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69式戦車


●69-I式戦車




69式戦車は1982年9月に行われた軍事パレードで初めて一般公開された59式戦車の改良型で、59式戦車に旧ソ連製のT-55中戦車およびT-62中戦車に採用されていた技術を盛り込んだものである。
59式戦車の後継となる新型MBT(後の69式戦車)の開発は1963年に開始されたが、当時ソ連との関係が悪化していたため59式戦車の時のようにソ連から技術支援を受けることができず開発は難航し、また1966年に始まった文化大革命による混乱もあって開発作業は一時中断された。

1968年に開発作業が再開されると、中国は中東諸国や友好国(ルーマニア等と思われる)からT-55中戦車とT-62中戦車の技術資料を極秘裏に入手し、さらに1969年に勃発した中ソ国境紛争の際にソ連軍から捕獲したT-62中戦車を解析して得られたデータなども参考に新型MBTの開発作業が進められた。
新型MBTの試作車は1970年代中期に完成し、「69式戦車」の呼称が与えられた。

69式戦車は、T-62中戦車に搭載されていた115mm滑腔砲U-5TSを参考に中国が独自開発した100mm滑腔砲を搭載した69-I式戦車と、T-55中戦車に搭載されていた100mmライフル砲D-10T2Sをコピー生産したものを搭載した69-II式戦車の2種が同時期に開発されたが、比較試験の結果100mm滑腔砲が射撃精度、装甲貫徹力共に100mmライフル砲に劣ることが判明したため、中国軍では当面の間MBTの主砲をライフル砲主体とすることに決定した。

このため69-I式戦車は1980年代の初頭に約150両が国内向けに生産されると部隊配備が中止され、1983年からは折からのイラン・イラク戦争で大量のMBTを必要としていたイラクに約200両が輸出された。
69-I式戦車は前作59-II式戦車と基本的に同仕様であったが、主砲とFCS(射撃統制システム)、夜間視察機材等に変更が見られた。
主砲の100mm滑腔砲は砲身の前部に排煙機が装備されており、砲の俯仰角は−5〜+18度となっていた。

レーザー測遠機は59-II式戦車と同じものが用いられており車長用キューポラには赤外線サーチライトが、砲手にも赤外線照準機が備えられ、車体前面の前照灯には赤外線ライトが装備されていた。
副武装としては主砲と同軸に59式7.62mm機関銃が、装填手用キューポラに対空用の54式12.7mm重機関銃がそれぞれ装備されており、T-54中戦車の中期型以降と同様に車体前面にも59式7.62mm機関銃が固定装備されていた。

エンジンは59式戦車の12150Lディーゼル・エンジンを改良した12150L-7BW V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンが搭載されており、出力が520hpから580hpに向上していた。
69式戦車は中国製MBTとしては初めてNBC(核・生物・化学)防護装置を装備しており、また旧ソ連製MBTと同様に排気口に燃料を吹き付けて煙幕を展張する装置を備え、赤外線吸収塗料を用いているといわれる。


●69-II式戦車




69-II式戦車は車体、砲塔共に基本的に69-I式戦車と同一だったが、主砲が100mmライフル砲に変更されたことに加えて、レーザー測遠機と一体化された新型FCSの導入やゴム製サイドスカートの装着、砲塔左右側面への発煙弾発射機の装備、油圧ブースト付き改良型変速機の導入等の改良が行われていた。
主砲の56口径100mmライフル砲は水平・垂直の2軸が安定化されており、砲の俯仰角は−5〜+18度となっていた。

この砲は中国で開発されたHEAT(対戦車榴弾)、HE(榴弾)、APHE(徹甲榴弾)、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を発射することができた。
新型FCSは中国が独自に開発したもので、TSFCS(Tank Simplified Fire Control System:戦車用簡易型射撃統制装置)と呼ばれた。
この装置はTLR1Aレーザー測遠機、アナログ式弾道コンピューター、TGS-A光学照準機などで構成されていた。

主砲の基部に装着されたTLR1Aは装甲カバーで覆われており、300〜3,000m以内の目標に主砲や同軸機関銃を指向させることができた。
砲手用の昼間照準機は倍率3.5倍(視野18度)と7倍(9度)が選択でき、夜間照準機は7倍(6度)で有効距離は800m、同様に車長用昼間照準機は5倍(12度)、夜間照準機は6倍(8度)で有効距離は500mとなっていた。

なおTSFCSの改良型として1980年代の後半以降に、レーザー測遠機を光学照準機の内部に組み込んだTSFCS-Lや、弾道コンピューターの処理機能を強化し各種センサーの情報を照準機能に取り込むTSFCS-Cなどが開発されている。
69-II式戦車は1980年代の初頭に50両程度が国内配備された後には全てが輸出に向けられ、1987年までにイラクにおよそ2,000両余りが輸出されている。

1990年8月の湾岸戦争開戦時には、イラク軍は中国製の59式戦車と69式戦車を合計で1,500両程度装備していた。
この他にはタイやパキスタンへの輸出にも成功し、69-II式戦車は1980年代の後半期までに中国の輸出向けMBTの主力となった。
なお、タイ陸軍では69-II式戦車を「30式戦車」と呼称して使用している。

このような1980年代の輸出好調を追い風に、メーカーのNORINCO(中国北方工業公司)では1985年以降69式戦車の派生型も次々と開発し、57mm対空機関砲を連装装備する80式対空自走砲、37mm対空機関砲を連装装備する89式対空自走砲、84式架橋戦車、653式戦車回収車等が登場している。
この内の653式戦車回収車はイラン、イラク等の中東諸国に輸出されたが、その他の派生型は専ら国内向けに生産・配備された。


<69-I式戦車>

全長:    9.50m
車体長:   6.04m
全幅:    3.27m
全高:    2.218m
全備重量: 36.5t
乗員:    4名
エンジン:  12150L-7BW 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 580hp/2,000rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 430km
武装:    69式61口径100mm滑腔砲×1 (44発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×2 (3,000発)
装甲厚:  


<69-II式戦車>

全長:    9.00m
車体長:   6.04m
全幅:    3.27m
全高:    2.218m
全備重量: 36.7t
乗員:    4名
エンジン:  12150L-7BW 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 580hp/2,000rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 430km
武装:    59式56口径100mmライフル砲×1 (44発)
        54式12.7mm重機関銃×1 (500発)
        59式7.62mm機関銃×2 (3,000発)
装甲厚:  


<参考文献>

・「パンツァー2001年3月号 近代化の歩みを進める最近の中国戦車」 宇垣大成 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年1月号 特集 知られざる中国戦車」 宮永忠将/三鷹聡 共著  アルゴノート社
・「世界AFV年鑑 2005〜2006」  アルゴノート社
・「グランドパワー2023年3月号 ソ連軍主力戦車 T-62 (2)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2003年4月号 ソ連戦車 T-54/55 (2)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2004年6月号 中国戦車開発史(1)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「ソビエト・ロシア 戦車王国の系譜」 古是三春 著  酣燈社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社


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