HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)自走ロケット・システム自走ロケット・システム(中国)>89式自走多連装ロケット・システム

89式自走多連装ロケット・システム





89式自走多連装ロケット・システムは、NORINCO(中国北方工業公司)が83式152mm自走榴弾砲の足周りを流用して開発した多連装ロケット・システムである。
1985年の半ば頃からNORINCOの第674、第5137工場と第207研究所の手で開発が行われ、1989年に制式化された。

本システムは、装軌式の多連装ロケット・システムとしては極めて独特なスタイルにまとめられており、車体後端に10基の発射機を1列として4段にまとめた40連装の122mmロケット弾発射機を持つ他、チェコ製の装輪式多連装ロケット・システムのように、車体前部に再装填用のロケット弾40発を収めるコンテナが搭載されており、ロケット弾を自動装填することができる。

車体は前部左側に操縦室、前部右側に機関室を配しているのは83式自走榴弾砲と同じだが、車体上部構造は全く新たに設計されたものに替わった。
車体後部は一段持ち上げられた形となり、ここに限定旋回式の架台を設けて40連装のロケット弾発射機を搭載しているが、この基部にあたる部分は戦闘室とされており、内部に車長や射撃手など4名の乗員が収容されている。

このため外部視察用として、戦闘室左右の装甲板にそれぞれ2カ所ずつの防弾ガラス付き視察窓が設けられており、戦闘室後面には乗降用のドアが装備されている。
サスペンションは83式自走榴弾砲と同じくトーションバー(捩り棒)方式が採用され、片側6個の複列式転輪を支えており、第1、第6転輪にはショック・アブソーバーが装着されている。
また上部支持輪は片側3個で、このレイアウトも83式自走榴弾砲と変わらない。

本システムで用いられる122mmロケット弾には榴弾や破砕型榴弾、地雷処理弾等合わせて7種が用意されており、重量や寸法は弾種によって異なり射程にも変化が見られるが、榴弾の場合全長2.87m、発射重量67kg、弾頭重量18.3kg、最大射程20,580mとなっている。
ロケット弾発射機の旋回角は左が102度、右が66度で、俯仰角は0〜+55度の作動範囲を有している。

後期の生産車では発射機の左側に操作手の乗員区画が新たに設けられており、上部には機関銃座が備えられている。
89式自走多連装ロケット・システムの生産数は不明だが、中国軍向けとしてある程度の数量は生産されたものと思われる。


<89式自走多連装ロケット・システム>

全長:    7.18m
車体長:   6.85m
全幅:    3.145m
全高:    3.18m
全備重量: 29.9t
乗員:    5名
エンジン:  12150L 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 520hp/2,000rpm
最大速度: 55km/h
航続距離: 450km
武装:    40連装122mmロケット弾発射機×1 (80発)
装甲厚:   最大10mm


<参考文献>

・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「パンツァー2017年6月号 中国陸軍の近況」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)自走ロケット・システム自走ロケット・システム(中国)>89式自走多連装ロケット・システム