M109 155mm自走榴弾砲

ＨＯＭＥ＞研究室（第２次世界大戦後～現代編）＞自走砲＞自走砲（アメリカ）＞M109 155mm自走榴弾砲

M109 155mm自走榴弾砲


●開発 M109 155mm自走榴弾砲は、M108 105mm自走榴弾砲と並行して開発が行われたアメリカ陸軍の戦後第2世代自走砲で、M108自走榴弾砲と同じ車体／砲塔を用いながらも、アメリカ陸軍が155mm榴弾砲を砲兵の主力装備とする決定を下したため、M108自走榴弾砲が極めて短期間で退役したのを尻目に、現在も主力自走砲として第一線で多用されている。 1952年1月に将来の自走砲に関する会議がワシントンで開かれ、この席において156mm榴弾砲を装備する軽量型自走砲の開発提案が出されたが、M44 155mm自走榴弾砲の配備を始めたばかりということもあって、CONARC（Continental Army Command：アメリカ陸軍司令部）はこの要求を却下した。しかし1953年5月にはM44自走榴弾砲の不具合もあってか、当時開発が進められていた156mm榴弾砲T202を装備する自走砲が「T196」の試作名称で開発されることが決まり、1954年3月にはミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠の手で製作されたモックアップが展示された。この開発初期段階におけるT196自走榴弾砲は戦闘重量が22.5tで、全周旋回式の砲塔に156mm榴弾砲T202を装備し、砲の俯仰角は－10～＋75度で砲塔リングの直径は85インチ（215.9cm）となっていた。機関系にはコンティネンタル発動機製作所製のAO-628-1ガソリン・エンジンと、アリソン社製のXT-300変速機を使用していた。さらに当時研究が進められていた、車高を低くするために上部支持輪を廃止したフラットトラック式サスペンションを逸早く採用しており、足周りは直径30インチ（76.2cm）の複列式転輪5個と、16インチ（40.64cm）幅の履帯の組み合わせとなっていた。 T196自走榴弾砲のモックアップ審査は問題無く終了し本格的な開発に移行したが、1956年1月に主砲弾薬の共用などの面を重視して156mm榴弾砲T202およびその弾薬の開発が中止されることになり、T196自走榴弾砲には従来型の155mm榴弾砲を装備することになった。同時にOTAC（Ordnance Tank-Automotive Center：アメリカ陸軍戦車・車両センター）からの要求を受けて、サスペンションには当時開発が進められていたT113装甲兵員輸送車（後のM113装甲兵員輸送車）のものを流用し、履帯も15インチ（38.1cm）幅のものに改められることになった。そして転輪の直径は22インチ（55.88cm）に減り、その代わり片側7個とされ、最後部の転輪が誘導輪も兼ねる方式に変わった。さらに、並行して開発が進められていたT195自走榴弾砲（後のM108 105mm自走榴弾砲）と車体や砲塔を共通化することになり、装甲も防弾鋼板と防弾アルミ板を比較審査した結果、T113装甲兵員輸送車と同じく5083防弾アルミ板を用いることとなり、その装甲厚は当初の案では1.25インチ（31.75mm）とされた。また砲塔リングの直径も検討の結果、両車共に100インチ（254cm）に統一され、1956年10月にはこの改良を加えられた車両のモックアップが審査に供された。これだけ差が生じたにも関わらず、議会への対策か試作名称は以前と同じ「T196」のままであった。 T196自走榴弾砲の乗員は6名で操縦手が車体前部に独立して位置し、車長、砲手、装填手3名は全て砲塔内に収められた。主砲は155mm榴弾砲T186E1（後にT255と改称）を装備し、155mm砲弾の搭載数は32発とされ砲塔の旋回と砲の俯仰は手動とされた。戦闘重量は16.1tと、以前の計画よりも減少しているのが目立つ。細部設計も終了し、T195自走榴弾砲とT196自走榴弾砲はそれぞれ4両ずつの試作車が発注されたが、この発注期日は不明である。しかし、1958年8月にはT195自走榴弾砲の試作第1号車がデトロイト工廠で完成しているので、1957年末もしくは1958年初め頃に発注されたものと思われる。