アメリカ海兵隊は第2次世界大戦終結後すぐに、海軍艦艇局の支援の下で次世代型LVTの開発に着手した。
まず1946年に、大戦中LVTシリーズの開発・生産の中心を担ってきた、ペンシルヴェニア州フィラデルフィアのFMC社（Food Machinery Corporation：食品・機械企業）に対して、「LVTPX3」の呼称で新型LVTの開発要求が出された。
LVTPX3の最初の試作車は1947年に完成し、1950年まで試作車の改良が続けられた。

1940年代末期には、FMC社の他にも海軍艦艇局から指名を受けた数社が次世代型LVTの開発に参入した。
この時期になるとソ連を盟主とした東側陣営と、米英を中心とする西側陣営の冷戦が顕在化し、アジア情勢も中国共産党の台頭で緊迫したことから、アメリカ軍の装備更新予算も追加計上されて俄然、新型LVTの開発競争が活発化した。

その中で一頭地抜き出たのは、大戦後期から1950年代まで海兵隊の主力LVTとして活躍したLVT3を開発した実績のある、イリノイ州シカゴのボーグ・ワーナー社であった。
同社のインガソル部門は1950年12月に、海軍艦艇局からの発注を受けて6種類から成る新型LVTファミリー車両の開発に取り組んだ。

6種類のファミリー車両とは兵員・貨物輸送型、火力支援型、指揮通信型、対空防御型、回収型、戦闘工兵型のことで、これらのうち兵員・貨物輸送型がLVTP5、火力支援型がLVTH6として量産化された他、指揮通信型LVTP5(Cmd.)が後にLVTP5から改修されて調達され、戦闘工兵型LVTE1も必要数が製作された。
1951年1月より6種類の車両の設計が開始されたが、全てのベースともいうべきものはもちろん、兵員・貨物輸送型の「LVTP5」（Landing Vehicle, Tracked, Personnel 5：装軌式兵員上陸用車両5号）である。

なおLVTP5の開発に先立って、海軍艦艇局はペンシルヴェニア州エディストーンのBLW社（Baldwin Locomotive Works：ボールドウィン機関車製作所）にも、1949年から「LVTPX1」の呼称で新型LVTの開発を進めさせていたが、このLVTPX1は外観的にもサイズ的にもLVTP5に良く似た車両で、結局採用には至らなかったものの、LVTP5を開発するに当たって参考にされたのではないかといわれている。
LVTP5の画期的な特徴は、大きな箱型の車体の前面に乗降用のランプドアを設けたことである。

LVTPX1など従来のLVTは車体後面に乗降用ランプを設けていた車両が大半で、それに比べると車体前面にランプがあるLVTP5は兵員や物資の迅速な積み下ろしが可能であった。
ただし、車体後面にランプを設けていたLVTPX1が、水上航行時の抵抗を減らすために車体前面を船舶のように尖らせていたのに対し、車体前面にランプのあるLVTP5はそのような方策が採れないため、車体前面下部を逆V字型に窪ませることで水上航行時の抵抗を減らすという、斬新なアイデアが採用された。

LVTP5は1957年までにボーグ・ワーナー社で1,124両が生産された他、FMC社でも313両がライセンス生産された。
なお、LVTP5は開発・運用コストの低減を図って、パワーパックに既存戦車のコンポーネントをそのまま流用したため、変速・操向機と最終減速機を繋ぐ駆動軸が上下に90cmずれていて、この間をギアで連結するスタイルが採られていたが、これが本車の故障頻発の原因となった。

このため1960年代に入ってこの部分を改修し、併せて機関室上面に設けられているグリルを拡大して通気性を良くし、スノーケルも追加する措置を採ることとされ、改修を受けた車両は「LVTP5A1」と呼称されるようになった。
一方、ボーグ・ワーナー社と同じくLVT開発・生産の老舗の地位を持つFMC社は、ライバルの向こうを張って「中型LVT」と銘打った「LVTPX2」を試作開発し、海軍艦艇局に採用を提案した。

1952〜55年にかけて5両製作されたLVTPX2の試作車は、当時FMC社がアメリカ陸軍向けに開発中であったT59 APC（装甲兵員輸送車：1953年5月にM59 APCとして制式採用された）をベースにしたもので、トーションバー式サスペンション懸架の片側5個の複列式転輪で構成されたスマートな足周りに、両脇に水掻きを追加した履帯を組み合わせ、車体全体をやや嵩上げして内部容積を増し、浮力を増加させたものだった。

