イギリス連邦軍は、1942年の北アフリカ戦線で砲塔を撤去したスチュアート軽戦車を観測車両や指揮車両として使用し始めたが、通常の装甲車よりも強固な防御力と履帯駆動による良好な路外機動性能を持つためにこの種の任務の他、戦車部隊に随伴する歩兵の運搬にも良好な性能を発揮し得ることが分かった。 そこで、砲塔等を損傷した戦車の車体を使って歩兵や物資の輸送に用いることが大々的に行われるようになり、こうした車両を「カンガルー」(Kangaroo)と呼ぶようになった。 そうしたものの内、最初からこうした用途に用いるためにわざわざ砲塔を外してしまったのが、カナダ製のラム巡航戦車の車体をベースとしたラム・カンガルー装甲兵員輸送車である。 ラム・カンガルー装甲兵員輸送車のベースとなったのはラムMk.IおよびMk.II巡航戦車であるが、その改造数ははっきりしない。 装甲兵員輸送車への改造要領であるがラム巡航戦車の砲塔はバスケットごと取り去られ、車内の弾薬庫などの主砲関係の備品も取り外されて、新たに歩兵8名分の折り畳み式ベンチシートが取り付けられた。 固有の乗員は車長、前方銃手、操縦手の3名で、車長は車内左側に搭載されたNo.19無線セットの操作も行った。 定員は乗員3名と歩兵8名の合計11名となっていたが、しばしば12〜13名の歩兵を載せることもあったようである。 乗車する歩兵は砲塔リング部の開口部から出入りするため兵員室はオープントップ式であったが、中期以降の車両ではキャンバス製の幌が掛けられるようになった。 固有の武装として、車体前方機関銃(7.62mm機関銃M1919A4)が残されていた。 また現地改修で、対空・地上制圧用に12.7mm重機関銃M2を兵員室の旋回マウントに搭載した車両もあった。 1944年には各種の特殊装甲車両を装備していたことで有名な第79機甲師団内に、カナダ第1機甲輸送連隊とイギリス第49機甲兵員輸送連隊の2個のカンガルー連隊が編制されたが、これらのカンガルー連隊は主に中隊単位で様々な部隊に分派されヨーロッパ戦の終結まで戦っている。 |
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<ラム・カンガルー装甲兵員輸送車 後期型> 全長: 5.79m 全幅: 2.77m 全高: 全備重量: 乗員: 3名 兵員: 8名 エンジン: ライトR-975-C1 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン 最大出力: 400hp/2,400rpm 最大速度: 38.4km/h 航続距離: 200km 武装: 7.62mm機関銃M1919A4×1 装甲厚: 12.7〜76.2mm |
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<参考文献> ・「グランドパワー2000年11月号 ラム巡航戦車とバリエーション」 桑原敬 著 デルタ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版 ・「グランドパワー2020年2月号 世界の無名戦車(西欧編)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「パンツァー1999年4月号 カンガルー装甲兵車小史」 白石光 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年3月号 カナダ軍のラム巡航戦車」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年2月号 イギリス装甲兵車の発達」 白石光 著 アルゴノート社 |
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