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2S19ムスタS 152mm自走榴弾砲





2S19「ムスタ(Msta:ロシア北西部を流れる河川名)S」152mm自走榴弾砲は、それまで旧ソ連陸軍が装備していた2S1「グヴォジーカ」122mm自走榴弾砲、2S3「アカーツィヤ」152mm自走榴弾砲、2S5「ギアツィントS」152mm自走加農砲の3車種を更新するために開発された新型の自走砲で、ソヴィエト連邦末期の1989年に旧ソ連陸軍に制式採用された。

本車の開発は2S3、2S5自走砲と同じく、エカテリンブルク(旧スヴェルドロフスク)のUTM(Uraltransmash:ウラル輸送機械工場)が担当した。
2S19自走榴弾砲の最大の特徴は整備や部品の調達を容易にするために、旧ソ連陸軍の主力戦車であるT-80戦車やT-72戦車とコンポーネントの共通化が図られていた点である。
車体の基本的デザインと足周りは、T-80戦車のものを流用している。

これはリブの無いディスク式のアルミ製転輪と、ダブルピンの湿式履帯にその特徴を見て取れる。
またエンジンについては、T-80戦車に搭載されながらも信頼性の低さと燃費の悪さで不評だったガスタービン・エンジンを搭載せず、機関室を拡大してV-84A V型12気筒多燃料液冷スーパーチャージド・ディーゼル・エンジン(出力840hp)を搭載した。

このV-84Aディーゼル・エンジンは、大戦中のT-34中戦車に搭載されたV-2ディーゼル・エンジンの流れを汲むもので信頼性が高く、T-72戦車の改良型であるT-72B戦車やT-90戦車にも搭載されている。
2S19自走榴弾砲の砲塔は従来の自走砲より巨大な完全密閉式のもので、全周旋回が可能である。
主砲は新規開発の48口径152mm榴弾砲2A64が搭載されており、俯仰角は−3〜+68度となっている。

152mm榴弾砲2A64は重量43.56kgの通常型榴弾OF-45を最大射程24.7kmで、重量42.86kgの噴射ブースター付き榴弾OF-61を同28.9kmで発射できる他、それまでに実用化された戦後型の152mm砲弾は全て使用できるようになっている。
さらにこの砲からは、レーザー誘導砲弾ZOF-39「クラスノポール」(重量50kg、最大射程20km)が発射可能である。

クラスノポールは前線観測班が照射するNd-YAGレーザーにホーミングして目標を撃破する誘導砲弾で、これによって対戦車射撃も可能となる。
砲塔後部には出力21.6hpのガスタービン補助エンジンが搭載されており、主エンジンを止めた状態でも射撃が継続できるようになっている。

砲塔内の弾薬庫には50発分の砲弾と発射装薬(プラスチック・カートリッジ入り)が準備され、弾薬の装填は自動装填装置により完全自動で行われるようになっており、発射速度は7〜8発/分となっている。
また外部からの給弾による射撃も可能で、この場合は砲塔後部から装填コンベアを引き出し、操砲要員がここに砲弾と発射装薬を載せて半自動的に装填されるようになっている。
外部給弾方式による発射速度は、6〜7発/分となっている。

2S19自走榴弾砲は射撃時に車体を固定するための駐鋤は備えておらず、射撃時には第1、第2、第6転輪に取り付けられたショック・アブソーバーをロックすることで車体を固定するようになっている。
また2S19自走榴弾砲は2S5自走加農砲と同様に自走式と牽引式のハイ・ロー・ミックス配備が考えられており、ほぼ同一仕様の牽引式152mm榴弾砲2A65「ムスタB」が同時開発されて量産化されている。

2S19自走榴弾砲の初公開は1993年にアブダビで開催された兵器展示会「IDEX'93」においてで、この時はレーザー誘導砲弾クラスノポールの発射デモンストレイションが行われ、15km先に置かれた標的38個に命中弾を浴びせて見せたという。
2S1、2S3、2S5の3自走砲を統合できる車両として登場した2S19自走榴弾砲だが、財政難のロシアではこれらを完全に更新することなど不可能な話で、生産数は2010年時点で800両程度と見られている。


<2S19 152mm自走榴弾砲>

全長:    11.917m
車体長:   6.04m
全幅:    3.584m
全高:    2.985m
全備重量: 42.0t
乗員:    5名
エンジン:  V-84A 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 840hp/2,000rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 500km
武装:    48口径152mm榴弾砲2A64×1 (50発)
        12.7mm重機関銃NSVT×1 (300発)
装甲厚:   15mm


<参考文献>

・「パンツァー2001年9月号 ソ連・ロシア自走砲史(12) 長射程自走砲の登場」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2005年12月号 T-80戦車シリーズの開発と発展」 白井和弘 著  アルゴノート社
・「パンツァー2010年12月号 不運な自走砲 2S19ムスタ」 三鷹聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2021年6月号 混沌のロシアAFV」 藤村純佳 著  アルゴノート社
・「パンツァー2004年6月号 最近のロシアAFV」 白井和弘 著  アルゴノート社
・「パンツァー2019年5月号 152mm自走砲 2S19」  アルゴノート社
・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2019年10月号 ソ連軍主力戦車(4)」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  潮書房光人新社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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