完成した試作車は、1958年9月よりエリー装備補給所において試験に供された。同年12月からは、フォート・ノックスとアバディーン車両試験場で本格的な試験が実施された。その結果、サスペンションやその他のコンポーネントに不具合があることが判明したため、改良のためにデトロイト工廠に戻されている。この際に実施された改良はかなり大掛かりなもので、改良型サスペンションへの換装はもちろんのこと、転輪は直径24インチ（60.96cm）とやや大型化され、さらに車体後部に直径18インチ（45.72cm）の誘導輪が追加された。この改良はまだT196自走榴弾砲の試作車が完成する前に実施されたため、T196自走榴弾砲の試作第1号車はこれらの改良が施された状態で完成し、1959年10月3日からアバディーンにおいて試験が開始された。基本的には、T196自走榴弾砲は改良後のT195自走榴弾砲と武装関係を除けば同一仕様であったが、発射時の反動がより大きい155mm榴弾砲を備える関係から、車体後部に射撃時の安定を助ける可動式の駐鋤が新設されていた。この試作車の試験が行われていたのと時を同じくして、アメリカ陸軍は戦闘車両のエンジンをガソリンからディーゼルに切り替えることを決め、製作中であったT195／T196自走榴弾砲の試作車の内、それぞれ2両に対しディーゼル･エンジンへの換装を要求した。この際に採用されたエンジンはデトロイト･ディーゼル社製の8V-71T V型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンで、これに併せて変速機もアリソン社が開発したXTG-411-2A変速機に替わった。このエンジン換装により機関室上面の円形グリルは角形に改められ、車体前部もなだらかなV字型となる等外見にも変化が生じており、換装車はそれぞれ「T195E1」、「T196E1」と呼称変更が行われた。しかし試験ではサスペンションと最終減速機等に問題が生じたため、T196E1自走榴弾砲は1960年10月まで、T195E1自走榴弾砲は同年12月まで試験が続けられた後、1961年2月に改造されないでいたT195／T196自走榴弾砲のE1化改造を行うと共に、さらに2両ずつのT195E1／T196E1自走榴弾砲の製作が求められた。そしてこれらの完成車による運用試験を実施した後、1961年12月に限定生産を行うことが認められ、ジェネラル・モータース社傘下のキャディラック社が第1、2次生産契約を受注し、オハイオ州のクリーブランド戦車工場で生産作業が進められた。 1962年7月にはT195E1は「M108 105mm自走榴弾砲」として、同じくT196E1も「M109 155mm自走榴弾砲」として制式化されている。 M109 155mm自走榴弾砲は1962年11月よりアメリカ陸軍への引き渡しが開始され、1963年12月に契約された第3次生産分から契約会社はクライスラー社に変わったが、生産工場はクリーブランド戦車工場がそのまま用いられている。以後1969年度まで生産が続けられアメリカ陸軍向けとして1,961両、同じく海兵隊向けが150両、合わせて2,111両のM109自走榴弾砲が完成している。 M109自走榴弾砲の生産型はT196E1自走榴弾砲と大差無いが、履帯がT118E1から取り外し可能なゴムパッド付きのT137に変更され、主砲がそれまでの155mm榴弾砲T255から、155mm榴弾砲T255E4とXM127砲架の組み合わせ（その後「M126」と「M127」に呼称が変更された）に替わり、さらに重い155mm榴弾砲を砲手が旋回、俯仰させることは困難だということから、どちらも油圧を用いた動力駆動が採用されており、さらに水上浮航装置が新たに導入されている。これは車体左右側面にそれぞれ4カ所ずつと、車体前面1カ所に金属枠を取り付けてこれにエアバッグを固定するというもので、さらに車体前面と砲塔までの車体左右側面に波切り板を立て、前方視界を得るために操縦手席の前方にあたる波切り板には透明部が設けられている。エアバッグへの空気注入は選択バルブ付きのブロワーを用いて行われ、最大1,280cm³／分の空気を吹き込み1分15秒で満杯となる。