ISU-152重突撃砲
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+概要
KV-1S重戦車の車体をベースとし、密閉式の固定戦闘室を設けて28.8口径152mm加農榴弾砲ML-20Sを限定旋回式に搭載したSU-152重突撃砲は、1943年5月の登場以来前線部隊では好評であったが、同年11月にKV重戦車シリーズの生産がKV-85重戦車を最後にして終了すると、新しいIS重戦車をベースとした152mm加農榴弾砲搭載の重自走砲の開発が、チェリャビンスクのキーロフ工場第2特別設計局(SKB-2)に要求された。
しかし、基本的なコンセプトはSU-152重突撃砲とそれほど変わるところが無いこともあり、早くも1943年末までに35両が完成し、「ISU-152重自走砲」として制式化されて戦線に投入された。
ISU-152重突撃砲とSU-152重突撃砲との一見した外観上の差異は、KV重戦車に比べて低くなったIS重戦車の車体にSU-152重突撃砲よりやや高めの戦闘室を設けたことと、防盾基部の形状が変更されたことくらいである。
ただし戦闘室前面および周囲の装甲厚は戦訓によって、SU-152重突撃砲では60mmだったものが90mmに強化されている。
若干の傾斜角をもって構成されているところから、実質的な装甲防御力はドイツ軍のティーガーI戦車と同等になった。
搭載する砲はSU-152重突撃砲で採用された152mm加農榴弾砲ML-20Sがそのまま用いられ、縦長のスリットを配した独特の砲口制退機も踏襲されている。
152mm加農榴弾砲ML-20Sは、弾頭重量48.7kgの徹甲榴弾を使用した場合砲口初速600m/秒、射距離1,000mで124mmの装甲貫徹力があり、火力支援のみならず対戦車戦闘にも充分用いることが可能であった。
ISU-152重突撃砲は、同様の車体に長砲身122mm砲を搭載したISU-122およびISU-122S重駆逐戦車と合計して終戦までに4,075両が生産され、当初は軍団直轄の独立重自走砲連隊(21両)に、1944年11月からは戦車軍直轄の特別機械化砲兵旅団(65両)に編制されて1944〜45年の対独反攻作戦に活躍した。
独ソ戦末期に本自走砲が大量に投入されたことは、ドイツ軍側が本格的な防御態勢を取って構築した堅固な拠点を粉砕する上で多大な貢献となった。
ISU-152重突撃砲は、ソ連軍が時に未曾有の規模に集中して展開した攻撃準備砲火が撃ち漏らしたトーチカや市街区の防御拠点を歩兵と共に進出して、片っ端から直接照準射撃で吹き飛ばしていった。
152mm榴弾の直撃に耐え得る地上の防御構築物は、極めて稀であった。
このように強力な火砲を搭載した自走砲は当時、ドイツ軍にも西側連合軍にも存在していなかった。
こうしてISU-152重突撃砲はケーニヒスベルク、ベルリンなどの激烈な市街戦でも大活躍し、多くの英雄を生むことにもなった。
有名なのは、ケーニヒスベルク郊外で戦死したアレクサンドル・コスモデミヤンスキー親衛中尉である。
彼は数両のISU-152重突撃砲を率いて、市の外郭陣地に壊滅的打撃を与えた。
死後、ソヴィエト連邦英雄の称号を与えられた彼の姉は、1941年11月にモスクワ近郊のシェレメチヴォ村でドイツ軍に絞首刑にされ有名になった少女パルチザン、ゾーヤ・コスモデミヤンスカヤである。
1942年後半から1943年にかけてティーガーI戦車やパンター戦車が続けて出現したために、ソ連軍は1944年にはさらに強力なドイツ軍戦車が出現すると予想していた。
この結果、ISU-152重突撃砲の152mm加農榴弾砲の装甲貫徹力を向上させる様々な試みが行われ、いかに巨大なドイツ軍戦車にも対処できる新しい砲の開発も行われた。
これらには計画呼称がオブイェークト246、247、250の少なくとも3種類のプログラムが存在した。
オブイェークト246(ISU-152-1)は、長砲身の152mm試作砲BL-8をISU-152重突撃砲の車体に搭載した車両であった。
この砲は、ISU-152重突撃砲の装甲貫徹力を実質的に向上させるべく、砲口初速を900m/秒まで引き上げていた。
オブイェークト247(ISU-152-2)に搭載して性能調査が実施された152mm試作砲BL-10は、BL-8と少し異なっていたが性能的には似たような砲であった。
オブイェークト250(ISU-130)に搭載された130mm加農砲S-26は、艦艇砲としてすでに採用されていた砲の転用であった。
この砲が他の改良型152mm砲よりも有利な点は砲弾が大きくないため、ISU-152重突撃砲が主砲弾薬を20発しか携行できないのに対し、25発を携行できたことであった。
しかし、これらの砲はどれ1つとして採用はされなかった。
それぞれの砲が完成に向けて試験を行っている最中、ISU-122重駆逐戦車とISU-152重突撃砲はすでに戦場で成功を収め、危惧されたドイツ軍の新型戦車ティーガーIIは数が少なく問題とならなかったのである。
大戦中、ISU-152重突撃砲の改良型として最後に計画されたのがISU-152重突撃砲1945年型で、新しいIS-3重戦車の車体を流用して開発されたものであった。
この重自走砲は、IS-2重戦車を基本としたISU-152重突撃砲よりも積極的に傾斜面を採り入れた斬新な戦闘室を採用していたが、実際には装甲防御力以外の面での優位性はわずかであった。
ISU-152重突撃砲1945年型はソ連軍に制式採用されたものの、結局量産はされなかった。
ISU-152重突撃砲の生産が終了したのは1955年で、戦後の生産台数の合計は約2,450両である。
戦後、ISU-152重突撃砲には2度の大きな近代化改修が施された。
まず1956年に、ISU-152K重突撃砲としての近代化が始められた。
TPKU間接照準機付きの新型車長用キューポラの導入、対空用の12.7mm重機関銃DShKの銃架を備えたハッチの追加、車内の砲弾収納架も増設されて主砲弾薬の携行数が30発になった。
また、改良されたPS-10直接照準機も備えられた。
初期のエンジンもT-54中戦車と同系列のV-54Kディーゼル・エンジンに換装され、車外の筒型の予備燃料タンクは3個から6個に増えた。
