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C1アリエテ戦車





●開発

イタリア陸軍は1980年代の前半に、旧式化したアメリカ製のM47戦車を更新する必要に迫られた。
当初は西ドイツ製のレオパルト2戦車の導入が計画されたが、イタリア産業界の強い圧力に押されてイタリア陸軍は新型MBTはイタリア国内で設計、生産されるべきことを決め、1982年に設計仕様が提示された。
1984年までには軍と産業界間の設計仕様に関するすり合わせは終わり、すでに武装やパワーパックといった鍵となるコンポーネントの製作は進められていた。

そして同じ年、すでにOF-40戦車でMBTの開発経験を積んでいたオート・メラーラ社は、フィアット社傘下のIVECO社と組んで新型MBT開発のためのコンソーシアム(共同企業体)を構成した。
IVECO社はフィアット社やランチア社、ドイツのマギルス社などが資本を出し合って設立した商業車の専門メーカーで、大型トラックのシェアではヨーロッパで一、二を争う。
もちろん、軍用トラックも各種生産している。

新型MBTのためのコンソーシアムにはオート・メラーラ社が60%、IVECO社の防衛車両部門が40%の資本を出資した。
このコンソーシアムは本社をローマに置き、今後のイタリア陸軍の新型AFV開発を一手に引き受けようという意欲的なものであったが、実際その成果はB1チェンタウロ戦闘偵察車の開発等で活かされている。

新型MBTの開発についてはオート・メラーラ社が開発全体の責任を負い、IVECO社がパワーパックとサスペンションの設計を行うことになった。
この新型MBTには「C1」の呼称が与えられ、最初の試作車は1986年に完成した。
C1戦車の試作車は1987年2月にはイタリア陸軍に引き渡され、同年6月には報道陣にも公開された。
この時に、C1戦車には「アリエテ」(Ariete:牡羊)の愛称が与えられている。

さらに試作車は1988年までに6両が完成し、イタリア陸軍で試験が進められた。
一方企業側でも、着々と量産移行の準備が整えられた。
この後、6両の試作車を使用した試験は120mm砲弾の試射3,000発以上、戦闘状況での試験450日以上に及んだ。
その結果イタリア陸軍はC1アリエテ戦車の採用を決定し、1990〜94年にかけて300両を調達するとされた。

アリエテ戦車の生産はラ・スペチアのオート・メラーラ社の工場で行われることになり、ボルザノのIVECO社の工場ではパワーパックの生産を行うことになった。
パワーパックはエンジン、変速・操向機、冷却システムが完全に組み込まれた完成状態でラ・スペチアに送られる。
さらに、アリエテ戦車の生産には248社もの下請け企業が加わっている。

ちなみにアリエテ戦車の価格は弾薬、スペアパーツ、兵站支援込みで日本円に換算して1両当たり5億7,230万円となっており、西側の戦後第3世代MBTとしては比較的安価に抑えられている。
しかしイタリアの財政事情の厳しさから、アリエテ戦車の最初の生産型は1995年の終わりになってようやく軍に引き渡された。

このため調達スケジュールは1995〜2002年に遅らされ、調達数も200両に減らされた。
アリエテ戦車は、すでにイタリア陸軍への実戦配備が進められている。
さらに現在、イタリア陸軍では改良型のアリエテMk.II戦車の研究開発を進めており、将来的にはさらにアリエテMk.II戦車500両が調達される見込みとなっている。


●構造

アリエテ戦車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、全体に避弾経始を考慮した良好な傾斜が採り入れられたデザインとなっている。
この車体デザインは、ほぼOF-40戦車をそのまま拡大したものといって良い。
車体前面には複合装甲が採用されている。

この複合装甲についての詳細は不明だが、イタリアが独自に開発したもので各種素材を厚さを変えて層状に重ね合わせており、レオパルト2戦車やM1エイブラムズ戦車などの初期の西側第3世代MBTと同程度の装甲防御力を持つといわれている。
実際アリエテ戦車の戦闘重量は54tで、これはレオパルト2戦車の55.15tや、M1戦車の54.43tとほぼ同じである。

