HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)対戦車車両対戦車車両(ソヴィエト/ロシア)>2S25スプルトSD空挺対戦車自走砲

2S25スプルトSD空挺対戦車自走砲





●開発

2S25「スプルト(Sprut:タコ、クラーケン)SD」は、一連のBMD空挺戦闘車シリーズの開発を担当したヴォルゴグラード・トラクター工場(VTZ)設計局が、BMD-3空挺戦闘車のコンポーネントを流用して開発した空挺部隊用の対戦車自走砲である。
本車の詳しい開発スケジュールは不明であるが、「オブイェークト952」の試作名称で1990年代初期に開発が開始され、1999年に試作車が公開されてロシア兵器輸出公団による売り込みが始められた。

旧ソ連軍は1960年代後期に戦車用の125mm滑腔砲を実用化したが、T-64戦車やT-72戦車の主砲として採用されたこの砲は当時世界最高の対装甲威力を備えていた。
ソ連軍は125mm滑腔砲を装備する空挺部隊用の対戦車自走砲を実用化して、当時運用していたASU-57/ASU-85空挺自走砲の後継として導入することを1970年代に計画したが、すでにソ連政府が深刻な財政難に陥っていた時期だったためなかなか実行に移されなかった。

ようやく1980年代に入ってオブイェークト934水陸両用軽戦車の車体を用いた試作車が製作されたが、この車両は重量が重過ぎてパラシュート降下することが不可能だったため、空挺部隊用の車両としては不適格と見なされ採用されなかった。
そして改めて1990年代に入って、パラシュート降下能力を持つBMD-3空挺戦闘車の車体をベースに開発されたのがこの2S25空挺自走砲である。

2S25空挺自走砲は空挺軍および海軍歩兵での採用が検討され、ロシア軍は2015年までに58両を導入する予定であった。
2009年の段階で空挺軍は24両の2S25空挺自走砲を運用していたが、ロシア政府の財政難等の理由で2010年に調達が中止されることになった。
また現在、ベース車体をBMD-4M空挺戦闘車に変更した改良型の開発が進められている模様である。


●攻撃力

2S25空挺自走砲は空挺部隊用の車両としては非常に武装が強力で、T-72/T-80戦車シリーズなどのロシア陸軍のMBTと同様に、2名用砲塔の前面に125mm滑腔砲を装備している。
本車が装備する51口径125mm滑腔砲2A75はエカテリンブルクの第9砲兵工場が開発したもので、ロシア陸軍のMBTが装備する125mm滑腔砲2A46をベースに、軽戦車にも搭載可能なように反動を抑え軽量化を図ったタイプである。

砲弾は2A46用のものをそのまま使用することができ、MBTと遜色無い戦闘力を発揮できる。
またこの砲はレーザー誘導式の9M119「レフレークス」(Refleks:反射)対戦車ミサイルを発射することも可能で、この場合の最大交戦距離は4,000mにもなる。
2S25空挺自走砲は主砲弾薬の自動装填装置を装備しており、7発/分という比較的早い速度で主砲を射撃可能である。

自動装填装置はT-72戦車シリーズと同じ「カセートカ」(Kassetka:カセット)システムが採用されており、自動装填装置内に22発分の弾頭と分離装薬が充填されている。
本車はそれ以外に、18発の主砲弾薬を車体各部に搭載している。
FCS(射撃統制システム)もT-72戦車シリーズと同様のものが導入されており、砲手席には弾道計算機とリンクしたレーザー測遠・照準機、車長席には誘導砲弾用のレーザー照準機が設けられている。

また各乗員には、熱線暗視装置の組み込まれた外部視察装置が用意されている。
副武装としては、主砲と同軸に7.62mm機関銃PKTを1挺装備している。
また砲塔後部の上方には、3連装の902B「トゥーチャ」(Tucha:黒雲)発煙弾発射機を左右に1基ずつ装備している。


●防御力

2S25空挺自走砲の車体はBMD-3空挺戦闘車がベースになっているが、一回り大型化されており転輪数もBMD-3空挺戦闘車の片側5個から片側7個に増やされている。
車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室という、通常の戦車と同じレイアウトになっている。

2S25空挺自走砲の車体と砲塔は共に防弾アルミ板の全溶接構造で、低平なスタイルにデザインされており良好な避弾経始を持つが、装甲防御力は限定的で前面で12.7mm弾、その他の部分は7.62mm弾に堪える程度でしかない。
これは本車が空挺部隊用の車両であるため、輸送機からパラシュート降下できるよう軽量に設計しなければならなかったためである。


●機動力

2S25空挺自走砲は車体が大型化したことや、大口径の戦車砲を装備したことに伴ってBMD-3空挺戦闘車に比べて約5t重量が増加しているが、エンジンが出力強化型のものに換装されたため機動性能は良好で、路上最大速度70km/h、路上航続距離500kmの性能を発揮する。
また本車は浮航性能を備えており、車体後部に設けられたウォーター・ジェットにより水上を10km/hの速度で航行することが可能である。

2S25空挺自走砲の足周りは片側7個の転輪と片側6個の上部支持輪、後方の起動輪と前方の誘導輪で構成されている。
サスペンションは一連のBMD空挺戦闘車シリーズと同じく油気圧方式を採用しており、サスペンションを上下させて車高を変更することが可能である。

本車はBMD-3空挺戦闘車と同じく乗員を乗せたままパラシュート降下することが可能で、空中投下の際には着地時の衝撃によるサスペンションの破損を防ぐために、油気圧式サスペンションのアームを畳むことによって車底と転輪接地部を水平にして投下される。


<2S25空挺対戦車自走砲>

全長:    9.77m
車体長:   7.08m
全幅:    3.15m
全高:    2.72m
全備重量: 18.0t
乗員:    3名
エンジン:  2V-06-2S V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 510hp
最大速度: 71km/h(浮航 10km/h)
航続距離: 500km
武装:    51口径125mm低反動滑腔砲2A75×1 (40発)
        7.62mm機関銃PKT×1 (2,000発)
装甲厚:  


<参考文献>

・「パンツァー2001年11月号 ソ連・ロシア自走砲史(14) 新型空挺自走砲の登場」 古是三春 著  アルゴノート
 社
・「パンツァー2000年4月号 続 垣間見えてきた旧ソ連の戦車技術」 二木巌 著  アルゴノート社
・「パンツァー2020年10月号 能勢伸之のカクゲツ安全保障(17)」 能勢伸之 著  アルゴノート社
・「パンツァー2011年6月号 ロシア陸軍 冷戦後の変化と現状」 鹿内誠 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 ロシア軍車輌 インアクション」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年10月号 ソ連空挺戦闘車輌の系譜」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 軽装甲車輌と大口径砲(2)」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年8月号 ロシアの主要AFV」  アルゴノート社
・「パンツァー1999年7月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2019年9月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2021年2月号 軍事ニュース」  アルゴノート社
・「パンツァー2022年11月号 ARMY 2022」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート48 ニュールック ロシア軍AFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2018〜2019」  アルゴノート社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社


HOME研究室(第2次世界大戦後〜現代編)対戦車車両対戦車車両(ソヴィエト/ロシア)>2S25スプルトSD空挺対戦車自走砲