水上での推進力は履帯を駆動することで得ており、その速度は4マイル（6.44km）／hとされている。この浮航装置は当然ながら標準装備ではあるものの、個々の車両に搭載することは不可能で輸送車によって運ばなければならず、装着にも多大な時間を要するためいつの間にか装備品から外されてしまい、現在では浮航することはできなくなっている。その後M109自走榴弾砲は、主砲を新型に換装する等の改良型（M109A1／A2）を加え1979年までに約4,000両を生産している。また、さらなる近代化改修（M109A3～A6）と並行して世界各国への供与・輸出も盛んに行われ、西ドイツ（M109G ／A3G 609両）、イラン（390両）、イスラエル（M109AL 369両）、スイス（327両）等、26カ国の陸軍に配備された。 M109自走榴弾砲シリーズの生産累計は、1万両近くになるともいわれる。 M109自走榴弾砲の派生型としては、M992FAASV（Field Artillery Ammunition Supply Vehicle）と呼ばれる弾薬補給車が開発されており、1983～98年にかけて改良A2型を含む921両が調達された。本車は、M109自走榴弾砲の砲塔を取り外して代わりに大きな弾薬搭載室を設けたもので、車体内部には砲弾93発、装薬99個、信管104個を搭載することができる。補給は車体後部のドアから行われ、毎分6発の補給能力がある。
●構造 M109 155mm自走榴弾砲の車体は5083防弾アルミ板を用いた溶接構造で、装甲厚は全て1.25インチ（31.75mm）となっている。アルミ装甲を採用したのは軽量化を図り、空輸性を高めるために他ならない。分厚いアルミ装甲は、車体に砲台として必要な剛性を与えている。車体前部左側に操縦手席、前部右側にデトロイト・ディーゼル社製の8V-71T V型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル･エンジン（出力405hp）と、アリソン社製のXTG-411-2A変速機（前進4段／後進2段）、クラッチ･ブレーキ（前進1、2段、後進1段）とギアード･ステア（前進3、4段、後進2段）を備える操向機等を一体化したパワーパックを収める機関室が配されている。車体後部は全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室とされ、車体後面には車体内部に収める弾薬の搭載に用いる右開き式のドアが設けられている。このドアの左右には起倒式の駐鋤が設けられており、射撃時にはこれを地面に下ろして車体の安定性を確保するようになっている。操縦手には左開き式の専用ハッチが用意され、ハッチの上面には開閉式カバーの付いたM45ペリスコープが装着されている。このペリスコープは1基を夜間用のものに換装することが可能で、車体前部には赤外線ライトが通常のライトと並んで装備されている。車体前部には、走行時に主砲を固定するトラヴェリング・クランプが装着されている。片側7個の複列式転輪は上部支持輪を持たないフラットトラック式で、サスペンションにはトーションバー（捩り棒）が用いられ、前部に起動輪、後部に誘導輪という常識的な配置にまとめられている。履帯は幅15インチ（38.1cm）のセンターガイド付きで、ダブルピン型のT136履帯とシングルピン型のT137履帯が用意されたが、初期の一部の車両を除きほとんどの車両がダブルピン型のT136履帯を用いている。いずれの履帯も、片側79枚の履板で構成されている。砲塔も車体と同じく1.25インチ厚の5083防弾アルミ板を用いた溶接構造で、砲塔内には主砲を挟む形で左前部に砲手、その反対側のやや後方にずれて車長が位置し、さらに後方には装填手3名が配されている。砲手席の直上には右開き式のハッチが用意され、また車長には12.7mm重機関銃M2を装備したキューポラが備えられており、このキューポラには後ろ開き式のハッチとM27ペリスコープが装着されている。さらに砲塔の左右側面にもそれぞれハッチが備えられており、後面にも弾薬の積み込みに用いる観音開き式のハッチが設けられている。