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BMD-3空挺戦闘車





1990年、ヴォルゴグラード・トラクター工場はBMD-1以来の空挺戦闘車シリーズとは一線を画した、全く新規開発の空挺戦闘車「BMD-3」(オブイェークト950)を完成させた。
BMD-3空挺戦闘車の生産は1994年頃に開始されているが、配備開始後すぐ1995年5月9日の対独戦勝50周年記念パレードで早くも一般に公開されている。

これは、破綻した経済を立て直す有力な手段としてロシア政府が兵器の大々的な輸出に力を入れることにしたためで、軍事パレードに最新型兵器を積極的に参加させて顧客への有効な宣伝手段として活用しようということである。
約13tの戦闘重量と従来より大型の車体を持つBMD-3空挺戦闘車は、あらゆる面において従来の空挺戦闘車シリーズを格段に上回る能力を備えている。

まず武装面では従来の1名用砲塔に代えてBMP-2歩兵戦闘車とほぼ同一の2名用砲塔を搭載し、砲塔防盾には80.5口径30mm機関砲2A42と7.62mm機関銃PKTを同軸に装備している。
さらに砲塔上面には、9M111/9M113半自動誘導対戦車ミサイルの発射機を装備している。
砲塔が大型化したことで乗員の操砲動作がスムーズになり、また車長が砲手を兼務せずによくなったため指揮に専念できるようになった。

そして車体前部には中央の操縦手席を挟んで2名の空挺隊員が搭乗し、左側の隊員がボールマウント式銃架に装備した30mm自動擲弾発射機AGS-17を、右側の隊員が5.45mm分隊軽機関銃RPKS-74をポートより操作して発射できるようになっている。
また携帯式対空ミサイル9M36「ストレラ(Strela:矢)3」を2基、車内に標準装備させている。

次に機動性能面では、BMD-1空挺戦闘車と同様の油気圧式サスペンション・システムを採用しながらも履帯や転輪はBMP-2歩兵戦闘車と同じものを用い、相当ラフな岩がちの土地でも容易に踏破できる頑丈さを確保し、同時にこれだけ小型の装甲車両としては異例の高出力(450hp)を持つ2V-06-2 V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンを搭載している。

このため、高い路外踏破性能と路上最大速度70km/hの高速性能を発揮できる。
足周りの頑丈さやそれに裏打ちされた高い機動性能は、アフガニスタン侵攻作戦が長期化して空挺部隊が地上作戦を継続して実施せざるを得なくなった際、足周りが岩がちの地勢に向かないBMD-1空挺戦闘車を通常の地上部隊と同様のBMP-2歩兵戦闘車やBTR-70装甲兵員輸送車等と交換しなければならなかった経験に基づき、空挺戦闘車にも必要な性能として追求されたものである。

なお空挺戦闘車としては従来より重くなった本車は、輸送機もIl-76の改良型で搭載重量がアップしたIl-76Mに搭載され、パラシュート投下される。
BMD-1およびBMD-2空挺戦闘車ではパラシュート投下時には乗員は別に降下し、車体だけを専用パレットに搭載して投下する方式であったが、BMD-3空挺戦闘車では宇宙飛行カプセルの回収時に使用する逆噴射ロケット・ブースター付きのパラシュートを使用することにより、乗員を車内に載せたまま投下できるようになっている。

本車は従来の空挺戦闘車シリーズより車体が大型化したため、固有の乗員3名(車長、砲手、操縦手)の他に5名の空挺隊員を搭乗させることができる。
財政難にあえぐロシア軍は未だ充分な数のBMD-3空挺戦闘車を装備していないが、将来的には本車をベースとした空挺兵員輸送車の装備化が展望されている他、奇妙な形の2連装155mm直射・迫撃両用砲を搭載した「ゲルメス」(ギリシャ神話の神、ヘルメス)等のファミリー車両の開発が始まっている。


<BMD-3空挺戦闘車>

全長:    6.36m
全幅:    3.114m
全高:    2.45m
全備重量: 13.2t
乗員:    3名
兵員:    5名
エンジン:  2V-06-2 V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 450hp
最大速度: 70km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 500km
武装:    80.5口径30mm機関砲2A42×1 (860発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
        5.45mm軽機関銃RPKS-74×1 (2,160発)
        30mm自動擲弾発射機AGS-17×1 (551発)
        9M111ファゴット/9M113コンクールス対戦車ミサイル発射機×1 (6発)
装甲厚:   6〜30mm


<参考文献>

・「パンツァー2000年8月号 ソ連・ロシア装甲車史(最終回) BMD・BTR-70/80/90シリーズ」 古是三春 著
 アルゴノート社
・「パンツァー2000年4月号 続 垣間見えてきた旧ソ連の戦車技術」 二木巌 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年10月号 ソ連空挺戦闘車輌の系譜」 竹内修 著  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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