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ERC戦闘偵察車





ERC戦闘偵察車は、パナール社が1975年からプライヴェート・ヴェンチャーで開発に着手した6×6型の装輪式偵察車両で、1977年に各国の軍事関係者が集まるサトリ兵器展示会で初めて公開された。
名称の「ERC」は、”Engin de Reconnaissance Canon”(加農砲搭載型偵察車両)の頭文字を採ったものである。
本車は最初から輸出を意図していたがフランス陸軍にも採用され、7カ国で合計389両が使用されている。

エンジンを始めとして機構的にはパナール社が同時期に開発したVCR装甲車と共通点が多く、広い意味ではファミリーともいえる。
ERC戦闘偵察車の車体は圧延防弾鋼板の溶接構造で、車体底面は浅いV字形に整形されており地雷の被害を軽減するようになっている。

操縦手は車体前部わずかに左寄りに位置し、車体中央部には全周旋回式の砲塔が搭載され、車体後部は機関室となっている。
第1輪と第2輪の間の左側面には、乗降用のドアが設けられている。
エンジンはプジョー社製のPRV V型6気筒液冷ガソリン・エンジンで、出力は155hpにチューンされている。

第1輪と第3輪のサスペンションはコイル・スプリング、第2輪のサスペンションだけが油気圧式で、第2輪は舗装道路上では引き上げることもできるが動力は配分されている。
このパートタイム6×6とでもいうべき方式は、パナール社のかつてのベストセラーEBR戦闘偵察車の方式(こちらは8×8と4×4の切替だが)を踏襲するものである。
操向は第1輪のみで行う。

タイアは内部にもう1つのチューブを持ち、たとえ銃弾で穴が開いても30km/hの速度で100kmの距離を走って戻れる。
ERC戦闘偵察車は浮航性があり基本タイプはタイアの推進力で前進するが、波切り板やウォーター・ジェットを追加した浮航タイプも用意されている。

フランスやコートジボアールで採用されているERC90F4「サゲ(Sagaie:投げ槍)1」は、ERC戦闘偵察車シリーズの基本モデルであり、GIAT社製のTS90砲塔に同じくGIAT社製の52口径90mm低圧滑腔砲CN-90-F4を搭載している。
このTS90砲塔は2名用で砲塔内左側に車長、右側に砲手が搭乗し、車長用には7基のペリスコープ、砲手用には5基のペリスコープと倍率5.9倍のM563テレスコピック・サイトがそれぞれ装備されている。

砲塔内にはHEAT(対戦車榴弾)12発、HE(榴弾)8発、計20発の主砲弾を収容することができる。
主砲の左側には7.62mm同軸機関銃が装備されており、機関銃弾は2,000発が搭載されている。
フランス陸軍では1978年から2年かけてERC90F4サゲ1戦闘偵察車の試験を実施した上で、1980年末に採用を決めている。

ERC戦闘偵察車の採用は新たに編制される緊急展開部隊向けで、熱帯地での追加試験を経て生産型がフランス陸軍に引き渡されたのは1984年のことで、1990年までに192両が引き渡された。
フランス陸軍ではERC戦闘偵察車は、AML90戦闘偵察車およびAML60-7戦闘偵察車の後継として第9海兵隊師団、第11空挺師団、第27山岳師団に配備されている。
サゲ1の他にも、ERC戦闘偵察車には多くのタイプがある。

同じ90mm低圧滑腔砲CN-90-F4装備でもSAMM社製のTTB190砲塔を搭載しているのが、ERC90F4 TTB190戦闘偵察車である。
1985年に公表されたERC90F4サゲ2戦闘偵察車は車体を前後左右に拡大し、エンジンをプジョー社製のXD3T 直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力98hp)2基に換装したもので、ドイツのZF社製の4HP22自動変速機(前進4段/後進1段)2基と組み合わされる。

アルゼンチンやチャドで採用されているERC90F1「ランクス」(Lynx:山猫)戦闘偵察車は、イスパノ・スイザ社製のランクス90 2名用砲塔を搭載したタイプで、主砲はGIAT社製の33口径90mm低圧滑腔砲CN-90-F1である。
ERC60-20「セルヴァル」(Serval:サーヴァルキャット)戦闘偵察車は、イスパノ・スイザ社製のHE60-20セルヴァル砲塔を搭載したタイプで、トムソン・ブラン社製の後装式60mm迫撃砲HB60LPと20mm機関砲を砲塔の前後に装備している。

60mm迫撃砲HB60LPは+80度、20mm機関砲は+50度まで仰角をかけることが可能で、20mm機関砲は各メーカーのものが搭載できる。
EMC 81mm自走迫撃砲は、長砲身の半自動後装式81mm迫撃砲を装備する砲塔を搭載したタイプである。
この81mm迫撃砲は7,000mの最大射程を持ち、重量6kgのHEの他、重量1.4kgのAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を撃つこともできる。

ERC戦闘偵察車の派生型は他にも、20mm連装対空機関砲を装備するTAB220砲塔を搭載する対空自走砲、マトラ社製のミストラル対空ミサイルを搭載する対空ミサイル車両などが提案されており、一部はガボンで採用されている。
またオプションとして7.62mm対空機関銃や昼/夜間テレスコープ、レーザー測遠機、射撃統制システムなども用意されている。


<ERC90F4サゲ1戦闘偵察車>

全長:    7.693m
車体長:   5.098m
全幅:    2.495m
全高:    2.254m
全備重量: 8.1t
乗員:    3名
エンジン:  プジョーPRV V型6気筒液冷ガソリン
最大出力: 155hp/5,250rpm
最大速度: 95km/h(浮航 4.5km/h)
航続距離: 700km
武装:    52口径90mm低圧滑腔砲CN-90-F4×1 (20発)
        7.62mm機関銃F1×1 (2,000発)
装甲厚:   最大10mm


<参考文献>

・「パンツァー2019年7月号 戦後フランスの装輪火力支援車輌」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年3月号 チャドで治安維持にあたるフランス緊急展開部隊」  アルゴノート社
・「パンツァー2013年5月号 フランス陸軍の現用戦闘車輌」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社


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