イギリス陸軍は第2次世界大戦終了後間もない1946年1月に、「FV600シリーズ」と呼ばれる6輪装甲車ファミリーの開発に着手した。 このFV600計画から生まれた偵察装甲車型がFV601「サラディン」(Saladin:サラセンの王で、十字軍をさんざん悩ませたことで知られる)、装甲兵員輸送車型がFV603「サラセン」(Saracen:サラセン人)である。 FV600シリーズの開発はアルヴィス社の手で行われ、サラセン装甲兵員輸送車の試作車は1952年に完成し、最初の生産型は同年12月にロールアウトした。 1950年代から60年代の初めにかけてサラセン装甲兵員輸送車はイギリス陸軍の主力APCとして多用されたが、1963年より装軌式のFV432「トロウジャン」(Trojan:トロイア人)装甲兵員輸送車への更新が始められた。 しかし輸出用として生産は1972年まで継続され、その生産数は1,838両を数えている。 サラセン装甲兵員輸送車の車体は前面12mm、側面10mm厚の圧延防弾鋼板を溶接したもので、機関系や足周りはサラディン戦闘偵察車と共通である。 エンジンはロールズ・ロイス社製のB80 Mk.6A V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(出力160hp)を搭載しており、本車に路上最大速度72km/h、路上航続距離400kmの機動性能を与えている。 サスペンションは、ダブル・ウィッシュボーンのトーションバー方式を採用している。 車内レイアウトは車体前部が機関室、車体中央部が操縦室、車体後部が兵員室となっており、固有の乗員2名(操縦手、車長)に加えて後部兵員室に10名の完全武装歩兵を収容することができる。 スペースを広く取るために、変速機や燃料タンクなどは全て兵員室の床下に配置されている。 兵員室の左右側面には、視察窓を兼ねたガンポートが各3基ずつ備えられている。 また兵員室の上面には円形のハッチが設けられており、搭乗歩兵が身を乗り出して外部を射撃したり緊急脱出に使用することができる。 兵員の乗降は通常、車体後面に設けられた観音開き式のドアから行われる。 車長席の上部には、7.62mm機関銃L3A3を備える全周旋回式銃塔が搭載されている。 さらに兵員室上面のハッチにも旋回リングが設けられており、7.7mmブレン軽機関銃などを装着することが可能である。 サラセン装甲兵員輸送車の派生型としては、中東向けの空調装置を追加装備したFV603C装甲兵員輸送車やFV610装甲指揮車、FV611装甲救急車などがある。 |
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<FV603サラセン装甲兵員輸送車> 全長: 5.233m 全幅: 2.539m 全高: 2.463m 全備重量: 10.17t 乗員: 2名 兵員: 10名 エンジン: ロールズ・ロイスB80 Mk.6A V型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 160hp/3,750rpm 最大速度: 72km/h 航続距離: 400km 武装: 7.62mm機関銃L3A3またはL3A4×2 (3,000発) 装甲厚: 8〜16mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2004年12月号 イギリス陸軍のサラディン戦闘偵察車とサラセン装甲兵車」 城島健二 著 アル ゴノート社 ・「パンツァー2012年11月号 冷戦期のイギリス装輪AFV」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年2月号 イギリス装甲兵車の発達」 白石光 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年5月号 イギリスのサラセン6輪装甲兵車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2011〜2012」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 |
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