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M113A2装甲兵員輸送車





●M113A2装甲兵員輸送車

FMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)は、M113A1装甲兵員輸送車を生産する一方で積極的に改良計画に取り組み、部隊レベルでの問題点やヴェトナム戦争の戦訓などを加味して研究した結果、4系統に改良を加えることで更なる能力向上を図ることができるとの結論を導き出して、アメリカ陸軍に報告書を提出した。

この改良部分はエンジン冷却系統、サスペンション、燃料系統、そして機関系で、軍もこの提案を認めて「M113A1E1」の呼称で試作車5両の製作をFMC社に要求して、本格的な開発がスタートした。
まず冷却系統だが、これはヴェトナムのような熱帯地で運用する場合、ラジエイターの冷却不足によりエンジンがオーバーヒートしてしまうという問題への対処を図ったものである。

従来のM113装甲兵員輸送車では、エンジンの直上にあたる点検用ハッチの左側に冷却ファン、右側にラジエイターを備えて冷却ファンで外気を導入し、ラジエイターを経由して車外に排出するという手法を採っていたが、それぞれの位置を逆にして、冷却ファンの回転方向を反対側に改めることでラジエイターはもちろんのこと、機関室内の暖気をも車外に強制的に排出するという方式に変わった。

併せてラジエイターを大型化して取り付け角度を10度に減じたり、冷却ファンの回転速度を増加する等の改良も図っている。
これによりオーバーヒート問題は改善され、さらに車内に外からの汚れた空気が入り難くなったというメリットも生んだ。

サスペンションは、M113装甲兵員輸送車の最も大きな問題であった不整地走行能力の改善を図ったものであり、併せて各種装備の変更による重量の増加にも備えている。
まずトーションバーの弾性を上げて、転輪のトラベル長をそれまでの152.4mmから228.6mmと大きくすることで、地面からの振動を抑制した。

次いで第2転輪にもショック・アブソーバーを新設し、サスペンションが柔らかくなった分ショック・アブソーバーを固めのものに改めることで、転輪上下の揺れを短時間に抑えている。
さらに誘導輪の取り付け基部が強化され、その位置も51mm上げることで地上とのクリアランスを40.6cmから43.2cmとした。

これらの改良により、M113A1E1装甲兵員輸送車の不整地での走行速度は4.8〜16.1km/hほど向上を見せている。
燃料系統は、増加装甲キットで採用された車外装着型装甲燃料タンクと大差無いもので、左右合わせて360リットルを収容しており、その装甲厚は車体と同程度といわれる。
このタンクは着脱が可能で、前線において簡単に取り外しを行うことができた。

また燃料タンクは、車体後面との間にある程度の間隔を設けて装着され、火災に備えている。
しかし外部タンクの装備により重量は約405kgほど増え、全長も43.2cmほど長くなった。
最後に機関系だが、これはエンジンを出力向上型の6V-53T V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力275hp)に換装し、変速機も前進4段/後進1段のX-200-3変速機に変更し、さらに油圧式操向機が差動装置に代わって導入された。

これにより、それまでの2本のステアリング・ブレーキ・レバーを使って操縦する方式から、単純なハンドルとブレーキ・ペダルを用いる方式に替わり、外観からは分からないものの操縦手の負担を大きく減らすことに成功した。
M113A1E1の試作車5両は1978年10月より開発試験に供され、翌79年5月からは運用試験が行われて、その後「M113A2装甲兵員輸送車」として制式化されたが、その時期は不明である。

しかし生産は1979年6月から開始されているので、同年5〜6月頃に制式化されたものと思われる。
前述のように、これらの改良によりM113A2装甲兵員輸送車の戦闘重量は12.9tとなり、浮航性は非常に悪くなったため、訓練教義コマンドはM113A2装甲兵員輸送車の浮航能力は無くなったとして、訓練課程から水上航行を外すことを決めた。
しかし必要時に備えて、波切り板には着脱が可能な浮航セルが用意された。

またM113A2装甲兵員輸送車には、4基を一組とした発煙弾発射機が車体前部のライト下方に装着可能となったが、未装備の車両も多い。
また、M113装甲兵員輸送車は当初対NBC能力を備えていなかったが、このM113A2装甲兵員輸送車で初めて装備が可能となった。

もっともこれは標準装備ではなく、必要に応じて装着するキットの形で製作されていた。
M113A2装甲兵員輸送車の生産はすでに終了しているが、その終了時期や生産数はまだ数字としては公表されておらず、1992年3月の時点におけるM113A2装甲兵員輸送車の完成数はアメリカ向け932両、輸出向け5,442両の合計6,374両となっており、当然これより生産数は多いはずである。


<M113A2装甲兵員輸送車>

全長:    5.296m
全幅:    2.6861m
全高:    2.521m
全備重量: 11.343t
乗員:    2名
兵員:    11名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 64.4km/h(浮航 5.8km/h)
航続距離: 483km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発)
装甲厚:   28.58〜44.5mm


<参考文献>

・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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