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IV号対空戦車ヴィルベルヴィント





1944年2月から生産が開始されたIV号戦車ベースの対空自走砲メーベルヴァーゲンは、地上目標に対する攻撃の際、戦闘室上部を構成する4枚の可動式装甲板を展開しなければならないため準備に時間が掛かり、またこの時乗員が無防備になるという欠点があった。
このためドイツ陸軍兵器局第6課は、より迅速に戦闘態勢に移れてなおかつ乗員を常時防御できるIV号戦車ベースの対空戦車の開発を求めた。

これに対して、65口径2cm4連装対空機関砲Flakvierling38をオープントップ式砲塔に搭載する対空戦車のプランが提示され、1943年12月から開発が開始された。
1944年5月にはポーランドのオストバウ社でIV号戦車から改造した試作車1両が製作され、試験を行った後IV号対空戦車「ヴィルベルヴィント」(Wirbelwind:旋風)(特殊車両番号:Sd.Kfz.161/4)として制式採用された。

ヴィルベルヴィント対空戦車の砲塔は、IV号戦車の砲塔リングのサイズに合わせて設計されていた。
この砲塔は18枚の16mm厚装甲板を溶接で組み合わせた算盤球のような独特の形状で、砲身の上下する部分は切り欠かれており、また前方上部には照準機用の小ハッチが設けられていた。
砲塔内は狭くFlakvierling38の後部に車長兼砲手、両サイドに装填手1名ずつの計3名が搭乗した。

この他車体内に無線手と操縦手が搭乗し、乗員は計5名であった。
砲塔は全周旋回が可能で、Flakvierling38の俯仰角は-10~+100度となっていた。
2cm砲弾の携行数は、Sp.Gr.(榴弾)とPz.Gr.(徹甲弾)合計で3,200発であった。
また、無線機はFu.5およびFu.2が搭載されていた。

副武装は、IV号戦車と同じく戦闘室前面右側のボールマウント式銃架に7.92mm機関銃MG34を1挺装備しており、その他車内装備として9mm機関短銃MP40が1挺あった。
ヴィルベルヴィント対空戦車の砲塔は、メーベルヴァーゲン対空自走砲のように車体側を改造しなくても搭載できるため、本車の車体は既存のIV号戦車のものがそのまま使用できた。

そのためヴィルベルヴィント対空戦車の生産は、戦線から修理のため送り返されてきたIV号戦車を再生する形で行われた。
車体は既存のIV号戦車から流用しているため様々な型式がありそうだが、実際には整備や補給などの面からF、G、H、J各型が選んで用いられたようである。

なおIV号戦車の砲塔は補助エンジンによる動力旋回式であったが(J型を除く)、ヴィルベルヴィント対空戦車の砲塔は旋回も俯仰も手動式であったため、車体を流用する際には補助エンジンや車体後部の専用マフラーが取り外され、マフラーの開口部は鋼板を溶接して塞がれた。
また、機関室の側面には予備砲身ケースが追加装備された。

ヴィルベルヴィント対空戦車の発注数は当初80両とされていたが、メーベルヴァーゲン対空自走砲の生産不足を補うため1944年9月には130両に訂正され、さらに1945年3月には200両に引き上げられた。
ヴィルベルヴィント対空戦車の生産は車体と砲塔外郭をドイツ製鋼所のローレン工場が用意し、それをオストバウ社に運んで最終組み立てが行われた。

1944年7月には、最初の17両のヴィルベルヴィント対空戦車が完成した。
ヴィルベルヴィント対空戦車の武装である2cm4連装対空機関砲Flakvierling38は、低空への火力こそ大きかったが射程が短く、1発の破壊力も低かった。
開発当初のメーベルヴァーゲン対空自走砲も同じ武装であったが、火力不足を指摘されて57口径3.7cm対空機関砲FlaK43に武装を変更したことからも、ヴィルベルヴィント対空戦車が火力不足であったことは明らかである。

従来の説では、ヴィルベルヴィント対空戦車はこの火力不足が原因で1944年11月までに87両で生産が中止されたことになっていたが、実際には1945年3月まで生産が続けられ合計で122両が完成したことが判明している。
ヴィルベルヴィント対空戦車の火力強化策として、武装を45口径3cm4連装対空機関砲Flakvierling103/38に変更した「ツェルシュテーラー(Zerstörer:破壊者)45」対空戦車が開発されることになり、オストバウ社が1944年11月に試作車を完成させたが結局これ以後の開発は中止されている。

恐らくこの経緯から、ヴィルベルヴィント対空戦車の生産が続行されたものと推測される。
ちなみにツェルシュテーラー45対空戦車の生産計画が実行されば、ヴィルベルヴィント対空戦車のFlakvierling38装備の砲塔はIII号戦車車体に搭載される予定であった。

1944年9月から、メーベルヴァーゲン対空自走砲4両とヴィルベルヴィント対空戦車4両から成る対空戦車小隊が以下の部隊に配備され始めた。
それは第3、22、33戦車連隊、戦車教導連隊、SS第1、2、12戦車連隊、第111および113戦車旅団、総統護衛旅団、第501および503重戦車大隊、第519、559、560、653、654、655戦車駆逐大隊である。

なお第29戦車連隊の第I大隊、第15戦車連隊、SS第17戦車連隊にはヴィルベルヴィント対空戦車4両のみが装備された。
また後に第654戦車駆逐大隊に3両、第217突撃砲大隊に2両、第39戦車連隊の第II大隊に3両のヴィルベルヴィント対空戦車が補充用として送られている。


<ヴィルベルヴィント対空戦車>

全長:    5.92m
全幅:    2.90m
全高:    2.76m
全備重量: 22.0t
乗員:    5名
エンジン:  マイバッハHL120TRM 4ストロークV型12気筒液冷ガソリン
最大出力: 300hp/3,000rpm
最大速度: 38km/h
航続距離: 200km
武装:    65口径2cm4連装対空機関砲Flakvierling38×1 (3,200発)
        7.92mm機関銃MG34×1 (1,350発)
装甲厚:   10~80mm


<参考文献>

・「グランドパワー2002年5月号 ヴィルベルヴィント イン ディテール」 斉藤一直 著  デルタ出版
・「グランドパワー1999年10月号 ドイツ対空戦車」 佐藤光一 著  デルタ出版
・「世界の軍用車輌(1) 装軌式自走砲:1917~1945」  デルタ出版
・「第2次大戦 ドイツ戦闘兵器カタログ Vol.2 AFV:1943~45」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年11月号 ドイツ装軌式対空車輌」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「第2次大戦 ドイツ試作軍用車輌」  ガリレオ出版
・「パンツァー2011年7月号 IV号戦車改造の対空戦車」 久米幸雄 著  アルゴノート社
・「ピクトリアル 第2次大戦ドイツ自走砲」  アルゴノート社
・「ピクトリアル IV号戦車シリーズ」  アルゴノート社
・「ピクトリアル ドイツ軍自走砲」  アルゴノート社
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著  大日本絵画
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 斎木伸生 著  光人社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「図解・ドイツ装甲師団」 高貫布士 著  並木書房
・「戦車名鑑 1939~45」  コーエー


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