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アル・ハリド戦車/90-II式戦車





●開発

「アル・ハリド」(Al-Khalid:「アッラーの剣」の異名で知られるイスラーム初期の武将)戦車は、パキスタンが初めて国産開発したMBTである。
しかし、当時のパキスタンの工業技術力では国内メーカーのみでMBTを新規開発するのは不可能だったため、政治的関係の深い中国の兵器メーカーから技術協力を得ている。

国産MBTの開発計画が発表されたのは1988年で1990年に国防委員会で承認され、NORINCO(中国北方工業公司)との間に開発契約が結ばれた。
なおアル・ハリド戦車は中国では「90-II式戦車」と呼ばれ、NORINCOは当初から90-II式戦車をパキスタン軍での採用だけでなく海外に輸出することを計画していた。

パキスタンの工業技術力を考えて、国産MBTの開発作業は4段階に分けて計画が立てられた。
それによれば第1段階ではまずパキスタン軍が保有する中国製の59式戦車に、イギリスの王立造兵廠製の105mmライフル砲L7を中国が国産化した83式51口径105mmライフル砲を装備するアップグレードを行い、第2段階では中国製の69-II式戦車の組み立て・製造を行い、第3段階では中国製の85-II式戦車の共同生産を行って生産に必要な技術力を養成し、最終段階としてアル・ハリド戦車の生産を行うというものであった。

この計画に基づいてパキスタンのタクシラ重工業では、1990年代半ばに85-II式戦車のパキスタン軍仕様である85-IIAP式戦車の生産を開始し、300両以上が生産されてパキスタン軍に配備された。
1991年8月にパキスタン軍による試験が行われたアル・ハリド戦車の最初の試作車は、コンポーネントの45%が既存の中国製MBTから(10%が59式戦車から、15%が69-II式戦車から、20%が85-II式戦車から)流用されており、残りの55%が新規開発されたものとなっていた。

85-IIAP式戦車と同じく主砲は51口径125mm滑腔砲を搭載し、主砲弾薬の自動装填装置も採用していた。
中国は旧ソ連の体制末期に、同国製のT-72戦車の主砲である51口径125mm滑腔砲2A46とその弾薬のライセンス生産権を購入しており、T-72戦車に搭載されている「カセートカ」(Kassetka:カセット)自動装填装置の国産化にも成功した。
これらは96式戦車以降の中国製MBTの標準装備となっており、アル・ハリド戦車にも導入された。

アル・ハリド戦車の最初の試作車のFCS(射撃統制システム)は、NORINCOが開発した中国製のものが搭載された。
85-II式戦車と同じく車体と砲塔は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、車体の前面と砲塔の前/側面には中国で開発された複合装甲が導入されていた。
また車体と砲塔の各部には、中国で開発されたERA(爆発反応装甲)のボックスが装着されていた。

エンジンについては既存の中国製MBTに搭載されていたエンジンでは出力不足だったため、中国が船舶用にライセンス生産を行っていたドイツのMTU社製のMT396 V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)が搭載された。
変速機は、イタリアのC1アリエテ戦車や韓国のK1戦車に採用されているドイツのZF社製のLSG3000自動変速機(前進4段/後進2段)が搭載された。

続いて開発されたアル・ハリド戦車の2番目の試作車は西側製の高度なFCSを装備し、イギリスのパーキンス社製の「コンドー」(Condor:コンドル)CV12-1200TCA V型12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)と、フランスのSESM社製のESM500自動変速機(前進5段/後進2段)を組み合わせたパワーパックを搭載していた。
しかしこの車両は非常に製造コストが高く、またパキスタン南部の高温の環境では性能が大きく低下することが判明したため採用されなかった。

その後1996年8月に、パキスタン軍がウクライナのV.O.マールィシェウ工場との間で320両のT-80UD戦車の購入契約を結んだため、整備や補給などの面を考慮してアル・ハリド戦車にT-80UD戦車の6TDディーゼル・エンジン(出力1,000hp)と同系列の、6TD-2 水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)を搭載することになった。

