のドイツ降伏までにわずか11両が完成したに留まった。 |
|||||
<セモヴェンテM42L da 105/25> 全長: 5.10m 全幅: 2.40m 全高: 1.75m 全備重量: 15.8t 乗員: 3名 エンジン: フィアットSPA 15TB-M42 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 192hp/2,400rpm 最大速度: 38km/h 航続距離: 180km 武装: 25口径105mm榴弾砲×1 (48発) 8mmブレダM38機関銃×1 (864発) 装甲厚: 15〜75mm |
|||||
<参考文献> ・「パンツァー2014年6月号 第二次大戦のイタリア軍を支えた自走砲たち セモベンテ・シリーズ」 久米幸雄 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年5月号 イタリア戦車 その誕生と苦難の歩み」 吉川和篤 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年5月号 イタリア軍セモベンテ・シリーズ」 稲田美秋 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年3月号 セモベンテ大口径砲シリーズ」 水上眞澄 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2023年6月号 イタリア軍写真集(17)」 吉川和篤 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2023年8月号 イタリア軍写真集(19)」 吉川和篤 著 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917〜1945」 デルタ出版 ・「第2次大戦 イタリア軍用車輌」 嶋田魁 著 ガリレオ出版 ・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー |
|||||