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M109A1〜A5 155mm自走榴弾砲





●M109A1 155mm自走榴弾砲

M108 105mm自走榴弾砲が極めて短期間で退役したため、同時に開発されたM109 155mm自走榴弾砲はアメリカ陸軍機甲部隊の主力自走榴弾砲として多用されることになった。
そこで問題となったのが射程の短さであり、これを改めるべくより強力なXM119装薬が開発されたが、M109自走榴弾砲を用いて試験してみると射撃時の衝撃は想像以上に大きく、車体各部に損傷を与えるばかりか、乗員の精神や肉体にも影響を及ぼすことが判明した。

このため、当時研究が進められていた新型155mm自走榴弾砲XM179への搭載を目的として開発された、長砲身の33口径155mm榴弾砲XM185に主砲を換装することになった。
砲の換装による変更はほとんど無く砲の俯仰装置と砲塔の旋回装置が改良され、重量増加への対処としてサスペンションが強化されたのに加え、トラヴェリング・クランプが大型のものに替わり位置も車体前部に移動した程度であった。

この主砲換装型は「M109E1」と名付けられ、M109自走榴弾砲から3両が改造されて1969年4月からケンタッキー州フォート・ノックスでの運用試験に供された。
その結果は満足できるものでありM107榴弾での最大射程は18,100m、M549ロケット補助榴弾を用いた場合の最大射程は24,000mと顕著な射程の延長が確認された。

この結果、M109E1は1970年10月に「M109A1 155mm自走榴弾砲」として制式化され、同時に主砲も「M185」の名称で制式化されている。
このM109A1自走榴弾砲は、すでに生産されたM109自走榴弾砲を改造して製作するという方式が採られ、改修キットが作られて1972年初めに引き渡しが始まり、その改修車は1973年初めから部隊への配備を開始した。

主砲の換装とそれに伴う改修により戦闘重量は24.068tとM109自走榴弾砲より1t弱増加し、全長は9.05mと大きく増え一層迫力あるスタイルに変身した。
また1974年から、ボウエン・マクラフリン・ヨーク社(現BAEシステムズ・ランド&アーマメンツ社)でM109A1自走榴弾砲の新規生産が開始され、1993年度までに2,741両が完成した。

この生産車は基本的にはM109A1自走榴弾砲と同仕様であったが、M109自走榴弾砲からの改修車と区別するために「M109A1B 155mm自走榴弾砲」の名称が与えられた。
M109A1B自走榴弾砲の生産数はM109自走榴弾砲の2,111両を上回っており、シリーズ最大の生産型となった。


●M109A2 155mm自走榴弾砲

M109A2 155mm自走榴弾砲は、M109自走榴弾砲シリーズを部隊運用して判明した問題点を改良した生産型であり、1977年度予算で103両がボウエン・マクラフリン・ヨーク社に発注されて生産を開始した。
M109A2自走榴弾砲は基本的にはM109A1自走榴弾砲と大差無い車両であるが、反動の軽減を図ったM178新型砲架が採用され弾薬装填ラマーも改良型に替わり、砲塔後部にバスルを増設して155mm砲弾の搭載数を28発から36発に増やしている。

このバスルには22発の155mm砲弾を搭載できたので装填が容易になり、3分間に限り4発/分の高速射撃が可能になった。
さらに油圧システムも改良が図られ、砲塔上面の照準機には装甲カバーを新設し、ハッチとドアのラッチが新型に替わり、さらにエンジン警報装置も新たに装備される等、その改良は広範囲に及んでいる。

そしてほとんど使われることの無かった水上浮航装置も廃止が決まり、エアバッグ固定枠の取り付け部が姿を消した。
M109A2自走榴弾砲は1985年度予算まで発注が続けられ、823両が完成した(766両、790両の説もある)。


●M109A3 155mm自走榴弾砲

M109A3 155mm自走榴弾砲は、既存のM109A1自走榴弾砲とM109A1B自走榴弾砲をA2規格に改修したもので、改修作業はアメリカ陸軍の補給所において行われた。
基本的にはM109A2自走榴弾砲での改良に準じているが、改修キットを用いてM127砲架をM178砲架に換装し、主砲へのボアサイト新設や燃料タンクへのエア・フィルターの追加、弾丸と装薬収納庫の形状のリファイン、トーションバーの強化、操縦手用計器盤のレイアウト変更、上部リコイル・シリンダーの強化等が新たに行われている。

M109A3自走榴弾砲への改修数などは明らかにはされていないが、少なくとも2,000両以上のM109A1およびM109A1B自走榴弾砲が改修されたものと思われる。


