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96式多目的誘導弾システム





96式多目的誘導弾システム(略称:MPMS(Multi-Purpose Missile System)、愛称:96マルチ)は、旧式化した79式対舟艇対戦車誘導弾(略称:重MAT)の後継として、「XATM-4」の試作呼称で1986年から開発が開始された陸上自衛隊の長射程対戦車ミサイル・システムである。
1996年度に「96式多目的誘導弾システム」として制式化された本システムの最大の特長は、世界で初めて光ファイバーを用いた赤外線/可視光画像誘導方式を採用した点である。

この誘導方式の対戦車ミサイル・システムは欧米でも一時期開発が進められていたが、アメリカのMGM-157 EFOGMは1990年に、ヨーロッパのポリフェムも2003年に開発中止となった。
MPMSは発射機、地上誘導装置、射撃指揮装置、情報処理装置、装填機、観測機材の6両の車両で構成されており、情報処理装置および装填機はいすゞ自動車製の3 1/2tトラック、その他の車両はトヨタ自動車製の高機動車をベース車台として用いている。

ミサイル・システム自体の製造は、川崎重工業が担当している。
発射機は高機動車の後部荷台に起倒式のミサイル・コンテナを搭載しており、発射時にはジャッキで車体を固定して噴流偏向板を展開し、ミサイル・コンテナに仰角をかける。
射撃指揮装置から送信される目標情報を基に、地上誘導装置で発射機の制御を行う。

発射機に装填されたミサイル・コンテナには6発のミサイルが格納されており、再装填の際は装填機でコンテナごと取り替えるようになっている。
ミサイル本体は全長2,000mm、発射重量60kgに達し、対戦車ミサイルとしてはかなりの大型であるがそれだけに威力も大きい。

射程については公表されていないが、一説には10km以上といわれる。
MPMSはいわゆるトップアタック方式の対戦車ミサイル・システムで、ミサイルは発射後に4枚2組の翼を展開し、目標手前の上空まで急上昇しながら飛翔する。
目標の上空に達すると鋭角に急降下し、比較的装甲の薄い上面を直撃するようになっている。

このため最強度の防御力を誇るMBTや、1,000t程度の中型揚陸艦に対しても効果がある。
MPMSは発射後にミサイル先端の画像情報を光ファイバー経由で取得できるため、攻撃に曝されない後方の陣地や掩砲所からの運用が可能となっており、発射後の目標捜索も可能である。
また戦車だけでなく舟艇や建物に対しても使用でき、さらに敵のジャミングにも強いというメリットを持っている。

しかしその反面、MPMSは6両で1つのシステムを構成するほどユニットとして大型複雑化し、なおかつ高価格化(システム一式で約27億円、ミサイル1発で約5,000万円)を招いてしまい結局、教育部隊を除くとエリート部隊である第2師団と北部と西部の両方面直轄部隊に配備が限定されている。

この反省から、より安価で単一の車両でシステムが完結する新たな対戦車ミサイル・システムが「XATM-6」の試作呼称で開発されることになり、「中距離多目的誘導弾」(略称:MMPM(Middle range Multi-Purpose Missile))の名称(本システムは制式化されておらず、部隊使用承認の形で採用されている)で2009年度から調達が開始されている。

MMPMは本来、旧式化した87式対戦車誘導弾(略称:中MAT)の後継として開発されたものであったが、前述のように重MATの後継として開発されたMPMSが大型複雑化・高価格化してしまったため、重MATの後継もMMPMが兼ねることになった。
これに伴って、MPMSは2012年度までに合計37セットで調達を終了することになった。

現在、第2師団の対舟艇対戦車中隊と北部・西部の両方面直轄の対舟艇対戦車隊には、1個対舟艇対戦車隊当たり8セットのMPMSが配備されている。
MPMSは運用が複雑で調達コストも大きいが、師団長や旅団長の直轄部隊として運用した場合、極めて生残性に優れた精密な火力を集中できるため、沿岸防備における水際撃破の主体として、あるいは防御戦闘における対機甲戦闘の主軸として機能し得る装備であることは間違いない。


<誘導弾>

全長:       2,000mm
直径:       160mm
発射重量:    60kg
最大飛翔速度: 85m/秒
誘導方式:    光ファイバーTVM赤外線画像
最大有効射程: 10,000m


<参考文献>

・「パンツァー2012年1月号 陸上自衛隊 21世紀の新装備」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年2月号 96式多目的誘導弾システム」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年7月号 現代の軽軍用車輌(2)」 眞光寺清彦 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年1月号 陸上自衛隊の現用車輌」  アルゴノート社
・「パンツァー2009年1月号 陸上自衛隊の装備車輌」  アルゴノート社
・「陸上自衛隊の車輌と装備 2016〜2017」  アルゴノート社
・「陸上自衛隊の戦闘車輌 1950〜2015」  アルゴノート社
・「陸上自衛隊の車輌60年」  アルゴノート社
・「グランドパワー2011年9月号 陸自対戦車部隊の変遷」 田村尚也 著  ガリレオ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」  三修社
・「自衛隊装備名鑑 1954〜2006」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「最新 自衛隊パーフェクトガイド」  学研
・「自衛隊装備年鑑」  朝雲新聞社


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