なお開発当時の状況を考えると不思議であるが、本車はNBC防護システムを備えていない。主砲の23口径155mm榴弾砲は「M126」の制式名称が与えられており、M127砲架と組み合わせて砲塔に搭載されている。駐退機は油気圧式が用いられ、砲の俯仰に応じて後座長は58.4cm～91.4cmの間で変化し、尾栓は隔螺式が使われている。主砲の砲身先端には大型の二重作動式砲口制退機が装着され、その直後に算盤球型の排煙機が備えられている。砲の俯仰角は－5～＋75度で砲塔の旋回、砲の俯仰共に油圧を用いた動力式だが、バックアップとして人力による操作も可能となっている。弾薬の装填には油圧作動式半自動ラマーが用いられ、弾薬を3秒で砲身内に押し込むことができるため、大口径砲を備えながらもM108 105mm自走榴弾砲と同じ発射速度を実現しており、通常は毎分1発の発射速度だが必要に応じ、短時間ならば毎分3発を射撃することもできる。反面、FCS（射撃統制システム）はM108自走榴弾砲と大差無く、間接射撃用のM117パノラマ望遠鏡（倍率4倍、視野10度）、直接射撃用のM118Cパノラマ望遠鏡（倍率4倍、視野10度）に加え、M15仰角四分儀、M1A1砲手用四分儀を備えているが、M108自走榴弾砲と同様に弾道計算機などは装備されていない。 M109自走榴弾砲の初期の試作車では155mm砲弾32発を搭載するようになっていたが、生産型では28発に減少している。 M108自走榴弾砲と比べると弾種はさらに多く14種類を数えており、M107榴弾の場合弾丸重量42.91kg、砲口初速562.4m／秒、チャージ7の装薬を用いた場合の最大射程は14,600m、M795榴弾では弾丸重量46.90kg、砲口初速、最大射程共に不明、対人用子弾60発を収めるM483榴弾では弾丸重量43.09kg、砲口初速583m／秒、最大射程14,600m、M549A1ロケット補助榴弾では弾丸重量43.54kg、最大射程23,500m、M116煙幕弾では弾丸重量42.22kg、砲口初速684m／秒、最大射程18,100mとなっている。
＜M109 155mm自走榴弾砲＞全長：　　　　6.614m 車体長：　　 6.114m 全幅：　　　　3.15m 全高：　　　　3.279m 全備重量：　23.796t 乗員：　　　　6名エンジン：　　デトロイト・ディーゼル8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル最大出力：　405hp／2,300rpm 最大速度：　56.33km／h 航続距離：　354km 武装：　　　　23口径155mm榴弾砲M126×1　（28発）　　　　　　　 12.7mm重機関銃M2×1　（500発）装甲厚：　　 31.75mm
＜参考文献＞・「パンツァー2012年1月号　ベストセラー自走砲車の初期シリーズ M109／M109A1」　箙公一　著　　アルゴノート　社・「パンツァー2000年9月号　M109自走砲車の開発・構造・発展」　後藤仁　著　　アルゴノート社・「パンツァー2014年1月号　スイス陸軍の歴代砲兵装備」　前河原雄太　著　　アルゴノート社・「パンツァー2010年8月号　1970年代のイギリス軍砲兵連隊」　遠藤慧　著　　アルゴノート社・「パンツァー2000年10月号　M109：海外での状況と派生型」　後藤仁　著　　アルゴノート社・「パンツァー2011年4月号　ベストセラー自走砲車 M109シリーズ」　　アルゴノート社・「世界AFV年鑑 2005～2006」　　アルゴノート社・「グランドパワー2022年2月号　アメリカ軍自走砲(戦後編)」　後藤仁　著　　ガリレオ出版・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲：1946～2000」　　デルタ出版・「異形戦車ものしり大百科　ビジュアル戦車発達史」　齋木伸生　著　　潮書房光人新社・「世界の主力戦闘車」　ジェイソン・ターナー　著　　三修社・「世界の装軌装甲車カタログ」　　三修社・「戦車メカニズム図鑑」　上田信　著　　グランプリ出版・「戦車名鑑 1946～2002 現用編」　　コーエー・「世界の最新陸上兵器 300」　　成美堂出版