車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という標準的なものである。
操縦手席は車体前部右側にあり、上部には右側に開く回転式ハッチが設けられている。
ハッチの前部には、前方視察用のペリスコープ3基が取り付けられている。

中央の1基は、夜間視察用のMESVG/DIL100パッシブ・ペリスコープに交換可能である。
操縦手席の左側には27発の120mm砲弾が収容されており、また操縦手席後方の車体下部には緊急脱出用ハッチが設けられている。
操縦手席前面左右のフェンダー上にはヘッドライト、折り畳み式のバックミラーが取り付けられている。

そして車体前面上部には、補助装甲板を兼ねたグローサーが左右一杯に2列になって取り付けられている。
車体中央部の戦闘室には、主武装の120mm滑腔砲を装備した全周旋回式砲塔が搭載されている。
砲塔も車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造で、前方投影面積の低減を図って前後に長い低平な形状になっている。

砲塔の前面は、イギリスのチャレンジャー2戦車と同様に避弾経始を考慮して大きな傾斜が与えられており、車体前面と同じく複合装甲が採用されている。
砲塔内には3名の乗員が搭乗し、右側に砲手と車長が前後に並び、左側に装填手が位置する。
右側の車長席上には、後ろ開き式の車長用ハッチが設けられている。
車長用ハッチの周囲には8基のペリスコープが取り付けられており、全周視界が確保されている。

同じく、左側の装填手席上には装填手用ハッチが設けられており、やはり後方に開く。
装填手用には、前方と左側方に2基の視察用ペリスコープが用意されている。
これらのペリスコープはガリレオ社製で、チェンタウロ戦闘偵察車にも同じものが使用されている。
装填手席の前方には、マルコーニ社製のRALMレーザー警報装置が装備されている。

この装置は360度のレーザー検知能力を持ち、測距やミサイル誘導用のレーザー照射を受けると車長席のモニター画面に警報が表示される。
砲塔後部のバスルは主砲弾薬庫になっているが、その上面にはブロウオフ・パネルが設けられていて、万一被弾して弾薬が誘爆した場合、このパネルが吹き飛んで爆風を逃がすことにより乗員に被害が及ばないようになっている。

なお、砲塔の左側面には砲塔内への弾薬搭載用ハッチが設けられている。
アリエテ戦車のFCS(射撃統制システム)は、ガリレオ社製のTURMS(Tank Universal Reconfigurable Modular System:戦車汎用モジュラー・システム)で、車長用昼/夜間安定化展望式サイト、砲手用安定化サイト、射撃統制コンピューター、各種センサー、砲口照合装置、車長、砲手、装填手用コントロール・パネルから成る。

車長用展望式サイトは車長用ハッチの前方にあり、安定化されている。
サイトは全周旋回式で、−10〜+60度の俯仰が可能である。
倍率は2.5倍および10倍の選択が可能で、熱線暗視装置は装備していないが砲手用サイトの映像をモニターで見ることができる。
また車長はこのサイトを使用して、砲手にオーバーライドして主砲を発射することも可能である。

砲手用サイトは、車長用サイトの前方の一段下がった場所に砲塔前面右側を若干切り欠くような形で設けられており、前面は左右に開く装甲カバーで保護されている。
砲手用サイトは光学サイトおよび熱線暗視装置とレーザー測遠機が組み込まれており、対物ミラーが安定化されていて機動中も良好な目標への追従性を持つ。

昼間サイトは倍率5倍、暗視装置は広視野と狭視野を選択することができる。
なお砲手用にはバックアップとして、防盾の右側にガリレオ社製のC102直接照準望遠鏡が主砲と同軸に取り付けられている。
C102直接照準望遠鏡は倍率8倍で、マニュアル照準用の3種類の距離スケールが刻まれている。

弾道コンピューターはディジタル式で、サイト、レーザー測遠機、気温、風向、車体の姿勢、砲身温度等、各種センサーから得られたデータを処理して砲やサイト、レーザー測遠機に最適なデータを与える。
コンピューターは自己診断機能や訓練機能も持っており、モードも通常作戦モードの他、部分的な故障その他に備えたバックアップ・モードも持つ。

