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73式装甲車





73式装甲車は、60式装甲車の後継として開発された国産のAPC(装甲兵員輸送車)である。
小銃班の改編により、定員10名の60式装甲車では1個班11名が乗車できず、またNBC装備が無い等の理由により新型装甲車「SUB」が開発されることになった。
部分試作は1967年に三菱重工業の手で開始され、翌68年には「SUT」と呼ばれる試作車体が完成しているが、エンジンの試作はこれより前に始められている。

この三菱が開発したZFシリーズの空冷ディーゼル・エンジンは、必要な出力に合わせて気筒数を増減させた同系列のエンジンを各種の装甲車両に搭載することで部品を共通化し、整備補給を容易にする目的で開発された。
そして6気筒の6ZFが75式自走155mm榴弾砲、10気筒の10ZFが74式戦車、4気筒の4ZFがこの73式装甲車と74式自走105mm榴弾砲にそれぞれ搭載されている。
1969年からは技術試験が開始され変速機は日立製作所製、履帯は小松製作所製のものが採用された。

続いて全体試作車が三菱重工業および小松製作所に発注され、1970年に三菱製の試作車「SUB-I」、コマツ製の試作車「SUB-II」が両社とも防弾鋼板製車体および防弾アルミ製車体で各1両ずつ、全部で4両作られた。
全体試作車では車高変更装置の装備、20mm機関砲の搭載等各種の試験が行われ、その結果防弾アルミ製車体を持った三菱製のSUB-Iが最も優秀と判定され、これを基本として1973年12月5日に「73式装甲車」として制式化された。

73式装甲車は1974年から部隊への配備が始まり、合計で338両が生産された。
基本的なレイアウトは車体前部右側に操縦手席、前部左側に74式車載7.62mm機関銃の銃座と前方銃手席、その後方中央に車長席というもので、車体中央部左側にエンジン、反対の右側に12.7mm重機関銃M2の銃座と銃手席が置かれ、車体後部は兵員室となっている。

12.7mm重機関銃M2は、6基のペリスコープが備えられた手動旋回式のキューポラに取り付けられており、車内からリモコン操作が可能となっている(その代わりに対空射撃能力はほとんど無い)。
また車体後部の左右端には、3連装の発煙弾発射機が各1基ずつ装備されている。
後部兵員室には8名の完全武装の兵員が搭乗でき、向かい合わせに左右各4席ずつ折り畳み式シートが備えられている。

兵員の乗降は車体後面に設けられた観音開き式のドアから行うが、兵員室上面にも大型の両開き式ハッチが備えられている。
また車体左右側面に各2基ずつと、後部ドアに2基のT字型のガンポートが設けられており、乗車戦闘を行えるよう考慮されている。

73式装甲車は全体試作の段階では、20mm機関砲を搭載するIFV(歩兵戦闘車)とすることが一時検討されていたが、搭載する20mm機関砲を西ドイツのラインメタル社製のライセンス生産にこだわったことで価格が高騰したことや、アメリカ軍が当時進めていた20mm機関砲を戦車/装甲車に搭載する計画が中止されたことにより、弾薬の調達に支障が生じた等の理由で結局これは見送られている。
73式装甲車はいわば、IFVになり損ねたAPCともいえる。

73式装甲車が搭載する4ZF V型4気筒空冷ディーゼル・エンジンの最大出力は、60式装甲車の220hpから300hpに強化されており、路上最大速度は60km/hと60式装甲車よりも10km/h以上向上している。
変速機は日立製作所製のGSE型自動変速機(前進4段/後進1段)、操向機には油圧サーボ式のパワーステアリングが採用されており、60式装甲車よりも格段に操縦し易くなっている。
また、NBC防護装置も標準装備されている。

73式装甲車は車体が防弾アルミ製であるため、アメリカのM113装甲兵員輸送車と同様に履帯による推進で浮航可能となっているが、波切り板、転輪に装着する浮航フロート等の取り付けに約30分を要し、またこれらの浮航キットが常時搭載されていないので、浮航能力を持つこともできると言った方が良いように思われる。
73式装甲車の車体を用いた派生型には75式自走地上風測定装置、76式対砲レーダー装置があり、本車をベースに開発された車両としては74式自走105mm榴弾砲、75式130mm自走多連装ロケット弾発射機がある。


<73式装甲車>

全長:    5.80m
全幅:    2.90m
全高:    2.21m
全備重量: 13.3t
乗員:    4名
兵員:    8名
エンジン:  三菱4ZF 2ストロークV型4気筒空冷ディーゼル
最大出力: 300hp/2,200rpm
最大速度: 60km/h(浮航 6km/h)
航続距離: 300km
武装:    12.7mm重機関銃M2×1 (600発)
        74式車載7.62mm機関銃×1 (4,500発)
装甲厚:


<参考文献>

・「グランドパワー2012年3月号 自衛隊の車輌と装備 73式装甲車の派生型」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2012年1月号 自衛隊の車輌と装備 73式装甲車」 伊吹竜太郎 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「陸上自衛隊 車輌・装備ファイル」  デルタ出版
・「パンツァー2000年11月号 特集 73式装甲車」 林磐男/齋木伸生/水野靖夫 共著  アルゴノート社
・「パンツァー2013年9月号 いよいよ退役が始まる73式装甲車」 大竹勝美 著  アルゴノート社
・「パンツァー2003年10月号 73式装甲車とその試作車輌」 高城正士 著  アルゴノート社
・「パンツァー2003年3月号 陸上自衛隊の試作車輌」 高城正士 著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「自衛隊歴代最強兵器 BEST200」  成美堂出版
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「自衛隊装備年鑑」  朝雲新聞社
・「自衛隊図鑑 2002」  学研


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