ＨＯＭＥ＞研究室（第２次世界大戦後～現代編）＞自走砲＞自走砲（アメリカ）＞M109 155mm自走榴弾砲


●開発 M109 155mm自走榴弾砲は、M108 105mm自走榴弾砲と並行して開発が行われたアメリカ陸軍の戦後第2世代自走砲で、M108自走榴弾砲と同じ車体／砲塔を用いながらも、アメリカ陸軍が155mm榴弾砲を砲兵の主力装備とする決定を下したため、M108自走榴弾砲が極めて短期間で退役したのを尻目に、現在も主力自走砲として第一線で多用されている。 1952年1月に将来の自走砲に関する会議がワシントンで開かれ、この席において156mm榴弾砲を装備する軽量型自走砲の開発提案が出されたが、M44 155mm自走榴弾砲の配備を始めたばかりということもあって、CONARC（Continental Army Command：アメリカ陸軍司令部）はこの要求を却下した。しかし1953年5月にはM44自走榴弾砲の不具合もあってか、当時開発が進められていた156mm榴弾砲T202を装備する自走砲が「T196」の試作名称で開発されることが決まり、1954年3月にはミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠の手で製作されたモックアップが展示された。この開発初期段階におけるT196自走榴弾砲は戦闘重量が22.5tで、全周旋回式の砲塔に156mm榴弾砲T202を装備し、砲の俯仰角は－10～＋75度で砲塔リングの直径は85インチ（215.9cm）となっていた。機関系にはコンティネンタル発動機製作所製のAO-628-1ガソリン・エンジンと、アリソン社製のXT-300変速機を使用していた。さらに当時研究が進められていた、車高を低くするために上部支持輪を廃止したフラットトラック式サスペンションを逸早く採用しており、足周りは直径30インチ（76.2cm）の複列式転輪5個と、16インチ（40.64cm）幅の履帯の組み合わせとなっていた。 T196自走榴弾砲のモックアップ審査は問題無く終了し本格的な開発に移行したが、1956年1月に主砲弾薬の共用などの面を重視して156mm榴弾砲T202およびその弾薬の開発が中止されることになり、T196自走榴弾砲には従来型の155mm榴弾砲を装備することになった。同時にOTAC（Ordnance Tank-Automotive Center：アメリカ陸軍戦車・車両センター）からの要求を受けて、サスペンションには当時開発が進められていたT113装甲兵員輸送車（後のM113装甲兵員輸送車）のものを流用し、履帯も15インチ（38.1cm）幅のものに改められることになった。そして転輪の直径は22インチ（55.88cm）に減り、その代わり片側7個とされ、最後部の転輪が誘導輪も兼ねる方式に変わった。さらに、並行して開発が進められていたT195自走榴弾砲（後のM108 105mm自走榴弾砲）と車体や砲塔を共通化することになり、装甲も防弾鋼板と防弾アルミ板を比較審査した結果、T113装甲兵員輸送車と同じく5083防弾アルミ板を用いることとなり、その装甲厚は当初の案では1.25インチ（31.75mm）とされた。また砲塔リングの直径も検討の結果、両車共に100インチ（254cm）に統一され、1956年10月にはこの改良を加えられた車両のモックアップが審査に供された。これだけ差が生じたにも関わらず、議会への対策か試作名称は以前と同じ「T196」のままであった。 T196自走榴弾砲の乗員は6名で操縦手が車体前部に独立して位置し、車長、砲手、装填手3名は全て砲塔内に収められた。主砲は155mm榴弾砲T186E1（後にT255と改称）を装備し、155mm砲弾の搭載数は32発とされ砲塔の旋回と砲の俯仰は手動とされた。戦闘重量は16.1tと、以前の計画よりも減少しているのが目立つ。細部設計も終了し、T195自走榴弾砲とT196自走榴弾砲はそれぞれ4両ずつの試作車が発注されたが、この発注期日は不明である。しかし、1958年8月にはT195自走榴弾砲の試作第1号車がデトロイト工廠で完成しているので、1957年末もしくは1958年初め頃に発注されたものと思われる。