アリエテ戦車の主砲は西側標準口径の120mm滑腔砲であるが、これはレオパルト2戦車やM1A2戦車、90式戦車に採用されているドイツのラインメタル社製ではなく、オート・メラーラ社が独自に開発した44口径120mm滑腔砲である。
この砲は半自動式の垂直鎖栓式閉鎖機を持ち、同心式駐退機と圧縮窒素作動の復座装置を備えており、窒素ボンベは主砲の揺架に組み込まれている。

砲身にはサーマル・スリーブ、排煙機、砲口照合装置が取り付けられている。
なお砲の繋止位置は後方向きで、車体後部には簡単なトラヴェリング・クランプが用意されている。
砲の俯仰角は−9〜+20度である。
砲の俯仰と砲塔の旋回は電動油圧モーターで行われるが、非常時に備えてマニュアル操作が可能な機構がバックアップとして用意されている。

またOF-40戦車とは異なり、アリエテ戦車の主砲は水平、垂直の2軸が安定化されており、高い走行間射撃能力を持つ。
薬室の規格はラインメタル社製の120mm滑腔砲と共通化されており、全ての120mmNATO標準砲弾を発射することが可能である。

薬莢は固定式の半燃焼式薬莢で、弾種はAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)とHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)が用意されている。
これらは、SIMMEL DIFESA社が製造している。
120mm砲弾の搭載数は42発で、この内15発が砲塔後部バスル内の即用弾、残りの27発は車体前部の操縦手席左隣に収容されている。

副武装としては主砲と同軸に7.62mm機関銃MG42/59が装備され、砲塔上の車長用ハッチまたは装填手用ハッチ周囲の機関銃用レールにも対空用に7.62mm機関銃MG42/59が装備できる。
機関銃マウントはスプリングで平衡が取られており、容易に振り回すことができる。
対空機関銃の俯仰角は−9〜+65度である。

7.62mm機関銃弾の搭載数は2,400発となっている。
また砲塔の左右側面には、それぞれ4基ずつの発煙弾発射機が前方向きに装備されている。
動力装置はエンジン、変速・操向機、冷却装置が一体となったパワーパック化されており、車体後部の機関室に収められている。
このパワーパックは1時間以下での交換が可能となっている。

エンジンは、IVECO社製のV-12MTCA 4ストロークV型12気筒直噴式液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されている。
ターボチャージャーはインタークーラー付きで、左右の気筒用に2基がそれぞれエンジン後方に装備されている。
145mm×130mmのショート・ストロークで、排気量は25.75リッターになる。
出力は1,300hp/2,300rpmで、出力/重量比は24hp/tになる。

このエンジンにより、アリエテ戦車は路上最大速度65km/hの機動性能を発揮する。
エンジン吸気は、機関室左右のカバーが掛けられた部分から行われる。
エンジン排気は、車体後面から排出するようになっている。
エンジン冷却気は、機関室中央の円形をした冷却気吸入用インテイクから冷却ファンによって強制的に吸入される。

インテイクには、落ち葉など大型の異物吸入を防ぐ金網が張られている。
なおエンジン冷却気は、車体左右側面後部の排気スリットから排出するようになっている。
燃料は、戦闘室後方左右のグラスファイバー製燃料タンクに収容される。
左右のタンクからの燃料供給は、操縦手席のコックで切り替えることができる。

燃料は電動ポンプによって強制的にエンジンに送られるが、燃料の供給は主燃料タンクとパイプで繋がった補助燃料タンクから行われるようになっており、車体が傾斜した状態や燃料タンクが部分的に空になった場合も、エンジンに継続的に燃料が供給できるようになっている。
搭載燃料による路上航続距離は550kmである。

変速機は、ドイツのZF社製のLSG3000自動変速機(前進4段/後進2段)をIVECO社でライセンス生産したものが搭載されている。
LSG3000はZF社が輸出用に開発した戦車用自動変速機で、韓国のK-1戦車やフランスのAMX-40戦車、ブラジルのオソリオ戦車にも採用されている。

走行段数の切り替えは操縦手席脇のレバーにより電気油圧駆動で行われるが、緊急時用にバックアップとして手動変速が可能になっている。
その場合の使用段数は前進、後進共に第2段に限定されている。
変速機には同軸にリターダーが取り付けられており、ブレーキとして使用される。
この場合、機械式ブレーキと連動して作動し、リターダーがブレーキ力の実に75%を減衰する。