FMC社にとってはLVTPX2にT59 APCの基本設計を流用することで、一から新規に新型LVTを開発するよりもはるかに短期間・低コストで実用化できるメリットがあった。
基本となる兵員・貨物輸送型のLVTPX2は、LVTP5と同様の7.62mm機関銃装備の銃塔を搭載し、105mm榴弾砲を搭載する火力支援型LVTHX4や、対空防御型LVTAAX2等のファミリー車両も試作された。

そしてこの中で、兵員・貨物輸送型のLVTPX2のみが「LVTP6」（Landing Vehicle, Tracked, Personnel 6：装軌式兵員上陸用車両6号）として、アメリカ海兵隊に制式採用されることとなった。
しかし、すでに朝鮮戦争が終結してLVTの新規需要が減少したことや、LVTP5の量産が順調に推移しており、さらに改良型のLVTP5A1も完成していたことから、海軍艦艇局および海兵隊は2種類のLVTを並行装備する必要性は無いと結論し、LVTP6は制式化はされたものの量産発注が行なわれなかった。

兵員・貨物輸送型のLVTP5をベースとした火力支援型LVTH6は、実際はLVTP5と並行して開発が進められており、1951年8月に試作車が完成した。
LVTH6は事実上、LVTP5の車体中央部に設けられている貨物・兵員室の上面に、24口径105mm榴弾砲M49を装備する全周旋回式砲塔を搭載したものであった。

LVTH6の基本的な運用法は、上陸部隊の後方からの支援火力を迅速に展開することだったが、必要な場合、直接援護戦闘に投入することも能力上考慮されていた。
LVTH6の砲塔は、上面に砲手用ハッチと車長用キューポラを持つ完全密閉式のもので、副武装としてユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の7.62mm機関銃M1919A4E1を主砲同軸に、同社製の12.7mm重機関銃M2を砲塔上面のピントルマウントにそれぞれ装備していた。

砲塔の直下には旋回と連動するバスケットを備えており、ここに車長、砲手、装填手の3名の乗員が配置される他、105mm榴弾砲の即用弾薬12発分（分離薬莢式）が搭載された。
車内には、砲塔バスケット下や内壁に配置されたラックから主砲弾薬を取り出す要員2名が配置された。
主砲弾薬は最大で合計151発分を搭載できたが、水上行動時には搭載量を40発分減らすことになっていた。

砲塔上面右側の車長用キューポラには周囲に5基のペリスコープが設置されており、他にも外部視察用として砲塔の左側面に2基、右側面に1基の視察ブロックが設けられており、左側面にはガンポートも配置されていた。
主砲の照準具としては、T149E2展望式照準機とT150E2近距離直接照準機の2つが備えられていた。
砲塔の旋回は電動式で、主砲の俯仰は電動/手動併用式であった。
砲塔の装甲厚は車体部とあまり変わりがなく、小口径弾や榴弾の破片を防ぐ程度の軽装甲であった。

LVTH6は、貨物・兵員室の大きな容積を主砲弾薬搭載スペースとして活用できた上、車体前面に設けられている大型ランプドアのおかげで弾薬補充等がやり易い等、自走砲として運用し易い車両となった。
地上での戦闘行動時の重量は39.3t、水上での行動時の重量は38.2tで、地上および水上での機動性能は兵員・貨物輸送型のLVTP5とほぼ変わりがない。

LVTH6は全てボーグ・ワーナー社で生産され、1957年までに210両が完成している。
1960年代に入るとLVTP5と同様の機関系の改修が実施され、改修を受けた車両は「LVTH6A1」と呼ばれた。
他に実用化されたLVTP5のファミリー車両は、指揮通信型のLVTP5(Cmd.)と戦闘工兵型LVTE1、回収型LVTR1である。

LVTP5(Cmd.)は、完成した兵員・貨物輸送型LVTP5から58両が改修されて作られているが、これは指揮通信機材を搭載した上、貨物・兵員室内に司令部機能を最小限果たせるだけの施設（簡易な固定式机、椅子、その他）を設けたものに過ぎない。
地雷除去鋤を兼ねた大型ドーザーを車体前面に持ち、車体上面に地雷原爆破用のロケット弾発射機を備えたLVTE1（通称「芋堀機」）は、部隊配置定数の必要分だけ作られた。

