「フェネック」(Fennek:大きな耳を持つ小型の狐の一種)装甲偵察車は、オランダ陸軍とドイツ陸軍が1990年代前半から共同で開発を進めた4×4型装輪式の偵察用装甲車両である。 オランダ陸軍は当時運用していた装軌式のM113装甲指揮・偵察車の後継車両を求めており、ドイツ陸軍も旧式化した8×8型装輪式のSPz.2ルクス装甲偵察車を更新する必要があったため、製造・運用コストの安い4×4型装輪式の偵察用装甲車を共同開発することになった。 開発に当たってはオランダのSPエアロスペース&ヴィークル・システムズ社とドイツのKMW(クラウス・マッファイ・ヴェクマン)社による合弁企業「フェネック・コンソーシアム」が設立され、フェネック・シリーズの生産は全て同社が行っている。 なおSPエアロスペース社が2004年8月に経営破綻したため、KMW社によって新たにDDVS(ダッチ・ディフェンス・ヴィークル・システムズ)社がオランダに設立され、フェネック・コンソーシアムの構成企業となった。 フェネック装甲偵察車は2000年4月まで試作車による各種試験が実施され、2001年12月にオランダ陸軍向けに410両(偵察型202両、対戦車型130両、汎用型78両)、ドイツ陸軍向けに222両(偵察型178両、戦闘工兵型24両、砲兵観測型20両)のフェネック・シリーズを生産する契約が結ばれた。 その後ドイツ陸軍は約80両のフェネック・シリーズを追加発注しており、ドイツ陸軍の調達数は約300両に増えている。 フェネック・コンソーシアムはオランダ陸軍向けに2003年7月から、ドイツ陸軍向けに同年12月からフェネック・シリーズの生産型の引き渡しを開始しており、2011年までに引き渡しを完了している。 フェネック装甲偵察車の車体規模はアメリカ陸軍の同種車両であるHMMWVよりも一回り近く大きく、戦闘重量もおよそ10tと二回り重くなっている。 しかし天井までの高さは1.79mに抑えられており、偵察任務に適した隠蔽性の高いデザインになっている。 フェネック装甲偵察車の車体は防弾アルミ板の全溶接構造で、全周に渡って7.62mm弾の直撃や榴弾の破片に対する防御力を有している。 また地雷防御用の追加装甲キットも用意されているが、これを装備した場合戦闘重量が11tに増加する。 車内レイアウトは車体前〜中央部が乗員室、車体後部が機関室となっており、乗員室には前部中央に操縦手、その後方左側に車長、後方右側に偵察・通信手が搭乗する。 フェネック装甲偵察車のパワーパックはドイツのドゥーツ社製のBF6M2013C 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(排気量5,700cc、出力240hp)と、レンク社製のRECO606自動変速機(前進6段/後進1段)の組み合わせで、路上最大速度115km/h、路上航続距離860kmの機動性能を発揮する。 また本車は状況に応じて2WDと4WDを切り替えることが可能で、舗装路を高速走行する際は2WDモード、不整地を走行する際は4WDモードというように使い分けることができる。 タイアはフランスのミシュラン社製の12.00×20のランフラット・タイアを採用しており、シーゴン社製のCTIS(Central Tire Inflation System:タイア空気圧調整システム)によって地形に適した空気圧に調整することが可能である。 機関室には火災探知機と自動消火装置が装備されており、隠蔽性を高めるために排気の赤外線シグネチュアを低減させる工夫もなされている。 また本車は、NBC防護システムも標準装備している。 乗員室上面には3名の乗員それぞれにハッチが用意されているが、車長は必要に応じて座席を昇降させて座ったままハッチから外部を視察できるようになっている。 また偵察・通信手用ハッチにはオプションで12.7mmまたは7.62mm機関銃、40mm自動擲弾発射機などを装備することができ、これらは車内から操作可能である。 オランダ陸軍の偵察型はアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2、ドイツ陸軍の偵察型はヘッケラー&コッホ社製の40mm自動擲弾発射機GMWまたはラインメタル社製の7.62mm機関銃MG3を装備している。 いずれの装備も全周旋回が可能で、−9〜+40度の俯仰角を有している。 またこれ以外に、3連装の発煙弾発射機を2基装備できるようになっている。 一方オランダ陸軍の対戦車型は武装を固定装備せず、車内にイスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズ社製のスパイクMR対戦車ミサイルの発射機とミサイル5発を収容しており、戦闘の際には発射機を車外に持ち出して使用する。 スパイクMR対戦車ミサイルは重量14kg、最大有効射程2,500m、爆発反応装甲への対処として二重式の成形炸薬弾頭を有しており、装甲穿孔力はRHA(均質圧延装甲板)換算で700mmに達する。 フェネック装甲偵察車の最大の特徴は、偵察・指揮車としての視察および車内装備にある。 視察用装備は車長席の後方に設置されている車体上1.5mにまで伸びる伸縮式マストの上に一まとめにして搭載され、CCDビデオカメラ、赤外線暗視装置、レーザー測遠機から成る。 マストは220度の範囲で旋回が可能で、±30度の範囲で視察用装備を俯仰させることができる。 また必要に応じて視察用装備を車体から取り外してケーブルで接続することにより、車体から40mまで離れた位置に設置することも可能である。 この場合、乗員は車内からケーブルを通じて視察用装備を遠隔操作するようになっている。 車内にはこれらの視察システムに加えてTCCS(Tactical Command and Control System:戦術指揮・統制システム)と呼ばれるC4Iシステムが装備され、高度な偵察・情報処理機能を有する。 |
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<フェネック装甲偵察車> 全長: 5.71m 全幅: 2.49m 全高: 2.18m 全備重量: 9.7t 乗員: 3名 エンジン: ドゥーツBF6M2013C 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 240hp/2,500rpm 最大速度: 115km/h 航続距離: 860km 武装: 40mm自動擲弾発射機または12.7mm重機関銃または7.62mm機関銃×1 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2006年12月号 ヨーロッパ随一の戦車メーカー クラウス・マッファイ・ヴェクマン」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年12月号 フェネック装甲偵察車 新世代の偵察車輌」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年2月号 フェネック装甲偵察車の近況」 諏訪守/坂本雅之 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年9月号 オランダ軍AFVの半世紀」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年1月号 サトリ2002に出品された各国の野戦車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年7月号 オランダ陸軍のフェネック装甲偵察車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年2月号 DSEi2001の装輪戦闘車」 二木巌 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年6月号 フェネック装甲偵察車」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年11月号 ユーロサトリ兵器展」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年3月号 偵察車輌の将来」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2007年6月号 アフガニスタンに派遣されたオランダ軍車輌」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2004年9月号 EUROSATORY 2004」 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 |
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