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アーチャー155mm自走榴弾砲





スウェーデン陸軍は1960年代に装軌式のバンドカヌーン1 155mm自走榴弾砲を実用化したが、この自走砲は射撃能力に優れる反面製造コストが非常に高かった。
このためスウェーデン陸軍はバンドカヌーン1自走榴弾砲を26両しか調達せず、砲兵部隊の主力装備はフランスから導入した旧式な牽引式の30口径155mm榴弾砲M50で賄った。

その後スウェーデン陸軍は、M50の後継となる牽引式の新型155mm榴弾砲の開発をボフォース社(現BAEシステムズ・ボフォース社)に要求し、その結果1970年代後期に実用化されたのが38口径155mm榴弾砲FH77Aである。
ちなみに「FH77」は「Field Howitzer 77:77式野戦榴弾砲」の略で、スウェーデン陸軍における制式名称は「Haubits 77」である。

この155mm榴弾砲FH77Aは最大射程27.4kmとM50の最大射程18kmに比べて大幅に射程が伸び、バースト射撃では25秒で6発の射撃が可能という高い発射速度を備えていた。
スウェーデン陸軍は1979~84年にかけて220門のFH77Aを調達し、旧式化したM50に代えて砲兵部隊の主力装備として運用を続けている。

なおFH77には自国軍向けの「FH77A」の他に、輸出向けに性能を抑えた「FH77B」と呼ばれるタイプも存在し、インドが410門、ナイジェリアが48門、イランが18門導入している。
その後ボフォース社は1995年から「アーチャー」(Archer:射手)の名称で、155mm榴弾砲FH77の改良型を6×6トラックの車体後部に搭載する装輪式自走砲の開発に着手した。

装輪式自走砲は射撃プラットフォームとしての安定性では装軌式自走砲に劣るものの、製造・運用コストは装軌式自走砲よりはるかに安いため、ボフォース社としては高価な装軌式自走砲を導入することが困難な途上国向けの輸出商品として開発を始めたようである。
しかしスウェーデン陸軍が牽引式の155mm榴弾砲FH77Aと、旧式で運用コストの高いバンドカヌーン1自走榴弾砲の後継としてこのアーチャー自走榴弾砲に目を付け、2003年にボフォース社に要求仕様を提示した。

ボフォース社は要求仕様に従って「FH77BD」と「FH77BW」の2種類の設計案をまとめ、スウェーデン陸軍に提出した。
スウェーデン陸軍は検討の結果、2004年までにFH77BWの試作車を2両ボフォース社に製作発注した。
すでに冷戦が終結して差し迫った軍事的脅威が無くなっていたこともあり、スウェーデン陸軍はアーチャー自走榴弾砲の完成を待たず、旧式化したバンドカヌーン1自走榴弾砲を2003年に全て退役させている。

完成したFH77BWの試作車はスウェーデン陸軍に引き渡されて、2005~06年にかけて運用試験が実施された。
なおスウェーデン陸軍以外にノルウェイ陸軍もアーチャー自走榴弾砲の導入を検討し、2008年11月にスウェーデンとノルウェイの間でアーチャー自走榴弾砲の開発について協力する協定が締結された。
また2009年1月にはアーチャー自走榴弾砲に搭載する遠隔操作式の武装ステイションを、ノルウェイのKDA社(Kongsberg Defence & Aerospace:コングスベルグ防衛・航空宇宙産業)が開発することが決定された。

2009年8月にスウェーデン陸軍とノルウェイ陸軍は、それぞれ24両ずつアーチャー自走榴弾砲を調達することを決定し、2011年から実戦部隊への配備が開始されている。
アーチャー自走榴弾砲は基本的には、ボフォース社がFH77Aの改良型として開発した52口径155mm榴弾砲FH77B05を、VCE社(Volvo Construction Equipment:ヴォルヴォ建設機械)製のA30D 6×6トラックの車体後部に搭載したものである。

アーチャー自走榴弾砲の試作車では主砲は剥き出しの状態で搭載されていたが、生産型では砲架と駐退機を防護する装甲カバーが取り付けられている。
主砲の旋回角は、左右各85度ずつとなっている。
主砲の155mm榴弾砲FH77B05は通常榴弾を用いて最大射程30km、ベースブリード榴弾を用いた場合は最大射程40kmとFH77Aより大きく射程が伸びている。