また外貨獲得の手段としてアル・ハリド戦車を海外に売り込むため、輸出用のより高性能なタイプ(中国名称:90-IIA式戦車)の開発も計画され、MTU社製のMT871 V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンもしくは、アメリカのテレダイン・コンティネンタル社製のAVDS-1790-9AR V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(いずれも出力1,200hp)とLSG3000自動変速機を組み合わせたパワーパックを搭載し、西側製の高度なFCSを装備することが予定された。

しかし1998年5月にパキスタンが核実験を行ったため、これに反発した西側諸国がパキスタンへの武器禁輸措置を採ったことでコンポーネントの入手が不可能になり、90-IIA式戦車の開発は中止された。
アル・ハリド戦車の開発には長い年月が費やされたが、1998年にパキスタンの砂漠地帯で行われた評価試験の結果、アル・ハリド戦車をパキスタン軍の次期MBTとして採用することが決定された。

この試験の公式発表によると、アル・ハリド戦車は2,000m離れた動目標に対して40km/hの速度で移動しながら射撃を行い、85%の命中率を発揮したという。
85-IIAP式戦車で戦車生産の経験を積んだタクシラ重工業は1999年にアル・ハリド戦車の量産準備を開始し、2001年7月20日には最初の15両のアル・ハリド戦車がパキスタン軍の実戦部隊に配備された。

パキスタン軍は、現在保有している旧式化した中国製MBTの後継として600両のアル・ハリド戦車の導入を計画しており、2009年の時点で220両が部隊配備されている。
またパキスタンはアル・ハリド戦車を自軍向けに生産するだけでなく、外貨獲得の手段として各国に売り込みを図っている。
マレーシア軍やサウジアラビア軍が一時採用を検討して評価試験を行ったが、結局採用には至らなかった。

2008年5月にはスリランカ軍が22両のアル・ハリド戦車の採用を決定したと伝えられたが、その後発注がキャンセルされたともいわれておりはっきりしない。
一方、アル・ハリド戦車の生産型は中国では「90-IIM式戦車」と呼ばれており、NORINCOは90-IIM式戦車を「MBT-2000」の名称で2001年3月にアブダビで開催された兵器展示会「IDEX2001」に出品したのを皮切りに、各国に売り込みを図っている。

現在までにバングラデシュ軍(44両)、ミャンマー軍(数量不明)がMBT-2000戦車の採用を決めており、モロッコ軍もMBT-2000戦車の改良型であるVT-1A戦車を150両採用している。
ペルー軍も80〜120両のVT-1A戦車を導入することを計画していたが、マールィシェウ工場がVT-1A戦車に搭載する6TD-2ディーゼル・エンジンの供給を拒否したため取引は成立しなかった。

また現在、パキスタンはアル・ハリド戦車の改良型であるアル・ハリドII戦車の開発を進めており、FCSの近代化、装甲防御力の向上、新開発の出力1,500hpのディーゼル・エンジンの搭載、C4I機能の導入などが予定されている。


●構造

アル・ハリド戦車の車体と砲塔は共に圧延防弾鋼板の全溶接構造となっており、車体と砲塔の前面には中国で開発された複合装甲が導入されている。
また車体と砲塔の表面には、成形炸薬弾への対策としてびっしりとERAのボックスが装着されている。
アル・ハリド戦車の車体は旧ソ連製のT-72戦車のものとサイズも形状もそっくりで、本車の実態は「パキスタン版T-72戦車」といっても良いものである。

中国は1980年代半ばにイラン・イラク戦争でイラン軍が捕獲した数両のT-72M戦車を極秘裏に入手しており、これを徹底的に調査・分析してその後の戦車開発に活用している。
このためアル・ハリド戦車の車体は、多くの部分にT-72戦車の設計がそのまま用いられている。
一方、アル・ハリド戦車の砲塔はT-72戦車の鋳造製の半球形のものとは大きく異なっており、85-IIAP式戦車の砲塔と同様に平面で構成された溶接構造のものが採用されている。

主砲の51口径125mm滑腔砲はT-72戦車に搭載されている125mm滑腔砲2A46とほぼ同じもので、砲身には排煙機とサーマル・スリーブが装着されている。
なおパキスタン軍はアル・ハリド戦車の開発段階において、西側製の120mm滑腔砲を導入することも一時検討しており、1992〜98年にかけてドイツのラインメタル社製もしくはフランスのGIAT社製の120mm滑腔砲をアル・ハリド戦車に搭載して射撃試験を実施している。

