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2S7ピオン203mm自走加農砲





2S7「ピオン」(Pion:シャクヤク)203mm自走加農砲は、現用の地上展開砲兵システムとしては世界最大のもので射程距離も最大(55km)を誇る。
本車の開発は、レニングラード(現サンクトペテルブルク)のキーロフ重機械工場において1969年から開始された。

そして当初、ヴォルゴグラードのバリカードゥイ機械工場と競争試作が行われたが、結局火砲システムをバリカードゥイ製のものとし、車台側およびシステム全体の構成をキーロフのものとすることで決着した。
1975年には試作車が完成し、制式採用された上で部隊配備が開始されている。
本車に搭載されている56.2口径203mm加農砲2A44は砲本体の重量が14.6tもあり、砲身長は12mにも達するもので車体上面後部に外装式に搭載されている。

車体上でそのまま発射できるが、射撃時には車体後部にある駐鋤を降ろし車体を固定する必要がある。
なお、駐鋤は油圧で駆動される。
通常榴弾(3OF-43、弾頭重量110kg)を発射する場合、フル装薬を用いて砲口初速960m/秒で発射し、最大射程は37.5kmに達する。

また噴射ブースター付き榴弾・特殊装薬を使用した場合、同一弾頭重量で最大射程は55kmである。
弾薬は榴弾の他、対コンクリート砲弾、核砲弾、化学砲弾も用意されている。
操砲は全て電動で装填操作も電動アシスト等によって半自動化されており、発射速度はバースト射撃で2発/分、継続射撃では1発/分程度である。

砲の旋回角は左右各15度ずつで、俯仰角は0〜+60度となっている。
自走車台の方は試作当初はT-64戦車並びに、その試作ヴァージョンであったオブイェークト429中戦車のコンポーネントが用いられていたが、生産型は足周りにT-80戦車のコンポーネントを利用している。
46.5tという重量を支えるため転輪は厚く、履帯も内側にゴムパッドがありダブルピン方式になっている。

パワーパックは車体中央部に配置され、駆動はフロント・ドライブ方式である。
起動輪の前方に大きく張り出した操縦室には操縦手、車長、砲手の3名が搭乗し、パワーパック部分後ろの戦闘室に他の操砲要員4名が搭乗する。
前後に分かれた乗員の通信用には、A1V116通信システムが用意されている。

搭載弾薬は弾頭/装薬で4セットしかないため、当然弾薬運搬車などがサポートすることになる。
本車の停止位置での発射準備時間は、約6分である。
2S7自走加農砲は、方面軍(平時は軍管区)レベルに配置される最高司令部直属重自走砲旅団に配属され、1旅団当たりの配備数は48両で、ソ連が崩壊した1991年の時点でのウラル山脈以西地区での総配備数は305両であった。

生産はとうに終了しておりその総生産数は約1,000両程度と推測されるが、ロシア政府は今日に至るもその詳細を発表しないため不明である。
2S7自走加農砲はロシア本国の他、チェコ、スロヴァキア、ポーランドでも使用されている。


<2S7 203mm自走加農砲>

全長:    13.12m
車体長:   10.50m
全幅:    3.38m
全高:    3.00m
全備重量: 46.5t
乗員:    7名
エンジン:  V-46-1 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 840hp/2,000rpm
最大速度: 50km/h
航続距離: 650km
武装:    56.2口径203mm加農砲2A44×1 (4発)
装甲厚:   10mm


<参考文献>

・「パンツァー2001年9月号 ソ連・ロシア自走砲史(12) 長射程自走砲の登場」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2015年1月号 世界の”生きている”戦闘車輌を取材する旅(7)」 三野正洋 著  アルゴノート社
・「パンツァー2020年8月号 能勢伸之のカクゲツ安全保障(16)」 能勢伸之 著  アルゴノート社
・「パンツァー2022年8月号 能勢伸之のカクゲツ安全保障(29)」 能勢伸之 著  アルゴノート社
・「パンツァー2017年3月号 ウクライナ軍の実弾射撃訓練 2S7 PION」  アルゴノート社
・「パンツァー2021年6月号 混沌のロシアAFV」 藤村純佳 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年10月号 訓練中のチェコ軍装甲車輌」  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2018年12月号 ソ連軍重戦車 T-10」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  光人社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


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