| M3中戦車
 
 
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      | +概要 
      アメリカ陸軍は1930年代に様々な試作戦車を製作し、戦車の基本的要素であるエンジン、サスペンション等の研究を続け、1940年の時点ではその集大成であるM2A1中戦車を実用化させていた。
 1940年5月10日にドイツ軍の西方電撃戦が開始されると、M2A1中戦車の大量生産が計画された。
 しかしポーランド、フランスでの戦訓から、M2A1中戦車が装備する37mm戦車砲では威力不足であると判断され、急遽75mm戦車砲を装備する新型中戦車の開発が求められることになった。
 
 それまでの経験から、旋回式砲塔に75mm戦車砲を装備するのが最適ということは分かっていたものの、当時のアメリカはまだこのような大口径砲を旋回式砲塔に装備した戦車を開発した経験が無かったため、不利を承知で車体に限定旋回式に75mm戦車砲を装備する中戦車を開発することが1940年6月に決定された。
 ただし、これは75mm砲搭載戦車を早急に戦力化するための暫定的な措置であり、本命である旋回式砲塔に75mm戦車砲を装備する中戦車が実用化され次第、速やかにそちらに生産を移行させることが予定されていた。
 
 1940年8月28日に、イリノイ州のロックアイランド工廠に対してこの暫定的な75mm砲搭載中戦車M3の開発が指示され、M2中戦車シリーズを開発したミシガン州オーバーンヒルズのクライスラー社の技術協力を得て1941年3月には設計を完了し、これにわずかに遅れて試作車も完成を見せている。
 M3中戦車の主砲には75mm戦車砲M2が採用され、戦闘室前部右側のスポンソン(張り出し砲座)に収められた。
 
 これは旧式野砲(フランスのAPX社製の75mm野砲M1897)を車載用に改造したもので、対戦車戦闘よりも敵の対戦車砲や機関銃陣地、非装甲部隊を榴弾で制圧する用途に適していた。
 75mm戦車砲M2は28.5口径長で、砲口初速は564m/秒であった。
 M3中戦車の後期生産車では、M4中戦車の初期生産車にも採用された長砲身タイプの75mm戦車砲M3が搭載され、対戦車戦闘にも充分使用できるようになった。
 
 75mm戦車砲M3は37.5口径長で砲口初速619m/秒、M72徹甲弾を使用した場合、射距離1,000mで76mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することができた。
 M3中戦車の後期生産車はドイツ軍のIII号戦車やIV号戦車短砲身型を上回る火力を備えていたが、主砲の旋回角が左右各15度ずつに制限されていたため、この射界の狭さが運用上の大きな欠点となってしまった。
 
 ドイツ軍はすぐにこの弱点を把握し、M3中戦車の主砲が旋回できない方向に戦車を回り込ませて攻撃するのが常套手段となった。
 M3中戦車の戦闘室上面には、副砲の37mm戦車砲(50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6)を収める小型の全周旋回式砲塔が搭載され、さらにこの砲塔の上には7.62mm機関銃M1919A4を装備する車長用キューポラが装着されていたため、本車は非常に背が高く遠くからでも敵に発見され易かった。
 
 この背の高さも、M3中戦車の大きな欠点の1つであった。
 M3中戦車は、全周旋回式砲塔に装備する副砲の37mm戦車砲を対戦車戦闘時の主武装として用いることを想定していたが、この砲はドイツ軍戦車に対しては火力不足であり、かといって主砲の75mm戦車砲は射界が狭く、対戦車戦闘には使い難いという実用性の低い戦車であった。
 しかも2門の戦車砲を装備したことで、M3中戦車は乗員が7名も必要であった。
 
 M3中戦車の車体後部は機関室となっており、ニュージャージー州パターソンのライト航空産業が開発した「ワールウィンド」(Whirlwind:旋風)R-975-EC2
      航空機用星型9気筒空冷ガソリン・エンジン(出力400hp)を搭載していた。
 このR-975エンジンはM3中戦車や後継のM4中戦車に大量に用いられたが、ライト社だけでは必要数を供給できず、より大きな生産設備を持つアラバマ州モービルのコンティネンタル発動機により大量にライセンス生産されている(生産数はライト社が約7,000基、コンティネンタル社が約53,000基)。
 
