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九二式重装甲車





●開発

1920年代後半からイギリス陸軍は実験機械化演習を行い、軽戦車の戦場における偵察活動能力に注目していた。
騎兵科自身も、当時盛んだった「騎兵廃止論」を回避するために軽戦車を賞賛した。
ここに、騎兵の軽戦車化が進められてゆくことになった。
戦車の先進国イギリスのこの傾向は、日本にも多大な影響を与えた。

日本陸軍では、騎兵学校が機械化の研究を行っていた。
初め着目したのは装甲自動車(装輪式)と水陸両用車であったが、いずれも満足できるものは製作できなかった。
次いで注目されたのが、装軌式装甲車(軽戦車)であった。
同月中に、騎兵学校の試験が行われた。

1931年2月に石川島自動車製作所(後のいすゞ自動車)に試作車を発注、翌32年3月に完成した。
同社での社内名称は、「スミダTB型九二式軽戦車」であった。
完成した車両は全装軌式で、重量は3.0tであった。
箱型の車体は3つの区画に分かれており、車体中央部は車長の位置する砲塔と戦闘室で履帯上まで張り出していた。

戦闘室前部の右半分は前方に伸びて、機関砲のスポンソン(張り出し砲座)となっていた。
その銃手の左隣に操縦手が座り、乗員は計3名であった。
車体後部は機関室で、起動輪は前方にあった。
これが若干の改修を経て、満州事変勃発の翌年1932年に騎兵科の重装甲車として制式化された。

なお「重装甲車」という呼称は、戦車を管轄していた歩兵科のセクショナリズムを刺激しないように騎兵科が配慮して用いたもので、実態は「軽戦車」に他ならなかった。
これは諸外国の陸軍においても同様で、アメリカ陸軍も歩兵科が戦車を管轄していたため、騎兵科の戦車は「戦闘車」(Combat Car)と呼ばれていた。


●生産と部隊配備

九二式重装甲車の量産は1933年から開始され、1939年まで7年間という比較的長期間に渡って合計167両が生産された。
生産中に順次改良が加えられており、転輪は試作車の小径ゴム転輪片側4個(ボギー2組)から前期生産型では6個(ボギー3組)になり、後期生産型では中径ゴム転輪4個となった。

それに伴いリーフ・スプリング(板ばね)の取り付け方法も変わり、後期生産型では上部支持輪が片側3個から2個に減らされている。
また、砲塔側面の外部視察用のストロボ・スコープは単純な覘視口になった。
特異な変形型も少数生産されている。

九二式車載13mm機関砲の代わりに九四式37mm戦車砲を搭載したものや、空冷ディーゼル・エンジンに換装された車両などである。
九二式重装甲車の単価は八九式中戦車の1/3で、中国大陸での軍事行動に予算の大半を吸い取られていた陸軍にとっては安上がりなAFVであった。
民間有志の寄付による、献納車体(愛国号)も複数ある。

九二式重装甲車は主に関東軍と朝鮮軍に配属されたが、現役期間が短く目立った活躍はしていない。
1932年馬占山軍閥の討伐のため、騎兵学校の九二式重装甲車7両などから成る自動車班が騎兵第一旅団に臨時配属された。
同年、続いて北満州に出動した騎兵第四旅団にも同様の自動車班が編組された。

1933年には、これらの自動車班は旅団装甲車隊として正式編制となった。
九二式重装甲車はこれら騎兵部隊の他に、内地から臨時に派遣される独立戦車隊にも配属された。
1933年2月末、関東軍は熱河省の湯玉麟軍閥を征伐する熱河作戦のため関東軍自動車隊を出動させた。
同地方は鉄道網が無いので、徴用トラックと戦車・装甲車に期待するところが大であった。

この時、第八師団内に日本軍初の自動車化歩兵連隊といえる川原挺進隊が編制され、八九式中戦車甲型5両と九二式重装甲車2両などから成る臨時派遣第一戦車隊(長、百武俊吉大尉)がその前衛を務めた。
長距離の山岳追撃戦となって八九式中戦車は次第に落伍したが、九二式重装甲車はよく敵縦隊の末尾に食い下がって敵根拠地まで随走した。
3日で280km、歩兵部隊の3〜4倍の速度だった。

しかしその陰で、騎兵第四旅団自動車班の九二式重装甲車はトラックの機動力に付いて行けずに途中置き去りにされている。
1935年には騎兵第一旅団と騎兵第四旅団装甲車隊を併合して騎兵集団装甲車隊が編制され、九二式重装甲車と九四式軽装甲車が装備された。
騎兵集団装甲車隊は、1937年には九五式軽戦車に装備改編された。