油圧駆動の主および緊急ブレーキはディスク式で、ファイナル・ドライブに取り付けられている。
パーキング・ブレーキは機械式で、両方のディスク・ブレーキに装備されている。
サスペンションはトーションバーによる独立懸架方式で、片側7軸となっている。
この内、前3軸と後ろ2軸には油圧式ショック・アブソーバーが装備され、さらに全ての軸にバンブ・ストップが取り付けられている。

転輪は、ソリッド・ゴム付きのディスク型をした複列式転輪である。
上部支持輪は片側4個、前部の誘導輪もディスク型複列式でソリッド・ゴム付きである。
誘導輪は履帯の張度調整機構を持つ。
後部の起動輪はスケルトン型の複列星型で、起動輪の歯を履帯のエンド・コネクターに噛み合わせて推進させる。

履帯はドイツのディール社が設計した618mm幅のもので、イタリアでライセンス生産されている。
これはダブルピン/ダブルブロックの組み立て式鋼製履帯で、表面にはV型ゴムパッドが取り付けられる。
走行装置の左右上部には、ゴム製のサイドスカートが取り付けられている。
このスカートはヒンジで上に跳ね上げることができ、サスペンションのメインテナンス等の便が図られている。
渡渉水深は通常で1.2m、簡単な渡渉準備で2.1m、本格的なスノーケル装備で4mとなる。

NBC防護システムはセクアー社製のSP-180 NBCパックで、システムは防護および非防護モードがある。
通常は非防護モードで、外部からファンで取り入れられた空気は遠心型塵芥フィルターを通って車内に供給される。
これに対して防護モードでは、この空気はさらに最終フィルターとカーボン・フィルターを通して供給される。
排気口は砲塔の左側面後部に設けられている。


●生産と部隊配備

前述したように、アリエテ戦車はすでに最初の生産型であるアリエテMk.I戦車のイタリア陸軍への実戦配備が進められている。
アリエテ戦車は第32戦車連隊(タウリアノ)、第33戦車連隊(オザノ・エミリア)、および第132戦車連隊(コルデノン)に配備される予定である。

各連隊は、アリエテ戦車54両を装備する大隊1個と本部、支援中隊、兵站コマンド等から成る。
戦車大隊の内訳は13両を装備する中隊4個(+本部車両2両)で、各中隊は4両を装備する小隊3個(+指揮官車1両)から成る。
なお前述の通り、イタリア陸軍が装備している旧式化したドイツ製レオパルト1戦車の後継として、改良型のアリエテMk.II戦車500両が調達される予定となっている。

アリエテMk.II戦車の改良内容は、1,500hp級の強力なターボチャージド・ディーゼル・エンジンの搭載、油気圧式サスペンション、主砲用自動装填装置、改良型FCSの装備、生存性向上のための防御力強化などである。
アリエテMk.II戦車の調達が順調に進めば、イタリア陸軍の戦車連隊は全て第3世代MBTアリエテで編制されることになり、イタリア陸軍の戦車戦力は飛躍的に向上する。


<C1アリエテ戦車>

全長:    9.669m
車体長:   7.59m
全幅:    3.601m
全高:    2.50m
全備重量: 54.0t
乗員:    4名
エンジン:  IVECO V-12MTCA 4ストロークV型12気筒直噴式液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,300hp/2,300rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 550km
武装:    44口径120mm滑腔砲×1 (42発)
        7.62mm機関銃MG42/59×2 (2,400発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2009年1月号 PKO向けに装甲を強化した改良型アリエテ」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2017年1月号 戦車対決シリーズ 90式戦車 vs アリエテ」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年9月号 イタリアの第三世代MBT アリエテ戦車」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 イタリアMBT OF40とアリエテ」 齋木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年1月号 イラクにおけるイタリア軍のアリエテ戦車」  アルゴノート社
・「パンツァー2012年1月号 世界の第三世代MBT」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年10月号 イタリア軍AFVの40年」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「徹底解説 世界最強7大戦車」 齋木伸生 著  三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版

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