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ブッシュマスター装甲車





ブッシュマスター装甲車は、オーストラリア国産の4×4型装輪式APC(装甲兵員輸送車)である。
本車は、オーストラリア陸軍の新型IMV(Infantry Mobility Vehicle:歩兵機動車両)計画「ブッシュレンジャー」に応募するために、メルボルンの北方約150kmのベンディゴに所在するADI社(Australian Defence Industries:オーストラリア防衛工業、現タレス・オーストラリア社)の手で開発された。
ちなみに「ブッシュマスター」(Bushmaster)とは、中南米に生息する大型の毒ヘビの名前である。

オーストラリア陸軍が求めていた車両は機械化歩兵部隊向けの戦闘用車両ではなく、歩兵部隊を迅速に作戦地域に機動させるための輸送用車両であった。
そのため機関銃以上の強力な武装等は要求されず、1,000km以上の路上航続距離や乗車する兵員の糧食や飲料水の搭載能力、強力な車内空調システムや飲料用の冷水供給装置の搭載などが必要とされた。

ブッシュマスター装甲車の試作車は1998年初めに完成し、砂漠地帯や山岳地帯、熱帯雨林などオーストラリアの多様な自然環境に適合できるかを評価する過酷な試験に供された。
走行試験の走行距離は3万kmに達したというから、その徹底ぶりが分かる。
なおブッシュレンジャー計画にはブッシュマスター装甲車の他に、南アフリカのロイメック・サンダック社(現デネル・ランドシステムズ社)が開発した4×4型の装輪式APCであるタイパン装甲車も参加することになった。

「タイパン」(Taipan)とはオーストラリア北部とニューギニア島南部に生息する大型の毒ヘビの名前であり、オーストラリア陸軍の新型IMVを巡る争いは毒ヘビの名前を持つ装甲車同士の対決となった。
オーストラリア陸軍は1998年2月にADI社から3両のブッシュマスター装甲車を受領し、タイパン装甲車と性能を比較するため44週間に及ぶ試験を実施した。

性能比較試験は1999年初めに終了し、検討の結果オーストラリア陸軍は同年3月にブッシュマスター装甲車を新型IMVとして採用することを決定した。
その後の交渉の結果最低341両のブッシュマスター装甲車の生産が行われることとなり、2000年半ばから生産ラインが動き出し、2002年から生産型の実戦配備が開始されている。

また生産型がロールアウトする前に、ブッシュマスター装甲車の試作車は東ティモールへのオーストラリア軍の展開で早くも実戦投入されている。
ブッシュマスター装甲車のスタイルは通常の装輪式APCとはだいぶ異なっており、どちらかといえばトラックのシャシーにバン型の装甲車体を取り付けた廉価な車両という印象を与える。
被弾面積の低減よりも車内容積の確保が優先されており、全高が高い反面車内は広々としている。

車体は圧延防弾鋼板の全溶接モノコック構造で装甲防御力は5.56mm弾、7.62mm弾の直撃に耐える程度であるが、5.56mm徹甲弾、7.62mm徹甲弾に対抗できるアップグレード・キットの装着も可能である。
床下には容量380リットルの燃料タンクと容量270リットルの飲料水タンクが備えられており、これは9名の完全武装の兵員が3日間行動できるよう計算されたものである。

車体下面は地雷の爆風を横に逃がせるように浅いV字型をしており、車体直下でのTNT火薬9.5kgの爆発力に耐えることができる。
この地雷防御に関しては、床下の燃料タンクと飲料水タンクも対地雷防御の一助として利用されている。
さらに、これらのタンクは車両の重心を下げて走行安定性を向上させることにも貢献している。

エンジンは車体最前部のボンネットに収納されており、変速機や冷却装置と一体になったパワーパックとして容易に交換できるようになっている。
ブッシュマスター装甲車のパワーパックはアメリカ製のもので、エンジンはキャタピラー社製の3126ATAAC 直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(300hp/2,200rpm)、変速機はアリソン社製のMD3070PT自動変速機(前進7段/後進1段)が採用されている。

これ以外にも本車は主要コンポーネントの多くを外国製品に依存しているが、オーストラリアの工業技術力を考えるとやむを得ない選択であろう。
サスペンションはコイル・スプリング式で路上最大速度100km/h、路上航続距離800kmという機動性能を誇る。
また本車は4×4型ではあるがCTIS(Central Tire Inflation System:タイア空気圧調整システム)を備えており、ハイウェイ、砂漠、雪、緊急時の4段階のセッティングが選択できる。

ボンネットの後方は操縦室となっており操縦室内には右側に操縦手、左側に車長が搭乗する。
操縦室の前面と左右側面には防弾ガラスの入った大きなウィンドウが設けられており、良好な視界が確保されている。
各ウィンドウには装甲シャッターなどは備えられておらず、銃弾が飛び交うような最前線での行動があまり考えられていないことが分かる。

戦場での防御力よりも、長距離移動時の操縦し易さが優先されているのである。
車体後部は兵員室となっており向かい合わせに左側に3名分、右側に4名分の座席が設けられている。
座席は諸外国のAPCで一般的なベンチシートではなく、1名1名に独立した乗用車級の高級シートが与えられている。
これも、長距離移動時の疲労軽減を重視した結果である。

兵員室の内部は広く床から天井までは1.5mあり、向かい側の席の兵員の膝とは20cm以上の距離を確保している。
さらに車体の側面や床下には非常に多くの収納スペースが設けられており、徹底して居住性を重視していることが窺える。

兵員の乗降は基本的には兵員室後面のドアから行うが車体上面にも5カ所にハッチが設けられており、前方中央のハッチには5.56mmまたは7.62mm機関銃を装備することもできる。
ブッシュマスター装甲車の基本型は7名の兵員を収容するAPC型であるが、メーカーのADI社では12.7mm重機関銃および40mm自動擲弾発射機搭載型、81mmまたは120mm迫撃砲搭載型、救急車、指揮車、回収車、工兵車などの各種派生型も提案している。


<ブッシュマスター装甲車>

全長:    7.18m
全幅:    2.48m
全高:    2.65m
全備重量: 15.0t
乗員:    2名
兵員:    7名
エンジン:  キャタピラー3126ATAAC 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 300hp/2,200rpm
最大速度: 100km/h
航続距離: 800km
武装:    5.56mmまたは7.62mm機関銃×1
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2016年3月号 陸自が邦人救出用に採用したブッシュマスター装甲車」 柘植優介 著  アルゴノー
 ト社
・「パンツァー2000年6月号 オーストラリア陸軍の新しい足 ブッシュマスター」 小林直樹 著  アルゴノート社
・「パンツァー2008年5月号 オーストラリアのブッシュマスター装輪装甲車」 柘植優介 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年2月号 邦人輸送の切札 日の丸ブッシュマスター初公開」  アルゴノート社
・「パンツァー2002年2月号 DSEi2001の装輪戦闘車」 二木巌 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2006年7月号 アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍特殊航空任務連隊」  ガリレオ出
 版
・「グランドパワー2007年6月号 アフガニスタンに派遣されたオランダ軍車輌」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2006年2月号 オペレーション・イラキ・フリーダム 2005/6〜7」  ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年8月号 オーストラリア軍の装甲車輌」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2016年5月号 陸自の輸送防護車」  ガリレオ出版
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「世界の軍用4WDカタログ」  三修社
・「世界の軍用4WD図鑑PART2」  スコラ


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