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M113A1装甲兵員輸送車





●M113A1装甲兵員輸送車

従来の装軌式APCと比べて大きな進化を見せたM113装甲兵員輸送車であったが、1959年6月にアメリカ陸軍が戦闘車両のエンジンをガソリンからディーゼルに切り替えるという方針を採ったことにより、このM113装甲兵員輸送車もディーゼル・エンジンへの換装がFMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)に対して要求されることになった。
この結果誕生したのが、M113A1装甲兵員輸送車である。

元々、M113装甲兵員輸送車は車体前部に駆動系をまとめることで整備、交換の便を図っていたため、換装には何ら問題は無く、クライスラー社製の75M V型8気筒液冷ガソリン・エンジンに代えて、デトロイト・ディーゼル社製の6V-53 V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(排気量5,221cc、出力212hp)を搭載することができた。
このエンジン換装に併せて、変速機もアリソン社製のXTG-90-2変速機に改められた。

この変速機は前進4段/後進1段の手動式で、変速機の換装により差動装置は必要が無くなったために廃止されている。
3両が製作された試作車は「M113E1」の呼称が与えられて試験に供されたが、変速機の不具合が報告されたために改良型変速機XTG-90-2Aに換装した以外は問題無く、ディーゼル化により同じ燃料容量(302リットル)で航続距離は403kmと大きく向上し、火災発生の危険性も大きく緩和されることになった。

さらにFMC社では、独自に変速機を前進3段/後進1段のアリソン社製TX-100自動変速機(後にTが外れてX-100と改称された)に換装し、M113装甲兵員輸送車で用いられていた自社製のDS200差動装置を復活させた試作車を自社資金で製作し、アメリカ陸軍に提出した。
これは軍にも認められ試作車3両が「M113E2」として発注されたが、このM113E2は機関系と燃料搭載量が360リットルに増加していることを除けば、M113装甲兵員輸送車とほぼ同仕様であった。

そしてM113E2は1963年5月16日付で「M113A1装甲兵員輸送車」として制式化され、まず2両の先行生産車が発注されたのに続き、翌64年末からM113装甲兵員輸送車に代わって本格的な生産が開始された。
前述のように機関系等を除けばM113装甲兵員輸送車と変わらないM113A1装甲兵員輸送車だが、寒冷地キットのバッテリー・ケース暖房用のダクトは廃止されて、エンジンから抽気した熱風で暖める方式に改められ、操縦手用ハッチ周囲に備えられる風防キットが新たに用意された。

A1化にあたって車重は12tに増加したが性能は変化無く、ヴェトナム戦争の激化も手伝って生産の主力となり、1979年までに輸出用を含めて23,567両が完成している。
ヴェトナム戦争に大量投入されたM113/M113A1装甲兵員輸送車は、歩兵輸送を始め様々な任務に供されてその高い多目的性を発揮したが、反面地雷による被害も多数報告された。

このためM113装甲兵員輸送車用の増加装甲キットが開発され、必要に応じて現地部隊の手により改修が行われた。
このキットは車外に装着する装甲板と、車体後面左右に取り付ける装甲燃料タンクを主とするもので、燃料タンクの配管は床下から床上に移されている。

またこれにより重量が増加したため、浮航性が損なわれることへの配慮として波切り板と車体前部左右には浮航セルが装着されており、脱出を素早く行うために操縦手席には後部ランプのクイック・リリース装置が新設されている。
さらに1968年には地雷対策として、M113A1装甲兵員輸送車用の2重床が開発された。

これに併せて転輪のアームが延長され、地面とのクリアランスを大きく取るようにされた。
しかし結局、この2重床と延長型転輪アームは導入されずに終わった。
またM113/M113A1装甲兵員輸送車の浮航能力の改善を図るため、車外装着型のウォーター・ジェットの試験も行われた。

これは車体後部に取り付けられた操向舵付きのウォーター・ジェット装置を、最終減速機から延ばされて車体上面に配された駆動シャフトにより駆動するという方式で、浮航時の性能は大きく向上したがこれもまた試験のみに終わっている。


<M113A1装甲兵員輸送車>

全長:    4.864m
全幅:    2.6861m
全高:    2.496m
全備重量: 10.92t
乗員:    2名
兵員:    11名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 64.4km/h(浮航 5.8km/h)
航続距離: 483km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発)
装甲厚:   28.58〜44.5mm


<参考文献>

・「パンツァー2003年2月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(1)」 小野山康弘 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年12月号 M113装甲兵車とそのバリエーション」 井坂重蔵 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 ベルギー軍AFV 1970〜2010」 城島健二 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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