動力ウィンチを用いたクレーンを取り付けた回収型LVTR1は、65両が生産された。
対空防御型のLVTAAXは、LVTP5の車体中央部前寄りにM42ダスター対空自走砲の砲塔を搭載したものだった。
砲塔はオープントップ式で、武装はスウェーデンのボフォース社製の40mm対空機関砲の改良ライセンス型である、66口径40mm対空機関砲M2A1を連装で装備していた。

40mm対空機関砲の即用弾として224発が砲塔部に搭載できた他、大きな車体を利用して合計1,000発の40mm機関砲弾を搭載することが可能だった。
LVTAAXは1954年に試作車が完成し運用試験が行われたが、当時のアメリカ軍の揚陸作戦は絶対的な航空優勢下での展開が想定されたため、火力支援型が別途あることからも必要性が薄いと判断されて量産されなかった。

シリーズの基本型である兵員・貨物輸送型のLVTP5の車体全体は、前/側/後面の周囲と下面が二重装甲になっており、前面のランプドア部分は9.53mm/15.88mm、側面および後面が15.88mm/12.7mm、下面が15.88mm/9.53mmで、車体上面は6.35mm厚の1枚板であった。
車内レイアウトは車体前部が固有の乗員3名が位置する操縦室、中央部が貨物・兵員室で、後部が機関室となっていた。

機関室内には当初、インディアナ州インディアナポリスのアリソン変速機製のV-1710 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン（出力760hp）、後にアラバマ州モービルのコンティネンタル発動機製のLV-1790-1 V型12気筒液冷ガソリン・エンジン（出力810hp）と、M47/M48パットン戦車に用いられたアリソン社製のCD-850-4Bクロスドライブ式自動変速・操向機（前進2段／後進1段）から成るパワーパックを搭載した。

また過去の戦訓から、従来のLVTでは機関室内のエンジン側面に配置されていたガソリン・タンクを被弾し難い車体底部に移設したが、これが後に災いの元となる。
しかし、燃料を機関室内から排除したことにより容積的には余裕が生まれ、貨物・兵員室との隔壁に設けたアクセスハッチから乗員が機関室内に入って緊急時の補修点検を行ったり、機関室上面後部に設けられた2枚のアクセスハッチを通して車外と出入りすることが可能であった。

LVTP5の足周りは、トーションバー（捩り棒）とゴムを併用したトーシラスティック式サスペンションで懸架された片側9個の複列式転輪と前方の誘導輪、後方の起動輪、幅広の履帯（519mm）等から構成されており、足周り上部は車体と一体化された形のサイドスカートに覆われていた。
これは、水上での推進力を向上させるための措置である。
片側134枚の履板で構成される履帯は鋳造製で、中央部が水掻きになるスケルトン構造であった。

各履板の連結方式はいわゆるシングルピン式であったが、中央部のスケルトン部分にはピンを渡しておらず、左右両側の連結部をそれぞれ短めのピンで繋ぐものとなっていた。
水掻きを構成する部分の内側には、センターガイドが設けられていた。
前述のようにLVTP5の固有の乗員は3名で、全員が車体最前部の操縦室内に位置していた。

操縦手席は操縦室内左側の履帯上部に、副操縦手席はその反対側の操縦室内右側の履帯上部に配置されていた。
それぞれの座席のある車体上面には、円形のハッチと共に外部視察用のM17ペリスコープ4基と、車体反対側を見るために背を高くされたM17Cペリスコープ1基が装備されていた。
操縦室の中央部上面には、7.62mm機関銃M1919A4を1挺装備する半球形の銃塔が設置されていた。

銃塔の装甲厚は、全周に渡って9.53mmとなっていた。
銃塔の旋回および機関銃の俯仰は手動式で、照準は上面中央に設けられた潜望式サイトで行う他、外部視察用に5個の視察ブロックが銃塔周囲に装備されていた。
銃塔の旋回基部にはぶら下がり式に車長席が設けられており、車長が銃塔の操作を行うようになっていた。
なお貨物搭載の便宜で必要な場合は、この座席は取り外すことが可能であった。

車体中央部の貨物・兵員室の上面には、それぞれが2つ折れになって開放される観音開き式の大型ハッチが設けられていた。
これは艦船から兵員が乗り移ったり、貨物搭載を行う際の便宜のために設けられたもので、ハッチ上面には内部に掛けるための2組の梯子も装備されていた。

