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IV号対空戦車クーゲルブリッツ





1944年1月27日にアルベルト・シュペーア軍需大臣やハインツ・グデーリアン将軍などが参加して開かれた会議の席で、デュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社がUボートへの搭載を目的として開発を進めていた3cm連装対空機関砲装備の砲塔を、IV号戦車車体に搭載して対空戦車とするプランが提案された。

早速、このプランが実現可能かどうかベルリンのアルケット社(Altmärkische Kettenwerke:アルトメルキシェ装軌車両製作所)に質問状が送られたが、アルケット社の回答はIV号戦車車体の上部構造を変更すること無く搭載可能であるが、Uボート用砲塔をそのまま搭載することは不可能であり砲塔の設計変更が必要というものであった。
このためベルリン・マリーエンフェルデのダイムラー・ベンツ社で砲塔を新設計することになり、新型対空戦車の開発がスタートした。

武装は、ラインメタル社製の航空機搭載用3cm機関砲MK103を原型とする3cm対空機関砲FlaK103/38を並列2連装で砲塔に搭載するものとした。
ダイムラー・ベンツ社が設計した砲塔はこれまでに無い二重構造の特殊なもので、対空車両用砲塔としてはドイツ軍史上初の完全密閉式であった。

内側の砲塔は重量3,500kgで装甲厚は周囲が20mm、上部が10~18mmとなっており、外側砲塔の装甲厚は全周に渡って30mmとなっていた。
内側砲塔は左右側面に設けられた俯仰軸で外側砲塔と接続されており、旋回は外側砲塔で行い砲の俯仰は内側砲塔自体が俯仰することで行うようになっていた。

従来の対空戦車では砲塔の旋回は手動式であったが、これでは航空機の速度に追随できない場合があったため、この砲塔にはDVL社製の機械式旋回装置が採用されていた。
内側砲塔の俯仰については、砲手席の横に設けられた俯仰ハンドルにより手動で行うようになっていた。
砲塔リングの直径はIV号戦車の1,650mmから拡大されており、オストヴィント対空戦車と同様にティーガーI戦車と同じ1,900mmとなっていた。

内側砲塔は3名用で、3cm対空機関砲の操作を担当する砲手2名が砲塔内前部に並んで座り、その後方に車長が位置した。
内側砲塔の上面後部には両開き式の車長用ハッチが設けられており、2名の砲手の頭上にもそれぞれ外開き式のハッチが設けられていた。

車体については既存のIV号戦車のものを流用するのではなく、新規に生産されることになった。
この車体はIV号戦車J型後期の特徴を有していたが、IV号戦車よりも砲塔リング径が拡大されたことに伴って戦闘室上面前部の傾斜が廃止され、無線手および操縦手用ハッチは砲塔と干渉しないように斜め配置に変更された。

本車はその球形の砲塔形状からか、「クーゲルブリッツ」(Kugelblitz、球電:雷雨のときに空中に火の玉が発生する自然現象、発生メカニズムは現在もよく分かっていない)と呼ばれた。
砲塔は全周旋回が可能で旋回速度は25度/秒、1回転するのに要する時間は14.5秒であった。
また砲の俯仰角は-7~+80度で、俯仰速度は20度/秒であった。

クーゲルブリッツ対空戦車が搭載する45口径3cm連装対空機関砲Flakzwilling103/38は有効射程5,700m、発射速度850発/分で、ヴィルベルヴィント対空戦車の65口径2cm4連装対空機関砲Flakvierling38よりも射程、破壊力が優れていた。
オストヴィント対空戦車の57口径3.7cm対空機関砲FlaK43と比較すると1発の破壊力は劣るものの、発射速度が圧倒的に速いために火力は格段に上であった。

3cm機関砲弾の携行数は1,200発で、600発を収める弾薬ケースをそれぞれの機関砲の外側に装着して給弾を行うようになっていた。
機関砲の先端には両端に7個ずつの孔を持つ多孔式の砲口制退機が取り付けられたが、発射ガスが地上の塵を巻き上げるのを防止するため砲口制退機は斜めを向けて取り付けられていた。

乗員は車長、砲手2名、無線手、操縦手の計5名で、無線機はFu.5およびFu.2が搭載されていた。
副武装はヴィルベルヴィント/オストヴィント対空戦車と同じく、戦闘室前面右側のボールマウント式銃架に7.92mm機関銃MG34を1挺装備していた。
1944年7月14日にまとめられた生産計画ではクーゲルブリッツ対空戦車はまず9月に5両を先行生産し、12月以降は月30両のペースで生産するものとされた。

しかし日夜を問わない連合軍爆撃機の空襲の下ではそれは予定にしか過ぎず、ダイムラー・ベンツ社は1944年9月5日に9月に2両、10月と11月にそれぞれ3両を完成させるという修正案を提出した。
しかしこの修正案も実現せず、1945年1月20日に合計100両のクーゲルブリッツ対空戦車を生産する計画が新たに立てられた。

これによると2月と3月にそれぞれ10両を完成させ、4月には40両を完成させることになっていたがこれも実現することは無かった。
結局、記録で生産が確認されているクーゲルブリッツ対空戦車は1944年10月に完成した試作車1両と、1945年3月に完成した生産型2両のみである。

もっとも1945年3月30日付の報告書では、特殊対空戦車中隊の第1小隊にクーゲルブリッツ対空戦車6両が配備されたことになっているので、6両が完成していた可能性もある。
1945年3月にドイツ製鋼所で完成した2両のクーゲルブリッツ対空戦車は、同年4月からベルリンの防空戦に使用されたという。


<クーゲルブリッツ対空戦車>

全長:    5.92m
全幅:    2.95m
全高:    2.30m
全備重量: 25.0t
乗員:    5名
エンジン:  マイバッハHL120TRM112 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 272hp/2,800rpm
最大速度: 38km/h
航続距離: 200km
武装:    45口径3cm連装対空機関砲Flakzwilling103/38×1 (1,200発)
        7.92mm機関銃MG34×1 (900発)
装甲厚:   10~80mm


<参考文献>

・「第2次大戦 ドイツ戦闘兵器カタログ Vol.2 AFV:1943~45」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年11月号 ドイツ装軌式対空車輌」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ試作軍用車輌」  ガリレオ出版
・「グランドパワー1999年10月号 ドイツ対空戦車」 佐藤光一 著  デルタ出版
・「パンツァー2011年7月号 IV号戦車改造の対空戦車」 久米幸雄 著  アルゴノート社
・「ピクトリアル IV号戦車シリーズ」  アルゴノート社
・「ピクトリアル ドイツ軍自走砲」  アルゴノート社
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著  大日本絵画
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著  光人社
・「ドイツの火砲 制圧兵器の徹底研究」 広田厚司 著  光人社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「図解・ドイツ装甲師団」 高貫布士 著  並木書房
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著  学研
・「戦車名鑑 1939~45」  コーエー


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