HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)自走砲自走砲(アメリカ)>M110A1/A2 8インチ自走榴弾砲

M110A1/A2 8インチ自走榴弾砲





●M110A1 8インチ自走榴弾砲

M107 175mm自走加農砲と車体や砲架を共通化して開発されたM110 8インチ自走榴弾砲は、実戦化当時は高い破壊力を備えており射程も充分であったが、1960年代も末期となると射程不足が問題視されるようになってきた。
これを改めるべく開発されたのが、M110A1 8インチ自走榴弾砲である。
1969年にアメリカ陸軍兵器局はM110自走榴弾砲の射程延長と新装薬の開発を命じ、これに応じてPCF社(Pacific Car and Foundry:太平洋自動車製造・鋳造所)では直ちに改良計画に着手した。

M110A1自走榴弾砲の最大の特長は、主砲が25口径8インチ(203mm)榴弾砲M2A2から37口径8インチ榴弾砲M201に換装されて長砲身化されたことである。
また砲の換装に伴って直接照準望遠鏡がM116CからM139に換装されたのも、M110A1自走榴弾砲での変化である。

車体はM110自走榴弾砲のものがそのまま用いられているが、合計18カ所が再設計されており信頼性が向上している(平均故障間隔が2倍に伸びた)。
1976年3月には「M110A1 8インチ自走榴弾砲」(8inch Self-propelled Howitzer M110A1)として制式化され、翌77年1月から部隊への配備が開始された。

なおM110A1自走榴弾砲は新規生産ではなく、全て既存のM107自走加農砲とM110自走榴弾砲から改造生産されており、これにより10万ドルの経費節減ができたといわれる。
砲の換装と新装薬の導入、およびチャージ8装薬の使用が可能となったことで(M110自走榴弾砲ではチャージ7装薬までしか用いることができなかった)、M106榴弾をチャージ8装薬で発射した場合その最大射程は21,300mと大きく延長された。


●M110A2 8インチ自走榴弾砲

M110A1自走榴弾砲に続いて登場したM110自走榴弾砲の2番目の改良型が、M110A2 8インチ自走榴弾砲である。
M110A2自走榴弾砲は車体はM110A1自走榴弾砲と共通だが、主砲が二重作動式砲口制退機を持つ37口径8インチ榴弾砲M201A1に換装されている。

M110A1自走榴弾砲で採用された新装薬M118A1はチャージ8が最大とされていたが、M110A2自走榴弾砲では主砲が新型に換装されたことにより、さらに強力なチャージ9装薬を用いることが可能となり射程の延長が図られている。
M110A2自走榴弾砲では、新たに開発されたRAP(Rocket Assisted Projectile:ロケット補助推進砲弾)をチャージ9装薬で発射した場合、その最大射程は29,100mにも達する。

使用する砲弾の種類も多種多様となっており、榴弾、噴進弾、核砲弾、中性子砲弾の発射が可能となっている。
このM110A2自走榴弾砲は1978年に制式化が行われ209両が新たに発注されたが、予算などの問題を理由に新規生産を取り止めて、既存のM107自走加農砲とM110A1自走榴弾砲からの改造生産に切り替えられ、合わせて250両が改造された。

M110A2自走榴弾砲はアメリカ陸軍以外にバーレーン、ギリシャ、イタリアなど9カ国に輸出されており、日本の陸上自衛隊でも牽引式の203mm榴弾砲M2の更新用として、1983年度からライセンス生産により取得を開始している。
日本での生産は砲部を日本製鋼所、車体を小松製作所が担当しているが、砲身はアメリカからのFMS(有償援助)である。

「203mm自走榴弾砲」の名称で91両ライセンス生産されたM110A2自走榴弾砲は、各方面隊直轄の特科大隊を中心に1984年度末より部隊配備が開始されている。
一方、本家のアメリカ陸軍では大口径砲の役割をMLRS自走多連装ロケット・システムに肩代わりさせることになり、M110A2自走榴弾砲は現在では装備から外されつつある。


<M110A2 8インチ自走榴弾砲>

全長:    10.732m
車体長:   6.459m
全幅:    3.15m
全高:    3.145m
全備重量: 28.35t
乗員:    5名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 405hp/2,300rpm
最大速度: 54.72km/h
航続距離: 523km
武装:    37口径8インチ榴弾砲M201A1×1 (2発)
装甲厚:   12.7mm


<参考文献>

・「グランドパワー2022年2月号 アメリカ軍自走砲(戦後編)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  潮書房光人新社
・「パンツァー2005年2月号 M107/M110自走砲架」 遠野士郎 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年4月号 陸上自衛隊の自走砲」 田村尚也 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「自衛隊歴代最強兵器 BEST200」  成美堂出版
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「自衛隊装備年鑑」  朝雲新聞社


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)自走砲自走砲(アメリカ)>M110A1/A2 8インチ自走榴弾砲