 星型エンジンはV型エンジンや直列エンジンに比べて背が高いため、これを搭載したM3/M4中戦車は他国の同クラスの戦車に比べて背が高くなってしまったが、アメリカ陸軍は早期に大量調達できることを優先してR-975エンジンを採用し、背が高くなる欠点には目をつぶった。
 アメリカ陸軍の当初の計画ではM3中戦車の生産は少数に抑え、旋回式砲塔に75mm戦車砲を装備する本命の新型中戦車(後のM4中戦車)の量産に移行する予定であった。
 
 しかし時すでに、北アフリカにおいてイギリス軍が大苦戦しており、1941年6月にイギリスから派遣された戦車購買団は、性能的には不満もあるがすぐに入手できるM3中戦車に注目し大量に発注した。
 イギリス軍向けの車両では、37mm戦車砲を装備する砲塔がより背が低い鋳造製のものに改められた。
 またイギリス軍では戦車の砲塔に無線機を搭載するのが慣例であったため、砲塔後部には無線機を収容するためのバスルが設けられた。
 
 そして全高を抑えるために、砲塔上部の車長用キューポラは廃止された。
 イギリス軍では自軍向け仕様のM3中戦車を、南北戦争時の北軍の陸軍総司令官ユリシーズ・S・グラント大将に因んで「ジェネラル・グラント」、アメリカ軍仕様のM3中戦車を南軍の陸軍総司令官ロバート・E・リー大将に因んで「ジェネラル・リー」と呼んだ。
 
 M3中戦車の生産は1941年4月に開始された。
 本命であるM4中戦車の量産が軌道に乗るまでのストッパー役として、M3中戦車はフルスケールの量産が求められたため、クライスラー社などの民間工場が主体となり1942年12月までに全モデル計6,258両を出荷した。
 その内イギリスに2,653両、ソ連に1,386両が供与された。
 
 軍需総動員態勢の立ち上がり段階でありながらこれだけの急速量産が可能だったのは、アメリカの民間工場の裾野の広さもあるが、世界最高水準の精密計測による品質管理がドイツ・イギリス両国にはるか先駆けて普及していたという質的要因が大きい。
 これにより、アメリカ陸軍の調達計画部局はどの地方のどの民間工場にどの部品を分業させても、設計図通りの狂いの無い部品納入を期待できたのである。
 
 M3中戦車は後継のM4中戦車の出現により、1941年10月には「代替制式兵器」(性能は標準型に劣るが代用は可能)とされ、1943年4月には「限定制式兵器」(訓練用には使用可)に、1944年4月には「使用不適兵器」となった。
 1942年には北アフリカのイギリス第8軍にM3中戦車が送られ、同年5月のガザラの戦いで初めて実戦に投入された。
 
 翌43年まで、M3中戦車は同地でイギリス軍の主力戦車として活躍した。
 アメリカ軍ではM3中戦車はほとんどが訓練用に回されたが、太平洋方面では1943年11月のギルバート諸島の攻撃に使われた。
 またビルマでも、イギリス第14軍に少数が配備されている。
 
 イギリス軍にM4中戦車が供与されるようになると、それまで同軍が装備していたM3中戦車はオーストラリア軍に引き渡され、1945年まで太平洋方面で使われている。
 M3中戦車のモデルは合計6種類あるが、その主力は4,924両が生産されたM3だった。
 イギリスに供与されたM3中戦車は大部分がこのタイプであり、イギリス軍では「グラントI」と呼称された。
 M3A1はM3の車体を鋳造製に改めたもので、300両が生産された。
 
 M3A2はM3の車体をリベット接合式から溶接式に改めたもので、12両が試験的に生産された。
 M3A3は、M3A2のエンジンをミシガン州デトロイトのジェネラル・モータース社製の6046 直列12気筒液冷ディーゼル・エンジンに換装したもので、322両が生産された。
 このタイプは一部がイギリスに供与されており、イギリス軍では「グラントVII」と呼称されたが実戦には参加していない。
 
 M3A4は、M3のエンジンをクライスラー社製のA57マルチバンク30気筒液冷ガソリン・エンジンに換装したもので、エンジンが大型なために車体後部が延長されており109両が生産された。
 M3A5はM3A3の車体をリベット接合式にしたもので、591両が完成している。
 このタイプも一部がイギリスに供与されており、イギリス軍では「グラントIX」と呼称され少数が実戦に参加している。
 
 
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      | <M3中戦車>
 
 全長:    5.639m
 全幅:    2.718m
 全高:    3.124m
 全備重量: 27.896t
 乗員:    7名
 エンジン:  ライトR-975-EC2 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
 最大出力: 400hp/2,400rpm
 最大速度: 38.62km/h
 航続距離: 193km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×4 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜50.8mm
 
