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96式自走120mm迫撃砲





●開発

陸上自衛隊における自走迫撃砲の歴史は、60式装甲車の試作車である小松製作所製の試製56式装甲車I型(略称:SU-I)に81mm迫撃砲を搭載した試製56式自走81mm迫撃砲(略称:SV)と、三菱重工業製の試製56式装甲車II型(略称:SU-II)に4.2インチ(107mm)迫撃砲を搭載した試製56式自走4.2インチ迫撃砲(略称:SX)に始まる。
この内、4.2インチ迫撃砲を搭載するSXは兵員輸送車型の第2次試作車であるSU-II(改)をベースとしたSX(改)に発展し、1960年には「60式自走4.2インチ迫撃砲」として制式化された。

そして1962年までに合計で22両が調達され、第7師団各普通科連隊の迫撃砲隊(当時)に配備された。
この車両に搭載された60式車載4.2インチ迫撃砲は、普通科連隊重迫撃砲中隊が装備するアメリカ製の4.2インチ迫撃砲M2と基本的に同じものである。
後にメートル法に呼称が改められたためそれぞれ「60式車載107mm迫撃砲」、「107mm迫撃砲M2」と改称され、車両の方も「60式自走107mm迫撃砲」と改称されている。

その後73式装甲車の制式化に伴い、107mm迫撃砲をこれに搭載し機動性を向上させたものが1975年度に「75式自走107mm迫撃砲」として仮制式化された。
しかし第7師団の改編構想等の関係もあり、量産には至らなかった。
その後、107mm迫撃砲M2の更新用としてフランスのトムソン・ブラント社(現タレス社)製の120mm迫撃砲RTが採用され、1992年度より豊和工業によってライセンス生産が開始された。

これに伴い、第11普通科連隊重迫撃砲中隊向けにこの120mm迫撃砲RTを自走化する案が浮上した。
120mm自走迫撃砲の開発が開始された時期ははっきりしていないが、一説によると120mm迫撃砲RTのライセンス生産が始められた1992年から、防衛庁技術研究本部(TRDI)ではなく陸上自衛隊独自の自隊研究として始まったといわれている。

1990年12月に安全保障会議および閣議で決定された中期防衛力整備計画(平成3年度~平成7年度)において、当初はこの120mm自走迫撃砲を6両整備することが計画されていた。
しかしソヴィエト連邦の解体、東西冷戦の終結、日本の財政事情の逼迫化等各種情勢の変化を受けて、1992年12月18日に安全保障会議および閣議で決定された中期防衛力整備計画の修正により、120mm自走迫撃砲の装備化は次期中期防衛力整備計画へ先送りとなった。

そして中期防衛力整備計画(平成8年度~平成12年度)の初年度である平成8年(1996年)度に、「96式自走120mm迫撃砲」としてようやく制式化された。
60式自走4.2インチ迫撃砲の制式化から、実に36年後の後継車の制式化であった。
しかし96式自走迫撃砲は高い戦闘力を持つ半面、調達価格が約2億2,000万円と自走迫撃砲としては非常に高価な車両であるため、調達が終了した2002年度までにわずか24両しか生産されなかった。

年度ごとの調達数は1996年度が6両、97年度が6両、98年度が3両、99年度が3両、2000年度が3両、2001年度が1両、2002年度が2両となっている。
このように生産数が非常に少ないため、96式自走迫撃砲の配備先は第7師団第11普通科連隊の重迫撃砲中隊のみに留まっている。


●120mm迫撃砲の構造

96式自走120mm迫撃砲が搭載する120mm迫撃砲は、フランスのトムソン・ブラント社が開発した17.3口径120mm迫撃砲RTを豊和工業でライセンス生産したものをベースにしている。
陸上自衛隊での制式名称は「120mm迫撃砲RT」となっているが、メーカーにおける正式名称は「Mortier 120mm Rayé Tracté Modèle 61」(牽引式120mmライフル迫撃砲モデル61)である。
この120mm迫撃砲RTは1959年に最初の試作品が完成し、1961年には最初の量産品が作られている。

砲身は通常の迫撃砲に使われている滑腔砲身ではなく、名称の通りライフル砲身が採用されている。
従って通常の迫撃砲が安定翼の付いた有翼弾を使用するのに対し、このRTでは砲弾の旋転により弾道を安定させることになる。
RTが使用する砲弾の後部には棒状のものが取り付けられているが、これは安定翼ではなく装薬を保持するためのチューブである。

これに切り欠きの付いた円盤状の装薬を取り付け、発射後は砲弾から分離される。
一般に迫撃砲は低初速であり、有翼弾を使用することが原因で横風等の影響を受け易い。
しかしこのRTでは旋転安定式を採用したことにより風の影響を受け難く、命中精度を向上させている。
公算誤差は左右方向で射距離の0.1~0.15%、前後方向で射距離の0.4~0.58%に収まるとされており、翼安定式の迫撃砲に比べ精度が高い。

砲身長は2.08mで、砲身の外面には放熱用に表面積を増すための溝がびっしり掘られている。
重量は107mm迫撃砲M2が約151kgなのに対して、4倍の約600kgにも達する。
迫撃砲は円形のターン・テーブルに載せられており、砲の旋回角は左右各800ミル(約45度)となっている。
旋回操作は、砲身右側下部の旋回用ハンドルを回転させて行う。

砲の俯仰角は+30~+85度となっている。
俯仰操作は砲身左側下部の俯仰用ハンドルを回転させ、砲身外面の溝に噛まされたピニオン・ギアを作動させて行われる。
照準は軸環に取り付けられた托座に装着された照準機で行われ、砲身右側上部の照準用ハンドルを使って交差水平軸を動かして行われる。