完成した試作車は、1958年9月よりエリー装備補給所において試験に供された。同年12月からは、フォート・ノックスとアバディーン車両試験場で本格的な試験が実施された。その結果、サスペンションやその他のコンポーネントに不具合があることが判明したため、改良のためにデトロイト工廠に戻されている。この際に実施された改良はかなり大掛かりなもので、改良型サスペンションへの換装はもちろんのこと、転輪は直径24インチ（60.96cm）とやや大型化され、さらに車体後部に直径18インチ（45.72cm）の誘導輪が追加された。この改良はまだT196自走榴弾砲の試作車が完成する前に実施されたため、T196自走榴弾砲の試作第1号車はこれらの改良が施された状態で完成し、1959年10月3日からアバディーンにおいて試験が開始された。基本的には、T196自走榴弾砲は改良後のT195自走榴弾砲と武装関係を除けば同一仕様であったが、発射時の反動がより大きい155mm榴弾砲を備える関係から、車体後部に射撃時の安定を助ける可動式の駐鋤が新設されていた。この試作車の試験が行われていたのと時を同じくして、アメリカ陸軍は戦闘車両のエンジンをガソリンからディーゼルに切り替えることを決め、製作中であったT195／T196自走榴弾砲の試作車の内、それぞれ2両に対しディーゼル･エンジンへの換装を要求した。この際に採用されたエンジンはデトロイト･ディーゼル社製の8V-71T V型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンで、これに併せて変速機もアリソン社が開発したXTG-411-2A変速機に替わった。このエンジン換装により機関室上面の円形グリルは角形に改められ、車体前部もなだらかなV字型となる等外見にも変化が生じており、換装車はそれぞれ「T195E1」、「T196E1」と呼称変更が行われた。しかし試験ではサスペンションと最終減速機等に問題が生じたため、T196E1自走榴弾砲は1960年10月まで、T195E1自走榴弾砲は同年12月まで試験が続けられた後、1961年2月に改造されないでいたT195／T196自走榴弾砲のE1化改造を行うと共に、さらに2両ずつのT195E1／T196E1自走榴弾砲の製作が求められた。そしてこれらの完成車による運用試験を実施した後、1961年12月に限定生産を行うことが認められ、ジェネラル・モータース社傘下のキャディラック社が第1、2次生産契約を受注し、オハイオ州のクリーブランド戦車工場で生産作業が進められた。 1962年7月にはT195E1は「M108 105mm自走榴弾砲」として、同じくT196E1も「M109 155mm自走榴弾砲」として制式化されている。 M109 155mm自走榴弾砲は1962年11月よりアメリカ陸軍への引き渡しが開始され、1963年12月に契約された第3次生産分から契約会社はクライスラー社に変わったが、生産工場はクリーブランド戦車工場がそのまま用いられている。以後1969年度まで生産が続けられアメリカ陸軍向けとして1,961両、同じく海兵隊向けが150両、合わせて2,111両のM109自走榴弾砲が完成している。 M109自走榴弾砲の生産型はT196E1自走榴弾砲と大差無いが、履帯がT118E1から取り外し可能なゴムパッド付きのT137に変更され、主砲がそれまでの155mm榴弾砲T255から、155mm榴弾砲T255E4とXM127砲架の組み合わせ（その後「M126」と「M127」に呼称が変更された）に替わり、さらに重い155mm榴弾砲を砲手が旋回、俯仰させることは困難だということから、どちらも油圧を用いた動力駆動が採用されており、さらに水上浮航装置が新たに導入されている。これは車体左右側面にそれぞれ4カ所ずつと、車体前面1カ所に金属枠を取り付けてこれにエアバッグを固定するというもので、さらに車体前面と砲塔までの車体左右側面に波切り板を立て、前方視界を得るために操縦手席の前方にあたる波切り板には透明部が設けられている。エアバッグへの空気注入は選択バルブ付きのブロワーを用いて行われ、最大1,280cm³／分の空気を吹き込み1分15秒で満杯となる。