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B-10装甲兵員輸送車





●開発

B-10装甲兵員輸送車は、ロシア陸軍が新たに開発した中装軌式プラットフォーム「クルガニェツ25」(Kurganets-25:クルガン工場の25t級車両)シリーズの一環として開発された中装軌式APCである。
同じ「クルガニェツ25」シリーズの中装軌式IFVである、B-11歩兵戦闘車と多くのコンポーネントが共通化されており、開発・運用に掛かるコストの低減が図られている。

ロシア陸軍はMBT、軽戦車、装軌式IFV、装軌式APCなど従来運用してきた装軌式車両全般を、重装軌式の「アルマータ」と中装軌式の「クルガニェツ25」の、2種類のプラットフォームを用いた装軌式車両ファミリーで置き換えることを計画しており、B-10装甲兵員輸送車はBMP歩兵戦闘車シリーズ、BMD空挺戦闘車シリーズ、MT-LB装甲輸送・牽引車シリーズを代替する重量25t級の中装軌式APCとして開発された。

B-10装甲兵員輸送車の開発はBMP-3歩兵戦闘車の開発も手掛けた、カザフスタン国境に近いロシア南部のクルガン機械工場(KMZ)設計局が担当しており、「オブイェークト693」の試作名称でB-11歩兵戦闘車と並行して開発が進められた。

B-10装甲兵員輸送車とB-11歩兵戦闘車は、2017年からロシア陸軍向けに量産が開始される予定になっている。
また現在、「クルガニェツ25」シリーズは57mm対空機関砲を装備する対空自走砲ヴァージョンと、125mm滑腔砲を装備する対戦車自走砲ヴァージョンの開発が進められている模様である。


●攻撃力

B-10装甲兵員輸送車の車内レイアウトは車体前部がエンジンや変速機を収めた機関室、車体中央部が車長、砲手、操縦手の3名の乗員を収めた乗員室、車体後部が兵員室となっている。
これはAPCとしては一般的な車内レイアウトであるが、他のAPCと大きく異なるのは砲塔が無人化されている点である。

B-10装甲兵員輸送車は車体後部に、車内から遠隔操作できる全周旋回式の無人砲塔を搭載している。
武装は、砲塔前面に12.7mm重機関銃Kordを1挺装備しているのみである。
12.7mm重機関銃Kordは、旧ソ連時代の1970年代から使用してきた12.7mm重機関銃NSVの後継として1998年にロシア軍に採用された最新鋭の重機関銃で、NSVに比べて大きく反動が軽減され命中精度が向上している。

B-10装甲兵員輸送車の砲塔を遠隔操作式にしたのはゲリラ等との非正規戦に対応したためで、乗員が車内から安全に射撃を行えるように配慮している。
これはロシア軍だけでなく世界的な流れであり、最近は他国のAFVも遠隔操作式の武装を装備するものが増えてきている。

なお、同じ「クルガニェツ25」ファミリーであるB-11歩兵戦闘車も同様に遠隔操作式の無人砲塔を装備しているが、武装を比較するとB-10装甲兵員輸送車が12.7mm重機関銃1挺のみなのに対し、B-11歩兵戦闘車は30mm機関砲や対戦車ミサイルまで装備している充実ぶりである。
これはB-11歩兵戦闘車が精鋭部隊に配備する高級型、B-10装甲兵員輸送車が製造コストを削減して広く普及させることを目指した廉価型という位置付けになっているのではないかと推測される。


●防御力

B-10装甲兵員輸送車の具体的な装甲防御力については公表されていないが、ロシア陸軍の主力IFVであるBMP-3歩兵戦闘車に比べて戦闘重量が6t以上増加していることから、BMP-3歩兵戦闘車よりかなり防御力が向上しているものと思われる。

従来のロシア製IFVは西側諸国のIFVに比べて装甲防御力が劣っているのが弱点になっていたが、B-10装甲兵員輸送車はアメリカのM2ブラッドリー歩兵戦闘車や、ドイツのマルダー歩兵戦闘車に匹敵する防御力を獲得したものと推測される。
本車の車体側面にはモジュール式のERA(爆発反応装甲)がびっしり装着されており、HEAT弾や対戦車ミサイル等のCE(化学エネルギー)弾に対する防御力を大きく向上させている。