エンジンの冷却機構は改良され、新型の通信機も導入された。
ISU-152K重突撃砲は、戦後のソ連軍の標準型重自走砲となった。
さらに1959年にはISU-152K重突撃砲の一部に対し、ISU-152M重突撃砲への追加改修が実施された。
ISU-152M重突撃砲への改修は、基本的にIS-2M重戦車の近代化プログラムと並行して実施されたため、12.7mm重機関銃用の弾薬収納架の増設や車内の自動装置類の改良など、IS-2M重戦車と同様の特徴を備えている。
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<ISU-152重突撃砲>
全長: 9.18m
車体長: 6.77m
全幅: 3.07m
全高: 2.48m
全備重量: 46.0t
乗員: 5名
エンジン: V-2-IS 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 600hp/2,000rpm
最大速度: 37km/h
航続距離: 150km
武装: 28.8口径152mm加農榴弾砲ML-20S×1 (20発)
12.7mm重機関銃DShK×1 (500発)
装甲厚: 20〜90mm
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<ISU-152-2重突撃砲>
全長: 11.67m
車体長: 6.77m
全幅: 3.07m
全高: 2.48m
全備重量: 46.5〜47.0t
乗員: 5名
エンジン: V-2-IS 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 600hp/2,000rpm
最大速度: 34km/h
航続距離: 150km
武装: 45口径152mm加農砲BL-10×1 (20発)
12.7mm重機関銃DShK×1 (500発)
装甲厚: 20〜90mm
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<ISU-130重突撃砲>
全長: 11.42m
車体長: 6.77m
全幅: 3.07m
全高: 2.48m
全備重量: 47.0t
乗員: 4名
エンジン: V-2-IS 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 600hp/2,000rpm
最大速度: 34km/h
航続距離: 150km
武装: 54.7口径130mm加農砲S-26×1 (25発)
12.7mm重機関銃DShK×1 (500発)
装甲厚: 20〜90mm
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<ISU-152重突撃砲 1945年型>
全長: 8.53m
車体長: 6.67m
全幅: 3.15m
全高: 2.24m
全備重量: 47.3t
乗員: 5名
エンジン: V-2-IS 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 600hp/2,000rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 180km
武装: 28.8口径152mm加農榴弾砲ML-20SM×1 (20発)
12.7mm重機関銃DShK×2 (600発)
装甲厚: 20〜120mm
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兵器諸元(ISU-152重突撃砲)
兵器諸元(ISU-152BM重突撃砲)
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<参考文献>
・「パンツァー2001年6月号 ソ連・ロシア自走砲史(9) 戦後型自走砲開発の模索期」 古是三春 著 アルゴノー
ト社
・「パンツァー2001年2月号 ソ連・ロシア自走砲史(5) ISU-152/ISU-122」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年9月号 ISU重自走砲とソビエトの重車輌開発事情」 佐藤慎ノ亮 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年1月号 ソビエト SU-85/SU-100/ISU-152自走砲」 真出好一 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年4月号 ソ連軍 SU-152/JSU-152自走砲」 城島健二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2015年1月号 第二次大戦時の直援用車輌列伝」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年10月号 スターリン3戦車の構造と性能」 鹿内誠 著 アルゴノート社
・「世界の戦車イラストレイテッド2 IS-2スターリン重戦車 1944〜1973」 スティーヴン・ザロガ 著 大日本絵画
・「グランドパワー2013年3月号 ソ連軍重自走砲(2)」 斎木伸生 著 ガリレオ出版
・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(上)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2001年12月号 ソ連軍自走砲(1)」 古是三春 著 デルタ出版
・「世界の軍用車輌(1)
装軌式自走砲:1917〜1945」 デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著 光人社
・「図解・ソ連戦車軍団」 斎木伸生 著 並木書房
・「戦車名鑑
1939〜45」 コーエー
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