水上での推進力は履帯を駆動することで得ており、その速度は4マイル（6.44km）／hとされている。この浮航装置は当然ながら標準装備ではあるものの、個々の車両に搭載することは不可能で輸送車によって運ばなければならず、装着にも多大な時間を要するためいつの間にか装備品から外されてしまい、現在では浮航することはできなくなっている。その後M109自走榴弾砲は、主砲を新型に換装する等の改良型（M109A1／A2）を加え1979年までに約4,000両を生産している。また、さらなる近代化改修（M109A3～A6）と並行して世界各国への供与・輸出も盛んに行われ、西ドイツ（M109G ／A3G 609両）、イラン（390両）、イスラエル（M109AL 369両）、スイス（327両）等、26カ国の陸軍に配備された。 M109自走榴弾砲シリーズの生産累計は、1万両近くになるともいわれる。 M109自走榴弾砲の派生型としては、M992FAASV（Field Artillery Ammunition Supply Vehicle）と呼ばれる弾薬補給車が開発されており、1983～98年にかけて改良A2型を含む921両が調達された。本車は、M109自走榴弾砲の砲塔を取り外して代わりに大きな弾薬搭載室を設けたもので、車体内部には砲弾93発、装薬99個、信管104個を搭載することができる。補給は車体後部のドアから行われ、毎分6発の補給能力がある。
●構造 M109 155mm自走榴弾砲の車体は5083防弾アルミ板を用いた溶接構造で、装甲厚は全て1.25インチ（31.75mm）となっている。アルミ装甲を採用したのは軽量化を図り、空輸性を高めるために他ならない。分厚いアルミ装甲は、車体に砲台として必要な剛性を与えている。車体前部左側に操縦手席、前部右側にデトロイト・ディーゼル社製の8V-71T V型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル･エンジン（出力405hp）と、アリソン社製のXTG-411-2A変速機（前進4段／後進2段）、クラッチ･ブレーキ（前進1、2段、後進1段）とギアード･ステア（前進3、4段、後進2段）を備える操向機等を一体化したパワーパックを収める機関室が配されている。車体後部は全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室とされ、車体後面には車体内部に収める弾薬の搭載に用いる右開き式のドアが設けられている。このドアの左右には起倒式の駐鋤が設けられており、射撃時にはこれを地面に下ろして車体の安定性を確保するようになっている。操縦手には左開き式の専用ハッチが用意され、ハッチの上面には開閉式カバーの付いたM45ペリスコープが装着されている。このペリスコープは1基を夜間用のものに換装することが可能で、車体前部には赤外線ライトが通常のライトと並んで装備されている。車体前部には、走行時に主砲を固定するトラヴェリング・クランプが装着されている。片側7個の複列式転輪は上部支持輪を持たないフラットトラック式で、サスペンションにはトーションバー（捩り棒）が用いられ、前部に起動輪、後部に誘導輪という常識的な配置にまとめられている。履帯は幅15インチ（38.1cm）のセンターガイド付きで、ダブルピン型のT136履帯とシングルピン型のT137履帯が用意されたが、初期の一部の車両を除きほとんどの車両がダブルピン型のT136履帯を用いている。いずれの履帯も、片側79枚の履板で構成されている。砲塔も車体と同じく1.25インチ厚の5083防弾アルミ板を用いた溶接構造で、砲塔内には主砲を挟む形で左前部に砲手、その反対側のやや後方にずれて車長が位置し、さらに後方には装填手3名が配されている。砲手席の直上には右開き式のハッチが用意され、また車長には12.7mm重機関銃M2を装備したキューポラが備えられており、このキューポラには後ろ開き式のハッチとM27ペリスコープが装着されている。さらに砲塔の左右側面にもそれぞれハッチが備えられており、後面にも弾薬の積み込みに用いる観音開き式のハッチが設けられている。