大型観音開き式ハッチのすぐ後ろには、左右に機関室上面後部に設けられているのと同様のアクセスハッチが配置されていた。
LVTP5の貨物・兵員室には、陸上運行時には最大34名の完全武装兵員を搭乗させることができたが、水上航行時には25名までとされていた。
貨物・兵員室の左右側面には、緊急脱出用ハッチがそれぞれ設けられていた。

ちなみに燃料、乗員を搭載した状態でのLVTP5の標準的な車体重量は31.7t、陸上運行時の最大許容重量は39.8t、水上航行時は37tとなっていた。
従って、貨物搭載可能重量は6t程度である。
陸上運行時の機動性能は平坦地において最大速度30マイル（48.28km）/h、航続距離190マイル（306km）、水上航行時は最大速度6.8マイル（10.94km）/h、航続距離57マイル（92km）となっていた。

1950年代末までに必要数が調達されたLVTP5ファミリーは、それまでアメリカ海兵隊で使用されていた旧型LVTを完全に更新し、ほんの一部がアメリカ陸軍にも装備された。
海兵師団1個に配置される水陸両用トラクター（アムトラック）大隊は、11両のLVTP5から成る小隊4個で編制される中隊2個で構成され、大隊本部にはLVTP5(Cmd.) 3両とLVTR1が1両、その他にも工兵中隊にLVTE1が8両、整備中隊にLVTR1が1両、火力支援中隊にLVTP5(Cmd.) 3両とLVTH6が12両装備されていた。

つまり海兵隊のアムトラック大隊1個は、標準で116両のLVTP5ファミリー車が装備されることになっていたのである。
1964年からアメリカがヴェトナムに本格介入を始めると、第1、第3海兵師団（およびその傘下の第1、第3アムトラック大隊）が前線に派遣されることとなった。

1945〜54年にかけてフランスとヴェトナムが戦った第1次インドシナ戦争において、コン川デルタ地帯等でフランス軍がアメリカから供与されたLVT4等のアムトラックを有効に活用した経験から、アメリカ海兵隊のLVTP5も同様に活躍することが期待されたが、実際は華々しい上陸作戦も無く、LVTP5ファミリーは通常のAPCや火力支援車両として使われたに過ぎず、こうした任務に常用するには甚だ能力面に問題があることが明らかになってしまった。

まずAPCとして使用された場合、図体の大きなLVTP5は伏撃を得意とした北ヴェトナム軍のゲリラ部隊の恰好の目標となった。
当時、簡便な携帯式対戦車無反動砲RPG-2やRPG-7が、ソ連や中国からの援助で北ヴェトナム軍に出回っていたので、これは深刻な問題となった。

また、北ヴェトナム軍ゲリラが好んで用いた地雷戦術で被害を受けた場合、LVTP5ファミリーはガソリン・エンジンを車体底部に配置していたため、致命的な損害を被ることに繋がった。
このため、LVTP5で輸送される兵員は車内に乗るのを嫌がり、車体上面に乗っていたというが、これはM113 APCを含めた軽装甲の兵員輸送車全般についても同様だった。

M113はLVTP5のように車体底部にガソリン・タンクがあったわけでは無いが、地雷の破片はアルミ合金製の車底装甲を容易に突き破り、車内を跳ね回ったので、兵士たちはズタズタに切り裂かれるのを避けるために、やはり車体上部に鈴なりになって搭乗した。

また火力支援型のLVTH6にしても、後方からの支援射撃が本務といいつつ、前線の歩兵部隊からは引っ張りだこの戦車に代わって直接支援任務に来るよう要請されるのが常で、こうした任務に就いた場合は地雷を踏んで炎上する危険性と共に、敵側の反撃砲火に対して最大25.4mmという薄い装甲で凌がなければならないというリスクが伴った。

結局LVTP5ファミリーは、海岸線部近くの戦線や河川地区でのパトロールや支援任務に用いるのが妥当だというところに落ち着いたが、ヴェトナムの戦場で本来の性質を超えて求められた任務に充分に応え切れなかったというのが、不本意ながら本車の評価を構成するところとなってしまった。
それでもLVTP5ファミリーは、後継のLVTP7が普及し始める1970年代まで運用が継続されたのである。
またLVTP5ファミリーは台湾、フィリピン、チリ等に輸出され、一部の車両は現在も使用が続けられている。