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IS-6重戦車





1944年初め、チェリャビンスク・キーロフ工場第2特別設計局(SKB-2)の主任技師コーチンは、IS-2重戦車の量産が軌道に乗ったことを踏まえ、引き続く後継重戦車の開発を配下のSKB-2の技師たちに命じた。
当初「オブイェークト701」と命名された新型重戦車プランは、複数のチームが別々の企画で進めることになった。
一方、配下の技師たちが新型重戦車の設計にあたっている裏で、SKB-2の親玉であるコーチン技師自身も新機軸を盛り込んだ重戦車開発の模索を開始していた。

1944年前半に彼自身がデザインし、第100試作工場(チェリャビンスク・キーロフ工場の試作車製作部門)にモックアップを作らせたものに「IS-5」(開発番号不詳)というプランがある。
少しややこしいが、「IS-5」の名称が与えられた重戦車はすでに「オブイェークト248」(IS-2重戦車の主砲を56口径100mm戦車砲S-34に換装した試作車両)が存在したため、このIS-5重戦車は2代目ということになる。

2代目IS-5重戦車は端的にいうなら、IS-2重戦車にドイツ軍のパンター戦車のデザインを採り入れてリファインしたような姿をしており、大直径転輪を採用して上部支持輪を省いていた点も同じだった。
また機関室上面のグリルの形状がパンター戦車に酷似しており、コーチン技師が1943年7〜8月のクールスク戦以来、鹵獲されたドイツ軍の新型戦車を熱心に研究していたことが分かる。

しかし結局2代目IS-5重戦車はモックアップの製作のみに終わり、ソ連軍への制式採用は成らなかった。
さて、クールスク戦でソ連軍は数々のドイツ軍車両を鹵獲したが、その中にいわゆるハイブリッド方式の機関系を搭載した重突撃砲フェルディナントがあった。
同車に採用されたハイブリッド式機関系は、エンジンで発電機を駆動することで電力を発生させ、その電力を電気式モーターに伝えることで左右の起動輪をそれぞれ単独で駆動するというものであった。

当時の技術では満足のいく性能を持つ重戦車用の機械式変速機を製作するのが困難だったため、ドイツの戦車技師フェルディナント・ポルシェ工学博士はハイブリッド方式の機関系を採用することで、電気機関車並みに操縦の容易な重戦車を実現しようと画策し、ティーガーI重戦車の試作車の1つであるVK.45.01(P)を開発した。
結局VK.45.01(P)は、ヘンシェル社が開発した試作車VK.45.01(H)に敗れティーガーIとはならなかったが、VK.45.01(P)のコンポーネントを流用してフェルディナント重突撃砲が製作されたのである。

重戦車に搭載する機械式変速機の開発で苦労していたのはソ連軍も同じだったため、鹵獲されたフェルディナント重突撃砲はクビンカの装甲車・戦車科学技術研究所(NIIBT)において1943年後半一杯を費やして、そのハイブリッド式機関系の調査と研究が行われた。
そしてその結果を基として、1944年の初めにIS-1重戦車にハイブリッド式機関系を搭載したIS-1E重戦車が製作され、各種の試験に供された。

そして同車の試験結果が大変良好だったことから同年6月、国家防衛委員会(GKO)と戦車工業人民委員部(NKTP)はSKB-2に対して、ハイブリッド式機関系を搭載する新型重戦車「IS-6」の試作命令を出した。
コーチン技師を長とする設計チームはこれに応じて、モックアップの製作のみに終わった2代目IS-5重戦車にハイブリッド式機関系を搭載した試作車「オブイェークト253」の製作に着手し、早くも1944年10月には試作車が完成した。

オブイェークト253の外観は2代目IS-5重戦車に酷似していたが、機関系はV-12U V型12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力700hp)とDK-305A発電機(38,500W)、そして2基の電気モーター(DK-302AとDK-302B)が機関室に収められた。
しかし完成したオブイェークト253を用いて実施された走行試験では、走行を開始して間もなく試作車が大爆発を起こしてしまったという。

激しい爆発炎は30mほど離れた格納庫まで達しかねないほどだったというが、この「試験初日の大爆発」については後世に作られた逸話であって事実ではないとする研究者も存在する。
実際には発電機が走行時の過熱に耐えられずに焼損したというのが真相のようだが、事故原因の究明の結果、このハイブリッド式機関系にはより充実した冷却機構が必要であることが判明した。

しかしコーチン技師の必死の努力にも関わらず、ハイブリッド式機関系の過熱に起因する不具合の発生とその程度は日毎に深刻さを増すばかりであった。
それでも試験と改良の努力は続行され、1944年の晩秋にオブイェークト253は公式な試験を受けるため、NIIBTに搬入された。

この時、オブイェークト253と同一の車体にIS-4重戦車用の機械式変速機を取り付けた「オブイェークト252」と呼ばれる車両も、オブイェークト253との比較試験のために同時に搬入されたようである。
しかし、NIIBTにおいてオブイェークト252/253とも試験と呼べるようなことはほとんど行われなかったようで、その後この2両はレニングラード(現サンクトペテルブルク)に移送され、同地で再建が進められていた第100キーロフ工場の展示施設に収められた。


<IS-6重戦車(オブイェークト252)>

全長:    10.07m
車体長:   7.02m
全幅:    3.43m
全高:    2.53m
全備重量: 51.5t
乗員:    4名
エンジン:  V-12U 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 700hp/2,000rpm
最大速度: 43km/h
航続距離: 150km
武装:    43口径122mm戦車砲D-25T×1 (30発)
        12.7mm重機関銃DShK×1 (500発)
        7.62mm機関銃SGMT×1 (1,200発)
装甲厚:   20〜150mm


<IS-6重戦車(オブイェークト253)>


全長:    10.07m
車体長:   7.02m
全幅:    3.43m
全高:    2.53m
全備重量: 54.0t
乗員:    4名
エンジン:  V-12U 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 700hp/2,000rpm
最大速度: 37km/h
航続距離: 150km
武装:    43口径122mm戦車砲D-25T×1 (30発)
        12.7mm重機関銃DShK×1 (500発)
        7.62mm機関銃SGMT×1 (1,200発)
装甲厚:   20〜150mm


<参考文献>

・「世界の戦車イラストレイテッド2 IS-2スターリン重戦車 1944〜1973」 スティーヴン・ザロガ 著  大日本絵画
・「パンツァー2007年2月号 IS-6重戦車 −ある試作車の生涯−」 佐藤慎ノ亮 著  アルゴノート社
・「パンツァー2019年3月号 IS-3と第二次大戦後のソ連重戦車」 古是三春 著  アルゴノート社
・「グランドパワー2018年12月号 ソ連軍重戦車 T-10」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「ソビエト・ロシア戦闘車輌大系(上)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年10月号 ソ連軍重戦車(3)」 古是三春 著  デルタ出版


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