 
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      | <M3A1中戦車>
 
 全長:    5.639m
 全幅:    2.718m
 全高:    3.124m
 全備重量: 28.577t
 乗員:    7名
 エンジン:  ライトR-975-EC2 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
 最大出力: 400hp/2,400rpm
 最大速度: 38.62km/h
 航続距離: 193km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×4 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜50.8mm
 
 
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      | <M3A2中戦車>
 
 全長:    5.639m
 全幅:    2.718m
 全高:    3.124m
 全備重量: 27.397t
 乗員:    7名
 エンジン:  ライトR-975-EC2 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
 最大出力: 400hp/2,400rpm
 最大速度: 38.62km/h
 航続距離: 193km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×4 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜50.8mm
 
 
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      | <M3A3中戦車>
 
 全長:    5.639m
 全幅:    2.718m
 全高:    3.124m
 全備重量: 28.577t
 乗員:    7名
 エンジン:  GM 6046 2ストローク直列12気筒液冷ディーゼル
 最大出力: 410hp/2,900rpm
 最大速度: 48.28km/h
 航続距離: 241km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×4 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜50.8mm
 
 
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      | <M3A4中戦車>
 
 全長:    6.147m
 全幅:    2.642m
 全高:    3.124m
 全備重量: 29.03t
 乗員:    7名
 エンジン:  クライスラーA57 4ストローク30気筒液冷ガソリン
 最大出力: 425hp/2,850rpm
 最大速度: 40.23km/h
 航続距離: 161km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×4 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜50.8mm
 
 
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      | <M3A5中戦車>
 
 全長:    5.639m
 全幅:    2.718m
 全高:    3.124m
 全備重量: 29.03t
 乗員:    7名
 エンジン:  GM 6046 2ストローク直列12気筒液冷ディーゼル
 最大出力: 410hp/2,900rpm
 最大速度: 48.28km/h
 航続距離: 241km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×4 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜50.8mm
 
 
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      | <グラントI中戦車>
 
 全長:    5.639m
 全幅:    2.718m
 全高:    3.023m
 全備重量: 27.896t
 乗員:    6名
 エンジン:  ライトR-975-EC2 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
 最大出力: 400hp/2,400rpm
 最大速度: 38.62km/h
 航続距離: 193km
 武装:    28.5口径75mm戦車砲M2または37.5口径75mm戦車砲M3×1 (50発)
 50口径37mm戦車砲M5または53.5口径37mm戦車砲M6×1 (178発)
 7.62mm機関銃M1919A4×3 (9,200発)
 装甲厚:   12.7〜76.2mm
 
 
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      | 兵器諸元(M3中戦車)
 兵器諸元(M3A5中戦車)
 兵器諸元(グラントI中戦車)
 
 
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      | <参考文献>
 
 ・「世界の戦車イラストレイテッド36 M3リー&グラント中戦車 1941〜1945」 スティーヴン・ザロガ 著  大日本絵
 画
 ・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著  大日本絵画
 ・「パンツァー2018年9月号 偉大なる平凡戦車 M4シャーマン中戦車」 宮永忠将 著  アルゴノート社
 ・「パンツァー2006年10月号 M3中戦車 vs シャールB1戦車」 白石光 著  アルゴノート社
 ・「パンツァー1999年6月号 III号戦車J/L型 vs M3中戦車」 白石光 著  アルゴノート社
 ・「パンツァー2010年10月号 M3中戦車リー/グラント」 荒木雅也 著  アルゴノート社
 ・「パンツァー2012年6月号 M3中戦車のファミリー車輌」 平田辰 著  アルゴノート社
 ・「グランドパワー2010年7月号 M3リー/グラント中戦車(1)」 丹羽和夫 著  ガリレオ出版
 ・「グランドパワー2010年10月号 M3リー/グラント中戦車(2)」 丹羽和夫 著  ガリレオ出版
 ・「グランドパワー2020年11月号 M3リー/グラント(1)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
 ・「グランドパワー2021年3月号 戦場のM3中戦車(1)」 桑原敬 著  ガリレオ出版
 ・「グランドパワー2007年11月号 M4シャーマン(1)」 古是三春 著  ガリレオ出版
 ・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」  ガリレオ出版
 ・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」  デルタ出版
 ・「戦車名鑑 1939〜45」  コーエー
 
 
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