レニングラード(現サンクトペテルブルク)のイジョーラ製鋼所は1934年に、それまでソ連軍の主力装甲車であったBA-27およびBA-27M中装甲車を更新するための中装甲車の新シリーズの開発に着手した。 この新シリーズの第1作として1934年に制式化されたのが、BA-3中装甲車である。 本車は基本的には1932年にイジョーラ製鋼所で少数生産されたBAI中装甲車と同じ車体に、1933年にBT-5快速戦車とT-26軽戦車のために開発された46口径45mm戦車砲20K装備の共用砲塔を搭載したものであった。 シャシーには国産6輪貨物トラックGAZ-AAAのものを用い、路上最大速度63km/hの機動力を発揮した。 このように最新戦車と同様の武装を持つBA-3中装甲車は当時としては世界で最も強力な装甲車といえたが、貨物トラック用シャシーを改造無しに用いたため、路外走行時にサスペンションが破損したりへたるような事態が生じた。 またギアも路外走行に向いた調整がされておらず、エンスト等のトラブルの元となった。 そこでこれらを改善するために、サスペンション等の必要な強化を図りながら総重量の軽減を図り(6tから5.12tへ)、併せてギア比を落として路外性能の安定を目指したBA-6中装甲車が1935年から量産された。 BA-3、BA-6の両装甲車の外見上の違いはほとんど無く、唯一の分かり易い識別点はBA-3中装甲車が車体後面右側にアクセス・ドアを設けていたのに対し、BA-6中装甲車は同じ場所に視察用スリット付き小ハッチしか設けていなかった点である。 BA-3/BA-6中装甲車は1934〜36年に合計で約1,000両の大量生産が行われたと見られ、両方ともモンゴル人民共和国やスペイン人民政府に供与されスペイン内戦や張鼓峰事件、ノモンハン事件で実戦参加している。 しかし特に日本軍との戦いでは、8mm程度の装甲厚では野砲や歩兵砲が発射する榴弾はもちろんのこと、重機関銃が発射する7.7mm徹甲弾にも貫徹されるなど防御力の弱さが露呈され、また野外機動において戦車よりも劣る機動力も運用上の弱点として指摘された。 こうした弱点は後継車のBA-10中装甲車やBA-11重装甲車でも根本的に解決ができず、ソ連軍が戦闘用の装甲車の開発に見切りを付ける契機となった。 BA-6中装甲車の派生型としてBA-6ZhD中鉄道偵察車があるが、これは鉄道路線の警備用に使用するため車輪に代えて鉄道用の鉄輪を装着したものである。 BA-6ZhD中鉄道偵察車は線路上での航続距離が150km程度しかないのが難点だったが、鉄輪装着時は線路上を55km/hの速度で走行することができた。 線路以外を走行する際は車体下部に備えられたジャッキを上げ、鉄輪から通常の車輪に交換していた。 また1936年にはさらなる重量軽減と防御力向上のために、バスルの無い傾斜装甲を採り入れた新型砲塔を搭載した上エンジン出力を強化したBA-6M中装甲車が登場した。 このBA-6M中装甲車は、後のBA-10中装甲車と外見がそっくりでほぼ同形態の砲塔を搭載していたが、わずかな外見上の識別点は、BA-10中装甲車にあった砲塔上面の潜望鏡式視察・照準機がBA-6M中装甲車には無かったことと、BA-10中装甲車の車体後面が丸みを持たせて整形されていたのに対し、BA-6M中装甲車のそれはBA-6中装甲車と同様平らな圧延鋼板2枚を組み合わせた角張ったものであったことくらいである。 BA-6M中装甲車は1938年頃まで量産されたと思われ、同年の張鼓峰事件ではBA-3中装甲車と共に日本軍に捕獲されていることが写真で確認できる。 他にBA-6M中装甲車の武装を変更し、45mm戦車砲20Kの代わりに12.7mm重機関銃DKを搭載したBA-9中装甲車も1936年に試作されているが、その開発意図は不明で制式採用もされなかった。 BA-3/BA-6中装甲車シリーズは独ソ戦中期の1942年頃、重点的に配備されていた極東地区から転用されて戦線に投入され東部戦線で姿が見られた。 |
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<BA-3中装甲車> 全長: 4.77m 全幅: 2.11m 全高: 2.35m 全備重量: 6.0t 乗員: 4名 エンジン: GAZ-AA 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン 最大出力: 40hp 最大速度: 63km/h 航続距離: 248km 武装: 46口径45mm戦車砲20K×1 (40発) 7.62mm機関銃DT×2 (3,276発) 装甲厚: 3〜8mm |
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<BA-6中装甲車> 全長: 4.90m 全幅: 2.07m 全高: 2.36m 全備重量: 5.12t 乗員: 4名 エンジン: GAZ-MM 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン 最大出力: 40hp 最大速度: 43km/h 航続距離: 200km 武装: 46口径45mm戦車砲20K×1 (60発) 7.62mm機関銃DT×2 (3,276発) 装甲厚: 3〜8mm |
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<BA-6M中装甲車> 全長: 4.655m 全幅: 2.30m 全高: 2.15m 全備重量: 4.8t 乗員: 4名 エンジン: GAZ-M1 4ストローク直列4気筒液冷ガソリン 最大出力: 50hp/2,800rpm 最大速度: 53km/h 航続距離: 300km 武装: 46口径45mm戦車砲20K×1 (60発) 7.62mm機関銃DT×2 (3,276発) 装甲厚: 3〜10mm |
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<参考文献> ・「パンツァー1999年11月号 ソ連・ロシア装甲車史(4) 装甲車の黄金時代(2)」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年7/8月号 1920〜30年代におけるソ連の6輪装甲車」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年10月号 ソ連が開発したBAシリーズの装輪装甲車」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年10月号 ソ連の6輪装甲自動車」 真出好一 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2005年1月号 第2次大戦のソ連軍装甲自動車(1)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2021年6月号 ソ連軍装甲自動車 1905〜1938」 大村晴 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「図解・ソ連戦車軍団」 齋木伸生 著 並木書房 ・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー |
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