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1953年の朝鮮戦争終結後、北朝鮮陸軍が装備していたのは、ソ連から供与されたT-34-85中戦車約1,000両を始め、T-34-76中戦車、IS-2重戦車の他、SU-76M対戦車自走砲、SU-85駆逐戦車、SU-100駆逐戦車、SU-122突撃砲といった大戦型戦車で占められており、その後1950年代半ばにT-54中戦車を少数導入している。
戦後復興を終えて1961年5月より、軍装備の近代化を図るため兵器工業への本格的な投資が始まった。
1960年代末には、MBT(主力戦車)を製造する亀城機械工場(平安北道亀城郡)、軽戦車、APC(装甲兵員輸送車)を製造する新興機械工場(咸鏡南道新興郡)、戦車、高速艇のエンジンを製造する一月一八日機械総合工場(平安南道价川市龍源里/角岩里)などを含む、幾つかの重要な軍需工場が建設されている。
これらの工場の稼働に合わせて、北朝鮮で製造されたソ連製戦車が出荷されるようになった。
PT-76B水陸両用軽戦車は1967年より、T-55中戦車は1968年より出荷が開始されたとされるが、実際はソ連から届いたキットをノックダウンで少量生産していたのが実態で、実際に完全な形のライセンス生産を始めるのは5〜10年後で、それまでの間はソ連からT-55中戦車、中国から59式戦車(T-54A中戦車のライセンス生産型)、62式軽戦車、63式水陸両用軽戦車を大量に導入し、機甲戦力の近代化を図った。
北朝鮮でライセンス生産されたT-55中戦車には「68式戦車」の呼称が与えられたが、輸入したT-55中戦車、59式戦車と分け隔てなく一体で運用できるよう、その2車との大きな相違は無い。
当時の北朝鮮には軽合金を製造・加工する工場が無かったので、そのような部品を鋼鉄に置き換えている可能性はあるが、外からでは分からない。
唯一分かる相違点は、砲塔上に取り付けた対空機関銃がオリジナルの12.7mm重機関銃DShKMから、14.5mm重機関銃KPVT(いずれもソ連製)に強化されている点だけである。
1967年8月11日には、当時アメリカ・南ヴェトナム連合軍と戦争状態にあった北ヴェトナムに対し、軍事援助を無償で提供することに関する協定が締結された。
これは、北朝鮮の兵器産業が兵器を海外に輸出できるようになったことを意味し、1975年にサイゴンが陥落して北ヴェトナム軍の勝利が確定すると、その後は外貨獲得のためにジンバブエやシリアに兵器を輸出するようになり、現在の北朝鮮の兵器ビジネスの先鞭を付けた。
1970年代後半には68式戦車にFCS(射撃統制装置)、レーザー測遠機等を追加することを試みたようだが、費用対効果が悪いため、装着はごく一部に留まっている。
しかしシリア陸軍が装備するT-55中戦車は、北朝鮮産のものと思われるFCSとレーザー測遠機を取り付けた車両が多数確認されている。
1950〜70年代にかけて、北朝鮮陸軍には1,600〜1,800両のT-55中戦車系列(T-54/T-55中戦車、59式戦車、68式戦車)が引き渡されたとされ、1980年代いっぱいは同陸軍の主力MBTの座を占めていた。
北朝鮮陸軍の機甲戦力は2024年の時点において、MBT 3,500両以上、軽戦車560両以上、APC 2,500両を配備すると推定されている。
MBTの内6割近い2,000両前後は、旧ソ連製のT-54、T-55、T-62中戦車系列と、中国製の59式戦車が占める。
T-55中戦車系列はすでに退役の過程にあり、現在、北朝鮮陸軍の主力MBTの座に君臨するのはT-62中戦車系列の車両である。
なお以前の説では、北朝鮮は1970年と1974年の2回に分けてソ連にT-62中戦車500両を発注し、1971〜78年にかけてこれらを受領したとされていたが、最近の説では北朝鮮はソ連にT-62中戦車を発注したものの、一切輸入しておらず、1970年代半ばにソ連からT-62中戦車の生産設備一式を譲り受けてライセンス生産を開始し、このライセンス生産型に「天馬号」または「天馬虎」(朝鮮語での発音はどちらも「チョンマホ」)の呼称を与えたとされている。
現在、天馬号シリーズは推定で1,000〜1,400両が運用中であると推測されている。
2000年代に入ってから北朝鮮陸軍は、「暴風号」(ポップンホ)や「先軍号」(ソングンホ)といった新型MBTを実戦化したため、現在は天馬号シリーズの新規生産はほとんど無く、既存車両の近代化改修を行っていると考えられている。
厳密にいえば、暴風号や先軍号はT-62中戦車の改良発展型であるため、本来はこれらも天馬号の一族であるが、その時の政治的流行に則って名付けられたものである。
いずれにしても天馬号は、シリーズを通じて基本的に転輪は片側5個、主砲は旧ソ連製の55口径115mm滑腔砲U-5TS、赤外線投光機によるアクティブ式暗視装置、というT-62中戦車オリジナルのままの構成であると思われる。
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