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G6ライノ155mm自走榴弾砲





G6ライノ155mm自走榴弾砲は、南アフリカ陸軍砲兵軍団の要求に沿ってLIW社(現デネル・ランドシステムズ社)が開発した、世界でも数少ない装輪式の自走榴弾砲である。
車名の「ライノ」(Rhino)は現地語で「サイ」を意味しており、長砲身砲を振りかざす本車にぴったりのネーミングとなっている。

装輪式車両は装軌式車両と違って長距離の自走が可能なので、広大なサヴァナ地帯で長距離侵攻作戦を行う南アフリカ軍の運用に適しており、使用環境の似通ったアラブ首長国連邦やオマーンといった中東の砂漠国に対しても輸出実績を上げている。
G6自走榴弾砲の最初の試作車は1981年に完成し、翌82年に初めて公開された。
その後改良を加えられた増加試作車と先行生産型が作られ、1988年には最初の生産型が完成している。

G6自走榴弾砲は南アフリカ陸軍に43両が採用された他、1990年にはアラブ首長国連邦に78両が輸出され、さらに1994年にはオマーンにも24両が輸出されている。
全長10m、50t近い巨体は3軸6輪の巨大ランフラット防弾タイアで支えられ、全輪駆動方式を採用している。
車体レイアウトは、操縦室が車体の最前部に2個のタイアに挟まれるように配置され、その背後に機関室、車体の後ろ半分が戦闘室となっており、大型の旋回砲塔がちょうど4個のタイアの上に載せられている。

操縦手席は車体の最前部中央に置かれ、3面を大型の防弾ウィンドウに囲まれているので非常に視界が広く、運転し易い。
車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造であるが特に重要部位の装甲板は厚くなっており、20mm機関砲弾の直撃に耐えるという。

また車体には南アフリカの車両らしく対戦車地雷の炸裂から乗員を守る構造や、何日間かの独立戦闘に必要な用具・補給品を収容するスペースが設けられている。
エンジンは、出力525hpの空冷ディーゼル・エンジンを採用している。
巨体の割に小さなエンジンに感じるがそこが装輪式車両の優れたところで、装軌式車両と違い充分な機動力を発揮できる。

具体的には高速道路であれば最大速度85km/hのスピードを出し、砂漠地帯でも30km/hで走破するという。
また航続能力は70km/hのスピードを維持したままで、700kmの距離を走り続けられる(燃料700リットル)。
21.00×25のランフラット防弾タイアは、油圧ショック・アブソーバー付き独立トーションバーで支えられ、路面に適応したタイアの空気圧を調整できる中央タイア圧制御装置も搭載する(オプション)。

機関室と車体後面の左右には、射撃時の安定性を確保するために格納式の駐鋤が備えられており、60秒で射撃姿勢に、さらに30秒で走行姿勢に移ることができる。
砲塔は車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造で、砲塔内には前部右側に車長、前部左側に砲手が位置する他、装填手、閉鎖機操作手、弾薬手の合計5名が搭乗するが、持続射撃を行う場合には弾薬手が砲塔外に出て車体後面の小ハッチから給弾を行う。

主砲はLIW社が開発した牽引式の45口径155mm榴弾砲G5を車載化したもので、NATO規格の全ての155mm砲弾を発射することができる。
砲口には単作動式の砲口制退機が装着されており、砲の俯仰角は−5〜+75度となっている。
最大射程は通常弾で30km、ベース・ブリード弾で39km、ロケット補助推進弾(VLAP)で50kmだが、2001年には最大射程を70kmに延伸するPRO-RAM弾が開発された。

発射速度は最大装薬で4発/分、15分間の持続射撃を行うことができる。
携行弾数は砲弾が45発、装薬が50個で、全て砲塔リングの下部に収納されている。
砲撃精度は、射距離30kmにおいて誤差が距離で144m、方位角で60mだという。
G6自走榴弾砲は欧米の最新エレクトロニクス満載型自走砲に比べると、駆動系にマニュアル操作が残っている自走砲だが安価で堅牢、何より砲撃能力と高速機動力は秀逸と評価できる。

ただし、大きな欠点は360度の全周砲撃ができないことである。
砲撃の可能旋回範囲は、左右各40度ずつだという。
そこで輸出用として360度の全周砲撃ができるT6砲塔システムが、G6砲塔をベースに開発された。
T6砲塔システムの主砲は新開発の52口径155mm榴弾砲に換装されており、APU(Auxiliary Power Unit:補助動力装置)が追加されている。

T6砲塔システムは砲塔部のみで自走榴弾砲としての機能が完結しているため、様々な戦車の車体に簡単に搭載できるのが売りとなっている。
1996年に南アフリカ陸軍は、保有する43両のG6自走榴弾砲を近代化型のGV6に改修することを発表し、すでに改修を完了している。
また射程の延長を図って、主砲を52口径155mm榴弾砲に換装することも計画されている。


<G6 155mm自走榴弾砲>

全長:    10.40m
車体長:   9.20m
全幅:    3.40m
全高:    3.50m
全備重量: 47.0t
乗員:    6名
エンジン:  空冷ディーゼル
最大出力: 525hp
最大速度: 85km/h
航続距離: 700km
武装:    45口径155mm榴弾砲G6×1 (45発)
        7.62mm機関銃または12.7mm重機関銃×1
装甲厚:   最大23mm


<参考文献>

・「パンツァー2003年12月号 改良型G-6 もう1つの巨大な飛躍(1)」 ルパート・ペンギャレ 著  アルゴノート社
・「パンツァー2004年1月号 改良型G-6 もう1つの巨大な飛躍(2)」 ルパート・ペンギャレ 著  アルゴノート社
・「パンツァー2022年3月号 特集 装輪自走砲の今」 荒木雅也/毒島刀也 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 世界のトレンド?装輪式自走砲」 大山勝美 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年7月号 南アフリカのG6改良計画(1)」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年8月号 南アフリカのG6改良計画(2)」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年8月号 ヴェールを脱いだ装輪155mmりゅう弾砲」  アルゴノート社
・「パンツァー2001年3月号 南アフリカの155mm榴弾砲システム」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「グランドパワー2004年12月号 15cm自走砲 G6」  ガリレオ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」  学研
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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