●攻撃力

九二式重装甲車の主砲である九二式車載13mm機関砲は、フランスのオチキス社製の13.2mm重機関銃M1930をベースに南部銃製造所が1932年に完成させたもので、陸軍がオチキス社から購入した13.2mm連装重機関銃M1930を準制式化したホ式13mm高射機関砲と同じ弾薬を使用したが、砲口初速はホ式高射機関砲の800m/秒に対して九二式車載機関砲は745m/秒、発射速度は同じ450発/分だった。

これは暴露目標に対しては持続連射能力が不足であり、隠蔽目標に対しては貫徹力不足(均質圧延装甲板20mm/射距離500m)であった。
早くも1933年に陸軍技術本部は、「13mm機関砲では対空/対装甲共に威力弱小」と断言して20mm機関砲の開発を急ぐ理由にしている。

車体サイズと比べてみても当初の要求のように密閉旋回砲塔内にはとても収まらず、やむを得ず車体右前方に固定装備されたが、それでもスポンソンの形状を変更し特殊な照準鏡を設けて対空射撃を可能とした。
当時は新兵器の設計中に運用側から次々に高望みの要求が積み増しされる弊風があり、これはそれに応えた辻褄合わせの措置と見られる。
実用的な対空戦闘能力は、無論無い。

13mmという口径はその後(試製SR-IIを除けば)、戦車・装甲車の火器としては二度と復活しなかった。
車体上部に搭載された旋回砲塔には九一式車載軽機関銃(口径6.5mm)を1挺装備しており、さらに砲塔外部に対空射撃用の軽機関銃の銃架が設けられた。
なお、車体にも砲塔と同じ6.5mm軽機関銃を装備した車両もあった。


●防御力

九二式重装甲車の装甲厚は最も薄い部分で3mmしかなく、最も厚い部分でも12mmと装甲防御力はかなり貧弱であり、小口径弾に対する抗堪性すら充分ではなかった。
本車は鉄骨フレームに防弾鋼板を張り付ける際、それまでのリベット接合ではなく溶接によって組み立てられており、これは当時としては軽量化のための野心的な工法だった。

一般に防弾鋼板は熱を受けると耐衝撃性能が劣化するため、これを溶接するには特別な発明が必要だったからである。
しかし、実戦で使ってみると戦車としては車体構造が華奢すぎて、何かに接触した時に自壊することがあったという。


●機動力

九二式重装甲車に最初に搭載されたエンジンは、アメリカのフランクリン社から購入した直列6気筒空冷ガソリン・エンジン(出力67hp)である。
このエンジンは元々トラック用であるが、6t戦車M1917(フランスのルノーFT軽戦車のアメリカ版コピー)の換装用として、1920年代末から大々的に調達されている実績のあるものだった。

日本がこのエンジンに注目したのはそれが民需用エンジンであり入手し易いことと、軽戦車への搭載実績のある空冷エンジンだったからである。
そしてこれが、後の全ての日本戦車が搭載した国産空冷ディーゼル・エンジンの原型となった。
後に石川島自動車製作所は「スミダC6」の名称でフランクリン空冷ガソリン・エンジンのライセンス生産を開始し、九二式重装甲車はこの国産エンジンを搭載するようになった。

このエンジンによって九二式重装甲車は路上最大速度40km/hという、当時の日本の装軌式車両の中では飛び抜けた機動性能を発揮した。
試作時には、転輪ゴムが頻繁に破損したという。
本車は装甲車としては車体が縦長のため操向性が悪く、サスペンションの耐久力も足りなかったので九四式軽装甲車のようには好まれなかった。


<九二式重装甲車>

全長:    4.08m
全幅:    1.68m
全高:    2.205m
全備重量: 3.9t
乗員:    3名
エンジン:  スミダC6 直列6気筒空冷ガソリン
最大出力: 75hp/2,800rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 200km
武装:    75.8口径九二式車載13mm機関砲×1 (500発)
        九一式車載6.5mm軽機関銃×1 (2,500発)
装甲厚:   3〜12mm


<参考文献>

・「パンツァー2007年9/10月号 陸軍騎兵の機械化に貢献した九二式重装甲車」 高橋昇 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年8月号 陸軍機械化偵察部隊 捜索連隊ものがたり(1)」 高橋昇 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年8月号 帝国陸軍の戦車武装 戦車砲と車載機銃(上)」 高橋昇 著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年9月号 帝国陸軍の戦車武装 戦車砲と車載機銃(下)」 高橋昇 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年7月号 九二式重装甲車と各国騎兵戦車」 久米幸雄 著  アルゴノート社
・「パンツァー2019年9月号 特集 九五式軽戦車」 吉川和篤 著  アルゴノート社
・「日本の戦車と装甲車輌」  アルゴノート社
・「グランドパワー2001年2月号 日本軍機甲部隊の編成・装備(1)」 敷浪迪 著  デルタ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「帝国陸海軍の戦闘用車両」  デルタ出版
・「グランドパワー2010年6月号 九二式車載十三粍機関砲」 国本康文 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年6月号 九二式重装甲車」 鮎川置太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著  大日本絵画


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