●M109A4 155mm自走榴弾砲

1979年から1980年にかけて、アメリカ陸軍は「ESPAWS」(Enhanced Self-Propelled Artillery Weapon System:自走砲ウエポン・システム強化計画)の名称で新型自走砲の研究を行った。
1980年代の初めには、この計画は「DSWS」(Division Support Weapon System:師団支援ウエポン・システム)と名称を変えて研究が続行されたが、コスト等の問題から計画はキャンセルされてしまい、M109自走榴弾砲シリーズの改良を行うことに方針が変更された。

この計画は「HELP」(Howitzer Extended Life Program:榴弾砲寿命延長計画)と呼ばれ、当初NBC防護システムを備えていなかったM109自走榴弾砲シリーズにNBC防護システムの導入と信頼性の向上を図ったものであり、1983年に「M109E4」と呼ばれる試作車が製作され、試験に供された後M109A2/A3自走榴弾砲から改修が行われ、改修車には「M109A4 155mm自走榴弾砲」の名称が与えられている。

NBC防護システムの装備に加えて、改良型砲塔旋回装置や油圧パワーパック・フィルター、ドレインが追加された戦闘室床板等から成る改修キットが製作され、改造が行われたがその数量などは不明である。
しかし、M109A2/A3自走榴弾砲の大半がA4規格に改修されたものと思われる。


●M109A5 155mm自走榴弾砲

1992年春の段階で、アメリカ陸軍におけるM109自走榴弾砲シリーズの装備数は2,400両を超えており、1,900両以上が陸軍と州軍で実戦配備に就いていたが、当時開発を進めていたM109A6 155mm自走榴弾砲でこれら全てを置き換えることは不可能であり、このためにM109A4自走榴弾砲の発展型として開発されたのがこのM109A5 155mm自走榴弾砲である。

改良の中心は、39口径155mm榴弾砲M284とM182砲架を主とした「RC/NAS」(リザーブ・コンポーネント/改良型武装システム)の導入と、新型のM203/M203A1装薬の運用能力を付与する等である。
海外向けとして新たに生産が行われたものと、M109A4自走榴弾砲向けの改修キットが用意されており、要求に応じてGPS(Global Positioning System:衛星位置測定装置)や新型射撃統制システムの装備も可能である。

改良点は多岐に渡っており、エンジンのパワーアップとそれに呼応した変速機の改良、新型冷却システムの導入、バッテリーの耐用年数強化、NBC防護システムの装備とそれに伴う電気系の強化、砲俯仰装置のシリンダーと砲塔旋回装置の改良、エンジンのフィルターと履帯ゴムパッドの交換を容易にする改修が施され、転輪のオイル注入口を外側に移して整備性の向上を図る等が改良の中心となっており、ヴェンチレイター付きフェイスカバーもこのM109A5自走榴弾砲から標準装備となっている。

M109A5自走榴弾砲はオーストラリア(54両)、ギリシャ(24両)、タイ(20両)、ポルトガル(14両)に輸出された他、アメリカ陸軍のM109A4自走榴弾砲の多くがA5規格に改修された模様である。


<M109A1 155mm自走榴弾砲>

全長:    9.05m
車体長:   6.114m
全幅:    3.15m
全高:    3.279m
全備重量: 24.068t
乗員:    6名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 405hp/2,300rpm
最大速度: 56.33km/h
航続距離: 354km
武装:    33口径155mm榴弾砲M185×1 (28発)
        12.7mm重機関銃M2×1 (500発)
装甲厚:   31.75mm


<M109A2/A3 155mm自走榴弾砲>

全長:    9.129m
車体長:   6.193m
全幅:    3.15m
全高:    3.279m
全備重量: 24.948t
乗員:    6名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 405hp/2,300rpm
最大速度: 56.33km/h
航続距離: 354km
武装:    33口径155mm榴弾砲M185×1 (36発)
        12.7mm重機関銃M2×1 (500発)
装甲厚:   31.75mm


<参考文献>

・「パンツァー2012年1月号 ベストセラー自走砲車の初期シリーズ M109/M109A1」 箙公一 著  アルゴノート
 社
・「パンツァー2015年10月号 旧西側砲兵の主力だったM109自走砲車」 島田夫美男 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年9月号 M109自走砲車の開発・構造・発展」 後藤仁 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年8月号 1970年代のイギリス軍砲兵連隊」 遠藤慧 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 ベルギー軍AFV 1970〜2010」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年4月号 ベストセラー自走砲車 M109シリーズ」  アルゴノート社
・「世界AFV年鑑 2005〜2006」  アルゴノート社
・「グランドパワー2022年2月号 アメリカ軍自走砲(戦後編)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  潮書房光人新社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版


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