このERAは、「アルマータ」ファミリーのT-14戦車やT-15歩兵戦闘車に装着されているものと同じ「マラカイト」(孔雀石)と呼ばれるもので、ERA対策として二重弾頭を備えている最近の対戦車ミサイルに対抗するため、ERA自体が二重構造になっているのが特徴である。
また「マラカイト」ERAはCE弾だけでなく、徹甲弾などのKE(運動エネルギー)弾に対する防御力もかなり高いといわれる。

装甲防御力以外の要素としてB-11歩兵戦闘車の場合は、T-15歩兵戦闘車と同様にハードキル・ランチャーとソフトキル・ランチャーを組み合わせたAPS(アクティブ防御システム)を装備しているが、B-10装甲兵員輸送車にはハードキル・ランチャーが装備されていない。
これは本車の製造コストを削減するためAPSを簡素化したものと思われ、武装が貧弱なことと併せてB-10装甲兵員輸送車は、やはりB-11歩兵戦闘車の廉価版という位置付けなのであろう。

ただし、B-10装甲兵員輸送車はB-11歩兵戦闘車に比べて砲塔が小柄なため、後部兵員室に搭乗できる兵員は本車の方がやや多いようである。
B-10装甲兵員輸送車の後部兵員室内には、8名分の座席が向かい合わせに設けられている。
座席はパイプフレームにキャンバス・シートを張ったような簡素な造りだが、対戦車地雷に対する安全性を高めるために床には取り付けられず、天井から吊り下げる形が採られている。

車体前面下部には簡易型のドーザー・ブレイドが取り付けられているが、これは対戦車地雷などに対する補助装甲の役割も果たしている。
なおB-10装甲兵員輸送車とB-11歩兵戦闘車は、従来のロシア製AFVに比べてかなり背が高くずんぐりしたスタイルになっているが、これは居住性を重視した結果だと思われる。

BMP歩兵戦闘車シリーズやMT-LB装甲輸送・牽引車シリーズ等の従来のロシア製AFVは、被弾確率と被発見率を低減させるために極力低姿勢なスタイルに設計されてきたが、これは居住性を大幅に悪化させる原因にもなってきた。
「クルガニェツ25」シリーズの設計コンセプトは、被弾確率等のメリットを犠牲にしてでも乗員の居住性を向上させることを重視しているのであろう。


●機動力

B-10装甲兵員輸送車が搭載するエンジンは、ヤロスラヴリ発動機工場製のYaMZ-780 V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力750hp)で、これはロシア陸軍の新型装輪式プラットフォーム「ブメラーング」シリーズの車両が搭載しているエンジンと同じものである。
本車の足周りは片側7個の転輪と片側3個の上部支持輪、前方の起動輪と後方の誘導輪で構成されており、サスペンションは一般的なトーションバー(捩り棒)方式が採用されている。

B-10装甲兵員輸送車の最大速度は路上で80km/hと公表されており、西側の装軌式IFVを上回る機動性能を備えている。
また本車は浮航性能を備えており、車体後部に設けられたウォーター・ジェットにより水上を10km/hの速度で航行することが可能である。
車体前面には水上浮航時に使用する波切り板が設けられており、これは補助装甲の役割も果たしている。


<B-10装甲兵員輸送車>

全長:    7.20m
全幅:    3.20m
全高:    
全備重量: 25.0t
乗員:    3名
兵員:    8名
エンジン:  YaMZ-780 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 750hp/2,300rpm
最大速度: 80km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 
武装:    12.7mm重機関銃Kord×1 (1,000発)
装甲厚:  


<参考文献>

・「パンツァー2018年8月号 特集 迷走する?T-14」 小泉悠/ヴォルフガング・シュナイダー 共著  アルゴノー
 ト社
・「パンツァー2012年10月号 登場なるか!? ロシアの次世代装甲車輌」 鹿内誠 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年7月号 注目されているロシア軍新AFVシリーズ」  アルゴノート社
・「パンツァー2017年7月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2020年11月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート48 ニュールック ロシア軍AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」  コスミック出版


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