さらに、ボフォース社がアメリカのレイセオン社と共同開発したM982「エクスカリバー」(Excalibur:アーサー王伝説においてアーサー王が持つ魔剣)ロケット補助榴弾を使用することも可能で、エクスカリバーを用いた場合の最大射程は60kmにも達する。
主砲には自動装填装置が装備されており、弾薬カートリッジに20発の即用弾が収納されている。
発射速度はバースト射撃では15秒で3発、持続射撃で8~9発/分となっている。

車体の最後部には射撃時の反動を吸収するための起倒式の駐鋤が2基備えられており、射撃時にはこの駐鋤を地面に固定するようになっている。
車体中央部の両脇には主砲弾薬を収める弾薬ケースが設けられており、20発の予備弾薬が収納される。
アーチャー自走榴弾砲の乗員は車長、操縦手、砲操作員2名の計4名が基本であるが、緊急時には操縦手と1名の砲操作員だけで運用することも可能になっている。

4名の乗員を収容する車体前部の乗員室および機関室は装甲化されており、ウィンドウも厚さ8cmの防弾ガラス製のものに変更されている。
この部分の防御力は、7.62mm徹甲弾の直撃に耐える程度とされている。
アーチャー自走榴弾砲は主砲の旋回と俯仰、砲弾の装填、射撃まで全て乗員室内から遠隔操作で行えるようになっており、車外に出て作業をする必要は無い。

乗員室の上面にはM151「プロテクター」遠隔操作式武装ステイションが搭載されており、自衛用にアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2を装備している。
プロテクター武装ステイションはノルウェイのKDA社とフランスのタレス社が共同開発したもので、12.7mm、7.62mm機関銃や40mm自動擲弾発射機などの各種火器を車内からの遠隔操作で射撃することが可能である。

現在、アーチャー自走榴弾砲以外にも装輪式の自走榴弾砲は様々な兵器メーカーが開発しているが、ベース車台となっているトラックの路外機動性能の高さや、主砲の射撃が完全に自動化されている点など、アーチャーは現存する装輪式自走砲の中でも最高レベルの性能を備えている。
ただしアーチャーは非常に高性能な反面、装輪式自走砲としてはかなり価格が高いため、本車を採用した国はスウェーデンとノルウェイ以外に現れていない。

デンマーク陸軍が一時9~21両のアーチャー自走榴弾砲を導入することを検討していたが、政権交代に伴って軍事費が削減されることになり、より安価なフランスのネクスター社製のカエサル155mm自走榴弾砲を導入する方針に変更したようである。
またオーストラリア陸軍もアーチャー自走榴弾砲の導入を検討して評価試験を実施したが、高価過ぎるとして採用を見送っている。


<アーチャー155mm自走榴弾砲>

全長:    14.10m
全幅:    3.00m
全高:    3.30m(乗員室上面まで)、3.90m(武装ステイション含む)
全備重量: 33.5t
乗員:    4名
エンジン:  ヴォルヴォTD102KH 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 287hp/2,200rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 500km
武装:    52口径155mm榴弾砲FH77B05×1 (40発)
        12.7mm重機関銃M2×1
装甲厚:


<参考文献>

・「グランドパワー2020年1月号 国際セキュリティーショー DSEI 2019」 大久保正 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2006年10月号 ユーロサトリ2006 (2)」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006~2007」  ガリレオ出版
・「パンツァー2022年3月号 特集 装輪自走砲の今」 荒木雅也/毒島刀也 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年7月号 世界のトレンド?装輪式自走砲」 大山勝美 著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年3月号 スウェーデン軍の現状と将来」 荒木雅也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年11月号 スウェーデンの装輪自走砲架 アーチャー」  アルゴノート社
・「パンツァー2018年8月号 ヴェールを脱いだ装輪155mmりゅう弾砲」  アルゴノート社
・「パンツァー2019年1月号 155mm自走砲システム アーチャー」  アルゴノート社
・「パンツァー2010年11月号 ファンボロー国際航空ショー2010」  アルゴノート社
・「パンツァー2001年2月号 スウェーデン沿岸砲兵隊の装備」  アルゴノート社
・「パンツァー2023年12月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2024年3月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」  アルゴノート社
・「10式戦車と次世代大型戦闘車」  ジャパン・ミリタリー・レビュー


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