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イーランド戦闘偵察車





南アフリカは1961年にフランスのパナール社製のAML戦闘偵察車を輸入したが、1962年にはサンダック・アストラル社(現ロイメック・サンダック社)がAML戦闘偵察車のライセンス生産権を取得して国内生産に着手し、1963年から量産が開始されている。
南アフリカでは同車は「イーランド」(Eland)と名付けられたが、「イーランド」とは南アフリカ産の大型のレイヨウのことである。

南アフリカに多いアフリカーナーとオランダ系白人は一般に大柄な上、南アフリカ陸軍の行動範囲が広いためにより広い車内容積が必要とされたため、原型のAML戦闘偵察車よりも車体が若干延長されている。
イーランド戦闘偵察車シリーズはイーランド90戦闘偵察車、イーランド60戦闘偵察車、イーランド20装甲偵察車の3タイプが開発されており、各タイプ合計で1,300両以上が生産された。

イーランド90戦闘偵察車は、フランスのイスパノ・スイザ社製のH90砲塔にLIW社製の33口径90mm低圧滑腔砲GT2と7.62mm機関銃を同軸に装備するタイプで、威力偵察用の車両である。
本車が装備している90mm低圧滑腔砲GT2はHEAT(対戦車榴弾)で1,200m、HE(榴弾)で2,200mの有効射程を有している。

南アフリカ陸軍の主たる脅威となる敵戦車は旧ソ連製のT-55中戦車やT-62中戦車といった旧式車種だったので、イーランド90戦闘偵察車は対戦車車両としても有用であった。
イーランド60戦闘偵察車は、イスパノ・スイザ社製のHE60-7砲塔にフランスのトムソン・ブラン社製の後装式60mm迫撃砲HB60と7.62mm連装機関銃を装備したタイプであり、偵察任務および越境して浸透してくるゲリラに対するパトロール用として開発された。

イーランド20装甲偵察車は、ラーテル20歩兵戦闘車と同じ100口径20mm機関砲F2を装備するLIW社製の砲塔を搭載したタイプで、車高は1.88mとイーランド90戦闘偵察車の2.5mより低い。
イーランド戦闘偵察車は輸入型のMk.1を始め、Mk.2〜Mk.7の各種ヴァリエーションが生産されたが、1994年に開発された最新型で最終型となりそうなのがイーランドMk.7DT戦闘偵察車である。

同車は最後の「DT」(Diesel Turbocharged)の記号が意味するように、出力103hp、排気量2.4リットルの直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンを搭載したタイプで、公にはされていないがコンゴへの輸出を目的として開発され、これまでに20両が輸出されたといわれている。
原型のイーランドMk.7自体には90mm低圧滑腔砲搭載型のイーランド90 Mk.7戦闘偵察車と、60mm迫撃砲搭載型のイーランド60 Mk.7戦闘偵察車があるが、そのどちらが輸出されたのかは不明である。

南アフリカ陸軍ではすでに後継のローイカット戦闘偵察車が就役しており、イーランド戦闘偵察車は退役の過程にある。
面白いのは、ロイメック・サンダック社が退役したイーランド戦闘偵察車シリーズを南アフリカ陸軍から200両購入して、輸出向けに独自にMk.7DTヴァージョンに改修していることである。


<イーランド90 Mk.7DT戦闘偵察車>

全長:    5.12m
全幅:    2.015m
全高:    2.50m
全備重量: 6.0t
乗員:    3名
エンジン:  直列4気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 103hp/4,000rpm
最大速度: 85km/h
航続距離: 450km
武装:    33口径90mm低圧滑腔砲GT2×1 (21発)
        7.62mm機関銃FN-MAG×2 (3,800発)
装甲厚:   8〜15mm


<参考文献>

・「パンツァー2012年12月号 フランスのAML装甲偵察車シリーズ」 前河原雄太 著  アルゴノート社
・「パンツァー2014年7月号 フランスのミゼット装甲車 AMLシリーズ」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「世界AFV年鑑 2005〜2006」  アルゴノート社
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の軍用4WDカタログ」  三修社
・「世界の軍用4WD図鑑PART2」  スコラ


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