これら西側製120mm滑腔砲は性能的には125mm滑腔砲2A46を上回るものであったが、2A46に比べて調達コストが高くなることから結局採用は見送られている。
アル・ハリド戦車の車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室というオーソドックスな配置になっている。

車体中央部の戦闘室内には底部の主砲弾薬弾倉と一体化した自動装填装置が装備されており、装填手が不要となったために乗員は3名となっている。
主砲弾薬搭載数は39発となっており、この内22発分の砲弾と装薬が主砲弾薬弾倉に装填されており、主砲の発射速度は10〜12発/分とされている。
なお、装填時の主砲の仰角は4度15分に固定される。

主砲弾薬には劣化ウラン弾芯を持つAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾、砲口初速1,760m/秒)、HEAT(対戦車榴弾、砲口初速850m/秒)、HE-FRAG(破片効果榴弾、砲口初速950m/秒)が開発されている。
NORINCOによればAPFSDSを使用した場合、射距離2,000mで460mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することができるという。

アル・ハリド戦車のFCSは、中国軍の96式戦車と同じイスラエル製の「ISFCS-212」(Image-Stabilized Fire Control System 212:映像安定化射撃統制システム212型)を採用しており、車長と砲手用の2軸安定式サイトには第2世代型イメージ増幅暗視装置が組み込まれ、夜間戦闘能力が向上している。
弾道コンピューターも新型のディジタル式のものに更新されており、走行間射撃能力が向上している。

また砲塔上面の車長用キューポラに装備されている対空用の12.7mm重機関銃は、従来の中国製MBTに装備されていた54式(旧ソ連製のDShKMのライセンス生産型)から、新型の85式(旧ソ連製のNSVTのライセンス生産型)に変更されており、これには−4.5〜+70度の俯仰角と650〜700発/分の発射速度、それに1,600mの有効射程距離がある。

アル・ハリド戦車の走行装置は車体最前部左右の誘導輪と、トーションバー(捩り棒)式サスペンションに支えられた片側6個の複列式転輪、後部左右の起動輪、片側3個の上部支持輪と、取り外しが可能なゴムパッド付きのダブルピン/ダブルブロック型履帯から成るが、これらの上部はサイドスカートによって覆われており、このスカートは前半部が分割式のERAブロック、後半部が分割式のゴム製スカートとなっている。

アル・ハリド戦車のエンジンには、ウクライナのハルキウ機械製造設計局(KhKBM)が開発した6TD-2 水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)が採用されている。
このエンジンはT-80UD戦車に搭載されている6TDディーゼル・エンジンの出力向上型で、T-72戦車シリーズに搭載されているV型12気筒ディーゼル・エンジンに比べてコンパクトに設計されているため、機関室の容積を節約できるメリットがある。

一方アル・ハリド戦車の変速機には、フランスのSESM社製のESM500自動変速機(前進5段/後進2段)が採用されている。
ESM500変速機はフランス軍の最新MBTであるルクレール戦車にも採用されており、高い性能と信頼性が保証されている。
この足周りによりアル・ハリド戦車は路上最大速度72km/h、路上航続距離500kmの機動性能を発揮する。


<アル・ハリド戦車>

全長:    10.35m
車体長:   6.90m
全幅:    3.372m
全高:    2.30m
全備重量: 46.0t
乗員:    3名
エンジン:  6TD-2 2ストローク水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,200hp/2,600rpm
最大速度: 72km/h
航続距離: 500〜550km
武装:    51口径125mm滑腔砲2A46×1 (39発)
        85式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        86式7.62mm機関銃×1 (3,000発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著  アルゴ
 ノート社
・「パンツァー2001年3月号 近代化の歩みを進める最近の中国戦車」 宇垣大成 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年1月号 特集 知られざる中国戦車」 宮永忠将/三鷹聡 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年2月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2001年3月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2002年1月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2018〜2019」  アルゴノート社
・「グランドパワー2004年9月号 中国戦車開発史(4)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「世界の主力戦車カタログ」  三修社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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