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K9サンダー155mm自走榴弾砲





K9「サンダー」(雷鳴)155mm自走榴弾砲は、韓国陸軍がこれまで長く使用してきたK55 155mm自走榴弾砲(アメリカ製のM109A2自走榴弾砲のライセンス生産型)の後継として開発した国産の自走榴弾砲である。
1980年代末より検討作業に着手し、1989年からADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)の手で基礎研究が開始された。

開発に際してその主幹とされたのは高機動性と長大な射程、高い発射速度、命中精度の向上などで、最終的にサムスン・テックウィン社が主契約者として選定され、「XK9」の名称で本格的な開発が始められた。
1994年にはXK9の試作車が完成しADDと韓国陸軍による試験に供され、続いて3両の全規模開発車が製作されて1998年から第2フェイズ試験が実施された。
同年末までにこれらの全規模開発車は18,000kmの走行距離を記録し、試射した弾薬も12,000発を数えている。

本車は1998年中に「K9サンダー155mm自走榴弾砲」として制式化が行われ、1999年初めには最初の生産型が韓国陸軍に引き渡された。
K9自走榴弾砲の車内レイアウトは車体前部にパワーパックと操縦手を配し、車体後部に全周旋回式の砲塔を搭載するという近代的自走榴弾砲の基本形を踏襲している。
また本車は、NBC防護能力を備えていることも特筆できよう。

パワーパックはドイツのMTU社製のMT881Ka-500 V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)と、アメリカのアリソン社製のATDX1100-5A3自動変速機(前進4段/後進2段)の組み合わせが用いられ、姿勢制御の便を考慮してサスペンションには任意に上下動が可能な油気圧方式が採用されている。
この足周りによってK9自走榴弾砲は路上最大速度67km/hの機動性能を発揮することができ、K2「黒豹」戦車にも追随することが可能になっている。

K9自走榴弾砲の主砲は国産の52口径155mm榴弾砲で、通常弾を用いた場合の射程は30kmだが、ロケット補助榴弾を使用すれば50kmに延伸される。
使用弾種は高性能榴弾の他、多目的クラスター弾頭も用意されており、88個の成形炸薬子弾を収納して装甲車両からソフトスキン目標まで広域を制圧することができる。
砲弾は砲手の選択によって自動装填されるが、装薬は装填手による手動装填である。

砲塔内には21発の155mm砲弾が収められ、持続発射速度は毎分1〜2発を1時間で射撃できる他に、15発を3分で射撃できるバーストモードや、最大6〜8発を1分で射撃しこれを3分続けることができるモードも備えている。
なお韓国陸軍は、現代砲兵には必須となりつつあるデータリンクされた射撃統制システムを開発しており、K9自走榴弾砲には大隊射撃統制システムとリンクできる端末を搭載し、GPSによって自己位置標定も素早く行え、移動状態から60秒で初弾を発射できる。

また俯仰角と装薬を変更しつつ連続射撃し、1門の砲から発射した複数の砲弾を同時に弾着させる同時弾着射撃もできる。
韓国陸軍は500両以上のK9自走榴弾砲の導入を予定しており、本車と行動を共にするK10弾薬運搬車も2004年に試作車2両が完成して、2006年から生産を開始している。

K10弾薬運搬車は車体後部に100発以上の155mm砲弾と装薬を搭載し、前方向きに取り付けられている伸縮式アームを用いてK9自走榴弾砲に弾薬を補給する。
韓国陸軍によれば、3両のK9自走榴弾砲に対して1両の割合でK10弾薬運搬車が配備されるという。
K9自走榴弾砲は韓国陸軍以外にも、トルコ陸軍にT-155「ファティナ」(旋風)の名称で採用され、2001年に8両の第1生産ロットが発注された。

トルコ陸軍は当初ドイツ製のPz.H.2000 155mm自走榴弾砲を導入することを考えていたようだが、ドイツ政府が難色を示したためこれを断念し、次に「SP2000」の名称で国産の自走榴弾砲の開発に着手したが、このSP2000自走榴弾砲がトルコ陸軍の要求性能を満たすことができなかったため、最終的に韓国からK9自走榴弾砲を導入することを決定した模様である。
トルコ陸軍は2002年よりT-155自走榴弾砲のライセンス生産を開始しており、約300両が導入される予定である。


<K9 155mm自走榴弾砲>

全長:    12.00m
車体長:   7.44m
全幅:    3.40m
全高:    2.73m
全備重量: 46.3t
乗員:    5名
エンジン:  MTU MT881Ka-500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp/2,700rpm
最大速度: 67km/h
航続距離: 360km
武装:    52口径155mm榴弾砲×1 (48発)
        12.7mm重機関銃K6×1 (500発)
装甲厚:   最大19mm


<参考文献>

・「パンツァー2022年12月号 DX KOREA 2022 韓国陸軍・防衛業界の今を見る!」 布留川司 著  アルゴノー
 ト社
・「パンツァー2014年12月号 韓国陸軍の編成と装備」 竹内修/SSN688/柘植優介 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年10月号 韓流AFVの意外な実力」 竹内修/布留川司 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 トルコが開発・改修を進めるAFV」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2007年6月号 トピック 韓国陸軍のK9 155mm自走砲車」  アルゴノート社
・「パンツァー2011年2月号 韓国陸軍 K9自走砲」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2020年6月号 ノルウェー陸軍のK9 VIDAR & K10」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2007年1月号 韓国の兵器展示会 ディフェンス・アジア2006」  ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年4月号 韓国軍の戦闘車輌」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「世界の戦車完全図鑑」  コスミック出版

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