120mm迫撃砲RT用の弾薬には榴弾、発煙弾、照明弾、対軽装甲弾、そして噴進弾が用意されている。
「噴進弾」というのはロケット補助推進弾の自衛隊での呼称であるが、現場では単に「RAP」(ラップ、Rocket-Assisted Projectile(ロケット補助推進弾)の略語)と呼ばれることが多い。
弾薬のメーカーは、ダイキン工業および小松製作所である。
最大射程は通常弾の場合で約8,100m、噴進弾を使用すると約13,000mに達する。

これは牽引式105mm榴弾砲M2A1の11,273mを凌駕しているのはもちろん、特科連隊の全般支援大隊に装備されていた牽引式155mm榴弾砲M1の14,955mや、多連装中隊に配備されている75式130mmロケット弾の14,766mに迫るものである。
発射速度は15~20発/分とされており、メーカーによるとこの高い発射速度によりトータルの砲撃効果は従来の155mm榴弾砲に匹敵するという。

96式自走迫撃砲が携行する120mm砲弾の弾数は50発となっており、車体後部戦闘室の左右袖部に搭載され、ここにはカンヴァスのカバーが掛かるようになっている。
ターン・テーブルの後方には装填時等に使われる足場があり、使用しない時はX型の脚を折り畳んで収納することができるようになっている。


●車体の構造

96式自走120mm迫撃砲の車体は日立製作所が新規に開発した装軌式装甲車体で、全備重量23.5t、全長6.7mと自走迫撃砲としてはかなり大型である。
エンジンや足周りは92式地雷原処理車のものが流用されており、起動輪やエンジン配置も同じく車体前方となっている。

エンジンは、アメリカのデトロイト・ディーゼル社製の8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されており、出力は411hp/2,300rpmとなっている。
このエンジンの名前は1気筒当たりの排気量が71立方インチであることから来ており、87式砲側弾薬車や203mm自走榴弾砲にも同じエンジンが搭載されている。
96式自走迫撃砲の機関室は車体前部左側に位置し、反対の前部右側は操縦室となっている。

操縦室の最前部には操縦手席があり、その後方には車長(砲班長)席が設けられている。
車長席の後方は、戦闘室に続く通路となっている。
本車の乗員は車長、操縦手、砲操作員3名の合計5名となっている。
操縦桿はバイク型のバーハンドル式で、変速機はアメリカのアリソン社製のXTG-411-2Aクロスドライブ式自動変速機(前進4段/後進2段)が採用されている。

92式地雷原処理車と同様、超信地旋回はできない。
96式自走迫撃砲の路上最大速度は約50km/hで、73式装甲車の約60km/h、89式装甲戦闘車の約70km/hと比べると大きく見劣りする。
公表されているデータでは路上航続距離は300km以上とされているが、自衛隊車両の航続距離は過少申告されるのが常であるため実際は2割程度長いものと思われる。

車体後部は主武装である120mm迫撃砲RTと砲操作員、弾薬等を収容する戦闘室となっている。
戦闘室上面の一番前寄りには左右開き式の大きなハッチがあり、副武装であるアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2の銃座が取り付けられている。
この機関銃の防盾は、87式砲側弾薬車と共通のものと思われる。

戦闘室の上面と後面は120mm迫撃砲を射撃する際には大きく開放するようになっており、戦闘室上面開口部の前半部は前方に跳ね上げる形式のハッチ、戦闘室上面開口部の後半部と戦闘室後面開口部はヒンジで連結されたハッチとなっており後方に折り畳むようになっている。
ハッチを後方に折り畳んだ際には、この部分を砲操作員の作業用プラットフォームとして利用するようになっている。

戦闘室上面後半部のハッチには右寄りに、ハッチ開放時に使用する乗降用ラダーがヒンジを介して取り付けられており、ハッチ開放時にはこのラダーを降ろすようになっている。
戦闘室後面のハッチの左寄りにはスリットが付いた右開き式のドアが設けられていて、ハッチを閉鎖した状態ではこのドアを使用して乗降を行う。

120mm迫撃砲の俯仰機構のさらに下部には砲身を格納するための折り畳み機構があり、この左側から伸びたハンドルを回して砲部を車体後部方向にさらに倒し、完全に車内に格納できるようになっている。
96式自走迫撃砲は牽引式の120mm迫撃砲と比べて迅速な陣地変換が可能で、高い装甲防御力を備えている。
また本車は装軌式車体を用いているため装輪式の自走迫撃砲に比べて路外機動性に優れており、射撃プラットフォームとしての安定性も優れているため精度の高い射撃が可能である。


<96式自走120mm迫撃砲>

全長:    6.70m
全幅:    2.99m
全高:    2.95m
全備重量: 23.5t
乗員:    5名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル8V-71T 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 411hp/2,300rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 300km
武装:    17.3口径120mm迫撃砲RT×1 (50発)
        12.7mm重機関銃M2×1
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー1999年11月号 陸上自衛隊の96式自走120mm迫撃砲」 田村尚也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年7月号 フランスTBA社のMo-120RT迫撃砲」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年10月号 陸自の歴代の自走迫撃砲」 奈良原裕也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年1月号 陸上自衛隊の現用車輌」  アルゴノート社
・「パンツァー2009年1月号 陸上自衛隊の装備車輌」  アルゴノート社
・「パンツァー2014年3月号 陸上自衛隊AFV 2014」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」  アルゴノート社
・「陸自車輌50年史」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946~2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「世界の最強陸上兵器 BEST100」  成美堂出版
・「自衛隊歴代最強兵器 BEST200」  成美堂出版
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「自衛隊装備年鑑」  朝雲新聞社


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