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TPz.1フクス装甲兵員輸送車





TPz.1フクス装甲兵員輸送車は、マルダー歩兵戦闘車やM113装甲兵員輸送車を支援する目的で、SPz.2ルクス8×8型装輪式装甲偵察車の足周りを流用してダイムラー・ベンツ社が開発した、6×6型の装輪式装甲兵員輸送車である。
本車の開発は1964年に西ドイツ陸軍が、1970年代に用いる8×8、6×6、4×4といった装輪式装甲車の開発要求を出したことに始まる。

開発当初から8×8、6×6、4×4の装輪式装甲車を共通のコンポーネントを用いて開発することが考えられ、MANやビューシンク、ラインシュタール等の各社で構成されたJPO(Joint Project Office:統合開発オフィス)の手で開発が進められたが、ダイムラー・ベンツ社も独自に開発を行い、8×8型のルクス装甲偵察車を同社が開発することが決まったのを受けて、1970年に同社が6×6型の開発メーカーに選ばれて本格的な開発に着手した。

そして1977年には「TPz.1」(Transportpanzer 1:装甲兵員輸送車1型)として996両が発注され、生産はダイムラー・ベンツ社よりライセンス権を得て、ラインシュタール・ヴェアテクニク社(現ラインメタル・ラントジステーム社)の手で行うこととされ、生産がスタートした。
生産型は1979年から引き渡しが始まり、同年12月に「フクス」(Fuchs:ドイツ語で”狐”を表す単語)の呼称が与えられている。

西ドイツ陸軍向けの最後の生産型は1986年に完成したが、その後も輸出用として生産が続けられ、さらに西ドイツ陸軍もNBC検知型や危機即応派遣型の追加発注を行い、西ドイツ向けだけで1,175両が生産され、輸出車両もすでに170両以上を数えている。
フクス装甲兵員輸送車の車体構造は、激烈な戦場を駆け回るアメリカ軍のLAV/ピラーニャ装輪式装甲車の構造とは全く違っている。

基本的にフクス装甲兵員輸送車は、その名前からも分かるように格闘戦兵器ではない。
前線のすぐ後方で兵員や貨物を輸送し、その他雑多な任務に重宝に使われるワークホースである。
もちろん、通常の軍用輸送トラックとは違う。
フクス装甲兵員輸送車の役目は道路の無い悪路を越え、ひょっとしたら残敵が徘徊しているかも知れない戦場の中で輸送任務に使われるのである。

フクス装甲兵員輸送車の車体は、輸送任務に最適な構造となっている。
つまり、大型輸送トラックと同じなのである。
車体前部はラージ・フロント・ウィンドウを付けた乗員用大型装甲キャブ、キャブの後ろが機関室、車体後部が兵員/貨物室という配置で、これはトラックと瓜二つといえる。
これ以上、輸送に適した構造は無いであろう。

装甲キャブは圧延防弾鋼板の全溶接構造で前部を空間装甲としており、小火器弾や榴弾の破片から乗員を保護する程度の耐弾能力が施されている。
乗員は2名で左側に操縦手席、右側に車長席が配置され、キャブの左右には大きな乗降用防弾ドアが取り付けられている。

フロント・ウィンドウは非常に視界の広い防弾ガラスで、必要に応じて装甲シャッターでカバーするようになっている。
戦場に進出した場合は装甲シャッターを下ろし、操縦手は4基のペリスコープで外を見ながら運転する。
車長は頭上のハッチを開け、マウントした7.62mm機関銃MG3で前方を警戒する。

キャブの後方にある機関室にはエンジン、変速機、冷却器、パーキングブレーキ、パワーブレーキ、油圧システム、発電機(5kW)などパワーパック一式がそっくり収容されている。
このパワーパックはマウントや電気系統の接続が簡単に脱着できる構造になっているため、取り外しにかかる時間はたったの10分に過ぎない。

エンジンはダイムラー・ベンツ社製のOM402A V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力320hp)、変速機はZF社製の6HP-500自動変速機(前進6段/後進1段)が採用されている。
また本車には、自動消火システムも設置されている。
機関室の右側面には、キャブと兵員/貨物室を連絡する小通路が設けられている。

6輪のタイアは、14.00×20のランフラット・タイアが用いられている。
これらはコイル・スプリングと油圧ショック・アブソーバーによって懸架され、前方の2軸4輪がステアリング(操向)する機構となっている。
路上最大速度は105km/h、路上航続距離は800kmである。

車体後部には2基のスクリューが装着されており、車体前部の波切り板を開くことで10.5km/hの速度で水上航行できる。
兵員/貨物室のスペースは全長3.2m、幅2.5m、高さ1.25mで、装甲車の兵員室としては広い部類に属する。
床面積は8m2あり、形の良く似たフランス軍のVAB装輪式装甲車よりも2.4倍も大きい。

兵員/貨物室内には独立した座席が左右側面に各5基ずつ設置されており、10名の兵員が疲労無く座れる。
座席を畳めば、後面にある観音開き式のドアから2.6t分の貨物を搭載できる。
兵員/貨物室の上には3つのハッチがあり、中央にある直径1mの円形ハッチにはラインメタル社製の100口径20mm機関砲MK20 Rh202が取り付けられる。

車体の左側面には、6基の発煙弾発射機を装備している。
フクス装甲兵員輸送車は戦闘重量17t、全長6.8mと大型のため、派生型に利用し易いといえる。
本車の派生型としてはRASITレーダー搭載車TPz.1 PARA、電子戦車両Eloka、装甲指揮車、装甲工兵車、EOD(爆発物処理)車、そしてNBC偵察車などが製造されている。

特にNBC偵察車は気密性、機動力、信頼性が評価され、アメリカ軍でM93「フォックス」(Fox:英語で”狐”を表す単語)として制式採用されている。
同車にはサンプリング装置、NBC検出器、マーカー等が装備され、全ての操作を車内から安全に行うことができる。


<TPz.1フクス装甲兵員輸送車>

全長:    6.83m
全幅:    2.98m
全高:    2.30m
全備重量: 17.0t
乗員:    2名
兵員:    10名
エンジン:  ダイムラー・ベンツOM402A 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 320hp/2,500rpm
最大速度: 105km/h(浮航 10.5km/h)
航続距離: 800km
武装:    7.62mm機関銃MG3×1 (1,000発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2010年5月号 ドイツ連邦軍のワーク・ホース フクス装甲兵車」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年5月号 目に見えない脅威に対抗するフクスNBC偵察車」 高野章 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年11月号 ドイツ陸軍のワーク・ホース フクス装甲兵車」  アルゴノート社
・「パンツァー2012年10月号 アメリカ陸軍の現用AFV」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 ドイツ陸軍の主要車輌」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年11月号 ドイツの汎用装輪装甲車 フクス」  アルゴノート社
・「パンツァー2013年8月号 ドイツAFV インアクション」  アルゴノート社
・「パンツァー2002年3月号 アメリカ陸軍の現用車輌」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2018年6月号 戦後の米軍装輪式戦闘車輌」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「世界の主力軍用車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版


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