![]() |
|||||
●開発 試製五式砲戦車(ホリ車)は、未完成に終わった五式中戦車(チリ車)をさらに発展させたプランで、日本軍初の本格的な重駆逐戦車といえる車両である。 前面125mmの重装甲を施した密閉式の固定戦闘室に新設計の高初速10cm戦車砲を搭載し、五式中戦車と同じく副砲として37mm戦車砲を備え、さらに対空用として連装の20mm機関砲の搭載まで考えられていた。 なお「五式砲戦車」という名称は俗称で、本車の正式名称は「試製新砲戦車(甲)」(秘匿名称「ホリ」)である。 ホリ車は1943年度の計画で、ドイツ軍のフェルディナント/エレファント重突撃砲のようにエンジンを車体中央部に配置し、車体後部を戦闘室としたホリ車I型と、同軍のヤークトティーガー重駆逐戦車のように車体中央部に戦闘室を配置したホリ車II型の2種類の車両が設計されたという。 なおホリ車I型には前面装甲を段状にデザインしたプランと、避弾経始を重視して傾斜装甲を採用したプランが存在しており、傾斜装甲タイプは木製モックアップの写真が残されている。 一方、ホリ車II型の方は1944年8月に作図された側面図が残されており、それによるとホリ車II型は車長用キューポラにステレオ式測遠機を装備していた。 ステレオ式測遠機は大戦末期にドイツ軍のパンター戦車F型用に開発されたものが有名であるが、通常の測遠機に比べて遠距離での測定精度が格段に優れており、ホリ車が強力な主砲を活かしてアウトレンジから敵戦車を撃破することを構想していたことを窺わせる。 |
|||||
●攻撃力 ホリ車の主砲として搭載することが予定されていた新型10cm戦車砲は、第一陸軍技術研究所第三科において「試製10cm戦車砲(長)」の名称で1943年8月に開発着手された。 口径105mmで砲身長比55口径という日本軍が開発した戦車砲としては最大クラスのもので、弾頭重量16kgの砲弾を砲口初速900m/秒で撃ち出し、射距離1,000mで厚さ200mmの均質圧延装甲板の貫徹を狙っていた。 砲弾の重量は30kgもあり、砲尾の自動開閉装置と砲弾の半自動装填装置が付属した。 1944年12月には大阪造兵廠で2門の試作砲が完成し、数次の改修を経て1945年5月下旬に一応の完成とみなされた。 なおこの砲には当初から、ドイツ軍のIII号突撃砲やIV号駆逐戦車に用いられたザウコプフ(豚の頭)型防盾によく似た形状の防盾が付属していた。 砲は限定旋回式でホリ車に搭載した場合、旋回角は左右各10度ずつ、俯仰角は−10〜+20度となっていた。 |
|||||
●防御力 ホリ車の車体は第四陸軍技術研究所が開発を担当し、三菱重工業東京機器製作所(玉川工場)で製作されることになっていた。 ホリ車の乗員は車長、砲手、操縦手、通信手兼副砲手、装填手2名の計6名が予定されていた。 車体開発の詳細については伝えられていないが、終戦時には玉川工場において5両の車体が製作中であり、工程は50%に達していたという。 ホリ車の装甲厚は戦闘室が前面125mm、側/後面50mm、車体の装甲厚はベースとなった五式中戦車と同程度で前面75mm、側面35mm、後面50mmとなっており、日本軍の戦闘車両としてはトップレベルの重装甲を誇っていた。 もし実戦に投入されていればその強力な主砲の威力と相まって、M4中戦車をアウトレンジで撃破できる唯一の車両と成りえたのではないかと推測される。 |
|||||
●機動力 ホリ車に搭載される予定だったエンジンは五式中戦車と同じもので、川崎航空機でライセンス生産を行っていたドイツのBMW社製の航空機用V型12気筒液冷ガソリン・エンジン(最大出力550hp、排気量37.6リットル)である。 巨大な主砲を搭載するホリ車は戦闘重量40tと五式中戦車より5t重かったが、高出力の航空機用エンジンのおかげで路上を40km/hで走行する機動力を発揮することができた。 |
|||||
<試製五式砲戦車 ホリ> 全長: 7.40m 全幅: 3.05m 全高: 2.70m 全備重量: 40.0t 乗員: 6名 エンジン: 九八式 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン 最大出力: 550hp/1,500rpm 最大速度: 40km/h 航続距離: 200km 武装: 試製55口径10cm戦車砲(長)×1 (60発) 一式46口径37mm戦車砲×1 (100発) 20mm連装高射機関砲×1 (480発) 九七式車載7.7mm重機関銃×2 (4,980発) 装甲厚: 25〜125mm |
|||||
<参考文献> ・「戦車機甲部隊 栄光と挫折を味わった戦車隊の真実」 新人物往来社 ・「日本軍戦闘車両大全 装軌および装甲車両のすべて」 大日本絵画 ・「世界の戦車メカニカル大図鑑」 上田信 著 大日本絵画 ・「帝国陸海軍の戦闘用車両」 デルタ出版 ・「帝国陸軍 戦車と砲戦車」 学研 |
|||||