なお開発当時の状況を考えると不思議であるが、本車はNBC防護システムを備えていない。主砲の23口径155mm榴弾砲は「M126」の制式名称が与えられており、M127砲架と組み合わせて砲塔に搭載されている。駐退機は油気圧式が用いられ、砲の俯仰に応じて後座長は58.4cm～91.4cmの間で変化し、尾栓は隔螺式が使われている。主砲の砲身先端には大型の二重作動式砲口制退機が装着され、その直後に算盤球型の排煙機が備えられている。砲の俯仰角は－5～＋75度で砲塔の旋回、砲の俯仰共に油圧を用いた動力式だが、バックアップとして人力による操作も可能となっている。弾薬の装填には油圧作動式半自動ラマーが用いられ、弾薬を3秒で砲身内に押し込むことができるため、大口径砲を備えながらもM108 105mm自走榴弾砲と同じ発射速度を実現しており、通常は毎分1発の発射速度だが必要に応じ、短時間ならば毎分3発を射撃することもできる。反面、FCS（射撃統制システム）はM108自走榴弾砲と大差無く、間接射撃用のM117パノラマ望遠鏡（倍率4倍、視野10度）、直接射撃用のM118Cパノラマ望遠鏡（倍率4倍、視野10度）に加え、M15仰角四分儀、M1A1砲手用四分儀を備えているが、M108自走榴弾砲と同様に弾道計算機などは装備されていない。 M109自走榴弾砲の初期の試作車では155mm砲弾32発を搭載するようになっていたが、生産型では28発に減少している。 M108自走榴弾砲と比べると弾種はさらに多く14種類を数えており、M107榴弾の場合弾丸重量42.91kg、砲口初速562.4m／秒、チャージ7の装薬を用いた場合の最大射程は14,600m、M795榴弾では弾丸重量46.90kg、砲口初速、最大射程共に不明、対人用子弾60発を収めるM483榴弾では弾丸重量43.09kg、砲口初速583m／秒、最大射程14,600m、M549A1ロケット補助榴弾では弾丸重量43.54kg、最大射程23,500m、M116煙幕弾では弾丸重量42.22kg、砲口初速684m／秒、最大射程18,100mとなっている。
＜M109 155mm自走榴弾砲＞全長：　　　　6.614m 車体長：　　 6.114m 全幅：　　　　3.15m 全高：　　　　3.279m 全備重量：　23.796t 乗員：　　　　6名エンジン：　　デトロイト・ディーゼル8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル最大出力：　405hp／2,300rpm 最大速度：　56.33km／h 航続距離：　354km 武装：　　　　23口径155mm榴弾砲M126×1　（28発）　　　　　　　 12.7mm重機関銃M2×1　（500発）装甲厚：　　 31.75mm
＜参考文献＞・「パンツァー2012年1月号　ベストセラー自走砲車の初期シリーズ M109／M109A1」　箙公一　著　　アルゴノート　社・「パンツァー2000年9月号　M109自走砲車の開発・構造・発展」　後藤仁　著　　アルゴノート社・「パンツァー2014年1月号　スイス陸軍の歴代砲兵装備」　前河原雄太　著　　アルゴノート社・「パンツァー2010年8月号　1970年代のイギリス軍砲兵連隊」　遠藤慧　著　　アルゴノート社・「パンツァー2000年10月号　M109：海外での状況と派生型」　後藤仁　著　　アルゴノート社・「パンツァー2011年4月号　ベストセラー自走砲車 M109シリーズ」　　アルゴノート社・「世界AFV年鑑 2005～2006」　　アルゴノート社・「グランドパワー2022年2月号　アメリカ軍自走砲(戦後編)」　後藤仁　著　　ガリレオ出版・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲：1946～2000」　　デルタ出版・「異形戦車ものしり大百科　ビジュアル戦車発達史」　齋木伸生　著　　潮書房光人新社・「世界の主力戦闘車」　ジェイソン・ターナー　著　　三修社・「世界の装軌装甲車カタログ」　　三修社・「戦車メカニズム図鑑」　上田信　著　　グランプリ出版・「戦車名鑑 1946～2002 現用編」　　コーエー・「世界の最新陸上兵器 300」　　成美堂出版