HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装輪式装甲車装輪式装甲車(日本)>87式偵察警戒車

87式偵察警戒車





87式偵察警戒車は82式指揮通信車に続いて制式化された国産の装輪式装甲車両で、「Reconnaissance Combat Vehicle」を略して「RCV」とも呼ばれる。
各師団/旅団の偵察隊および戦車連隊本部などに配備され、優れた路上機動性を活かしての偵察警戒と、側方警戒行動が主たる任務である。

これまで陸上自衛隊の偵察隊といえばジープやオートバイ程度しか装備しておらず、実質的には斥候隊以上の能力は無かった。
例外は北海道の第7師団ぐらいで、ここには威力偵察用に74式戦車が配備されている。
87式偵察警戒車を威力偵察に用いるのはいささか荷が重過ぎるが、それでも空地火力の脅威に晒された中では、はるかに安全確実に偵察任務を遂行できるといえよう。

本車の開発は82式指揮通信車と同じく小松製作所が担当しており、1983年から3億4,200万円をかけて2両の試作車が製作され、1985年に技術試験、1986年に実用試験に入り、1987年に「87式偵察警戒車」として制式化された。
調達価格は、1995年度の時点で2億6,700万円といわれる。
この種の車両価格としては間違いなく世界一の高額だが、2002年度までに95両が調達されている。

87式偵察警戒車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、浮航能力は持っておらずNBC防護装備も無い。
82式指揮通信車と同じ3軸6輪形式が採用されており、パワートレイン関係のコンポーネントは82式指揮通信車のものが流用されている。
しかし82式指揮通信車ではエンジンは車体中央部に配置されているが、87式偵察警戒車では車体後部右寄りに移動している。

これは、車体中央部に砲塔が配置されたためである。
乗員は5名で、内訳は操縦手、前部偵察員、砲手、車長、後部偵察員となっている。
車体の前部には右側に操縦手席、左側に前部偵察員席が置かれている。
車体中央部には全周旋回式の2名用砲塔が搭載されており、砲塔のすぐ後ろの車体後部左側に後ろ向きの後部偵察員席がある。

車体右側面の第1輪と第2輪の間および、左側面の第2輪と第3輪の間には乗降用のドアが設けられている。
また車体後部左側には、後部偵察員席と車体後面の乗降用ドアを繋ぐ狭い通路がある。
前部と砲塔の乗員は車体前部右側のドアから乗降を行うが、操縦手席と前部偵察員席の上部にもそれぞれハッチが設けられている。

また後部偵察員は車体左側面のドア、または車体後面のドアから乗降する。
なお、後部偵察員はペリスコープを使用して後方の監視を行う他、車体後面左側の乗降用ドアの上部に備えられたTVカメラからの後方映像を車内モニターで監視する。
砲塔は車体と同じく圧延防弾鋼板の全溶接構造で、砲塔内右側に車長、左側に砲手が搭乗する。

砲塔上面には右側に6基のペリスコープを備えた車長用キューポラ、左側に砲手用ハッチがそれぞれ設けられている。
また砲塔の左右側面には、3連装または4連装の発煙弾発射機が各1基ずつ装備されている。
主砲は、NATO諸国などで広く使用されているスイスのエリコン社製の80口径25mm機関砲KBA-B02を、日本製鋼所でライセンス生産したものが搭載されている。

25mm機関砲KBA-B02はガス圧作動、二重給弾方式の機関砲で、弾種選択レバーの操作によって徹甲弾系と榴弾系を切り替えられるようになっている。
APDS(装弾筒付徹甲弾)を使用した場合砲口初速は1,335m/秒で、射距離2,000mで傾斜角30度の25mm厚装甲板を貫徹する能力があり、対地・対空のどちらにも使用できる。
主砲の俯仰角は−10〜+45度だが、後方約110度の範囲は俯角が取れない。

主砲の右側には、74式車載7.62mm機関銃が同軸に装備されている。
その他の性能は、概ね82式指揮通信車と同じである。
なお特殊装置として、操縦手および砲手用に微光暗視装置を搭載している。
87式偵察警戒車は車両の性格としてはスペインのVEC装甲偵察車に良く似ており、最先端でも独創的でもないが平均的な水準の車両といえるだろう。


<87式偵察警戒車>

全長:    5.99m
車体長:   5.525m
全幅:    2.48m
全高:    2.80m
全備重量: 15.0t
乗員:    5名
エンジン:  いすゞ10PBI 4ストロークV型10気筒液冷ディーゼル
最大出力: 305hp/2,700rpm
最大速度: 100km/h
航続距離: 500km
武装:    80口径25mm機関砲KBA-B02×1 (400発)
        74式車載7.62mm機関銃×1 (4,000発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2005年7月号 AFV比較論 87式偵察警戒車 vs ルクス」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2006年10月号 陸上自衛隊 87式偵察警戒車」 吉田政昭 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年5月号 87式偵察警戒車 インアクション」  アルゴノート社
・「パンツァー2003年1月号 陸上自衛隊の87式偵察警戒車」  アルゴノート社
・「パンツァー2016年6月号 陸上自衛隊の87式偵察警戒車」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2005年7月号 陸上自衛隊 6輪装甲車」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「新・世界の装輪装甲車カタログ」  三修社
・「自衛隊装備年鑑」  朝雲新聞社


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)装輪式装甲車装輪式装甲車(日本)>87式偵察警戒車