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2K22ツングースカ自走対空システム





2K22「ツングースカ」(Tunguska:中央シベリアを流れる河川名)自走対空システムは、ZSU-23-4「シルカ」(Shilka:アムール川の支流の河川名)対空自走砲の後継車両としてトゥーラの制御システム開発設計局(KBP)が1960年代末に開発に着手したもので、1989年に東ドイツ駐留ソ連軍に配備されているのを西側が初めて確認したため、西側では本車を当初「M1989」の識別番号で呼んでおり、後にSA-19「グライソン」(Grison:中南米産のイタチ)のNATOコードネームを与えている。

本車は大型の装軌式車体2S6に80.5口径30mm連装対空機関砲2A38Mを2連装した上、低〜中高度用半自動誘導式対空ミサイル9M311を合計8発搭載したレーダー・レーザー照準機構付きの全周旋回式砲塔を持つ、西側には例の無いハイブリッド対空システムで、それまで各種装甲車両に搭載された中高度用自走対空ミサイルと自走対空機関砲を統合したような車両である。
「ツングースカ」は1986年から部隊配備が開始されており、連隊防空大隊の対空砲中隊に配属されている。

本車の何よりの特徴は、機関砲/ミサイル併用による制圧空域の広さである。
30mm連装対空機関砲2A38Mは砲口初速960m/秒、4門合計で5,000発/分の最大発射速度を持ち、水平方向の最大有効射程5,000m、有効制圧高度3,000mの性能を持つ。
また8発搭載されたレーザー自動誘導対空ミサイル9M311は2発一組で1目標に向けて発射され、最大有効射程8,000mを誇っている。

これらは目標追尾用と捜索用の2基のレーダーを中心とした高度な火器管制システムにより、複数の対空目標と同時に交戦することが可能となっている。
レーダーは砲塔後部に装備されている横長のものが捜索レーダーで探知距離18km、砲塔前部に装備されている円形のものが追尾レーダーで追尾距離13kmである。

このシステムでは目標への指向は全て自動でなされるようになっており、操作員がやることは使用兵器の選定と発射ボタンを押すことでしかない。
「ツングースカ」が迎撃可能な目標速度は500m/秒とされており、相当な高速度で飛来する地上攻撃機はもちろんのこと、その広い制圧空域と複数目標対応能力と合わせれば、西側で地上制圧力の主柱の1つとなっている地上攻撃ヘリコプターにとっても強敵であることが明白である。

対地上目標攻撃では、光学照準機が使われる。
1990年には、改良型で最初の本格的な生産型である「ツングースカM」(2K22M)が登場した。
「ツングースカM」では車体が新型の2S6M装軌式車体に変更され、対空ミサイルも9M311の改良型である9M311Mを装備するようになった。

続いて2003年には、2番目の改良型である「ツングースカM1」(2K22M1)が登場した。
「ツングースカM1」は車体がGM-5975装軌式車体に変更され、火器管制システムが強化されて最大有効射程10,000mの9M311M1対空ミサイルを使用できるようになった。
エンジンはT-72戦車などと同系統のV-46-4 V型12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力780hp)を搭載し、戦闘重量34tの車体を路上最大速度65km/hで走らせることができる。

以上のように、ZSU-23-4とは桁違いの能力を持っている「ツングースカ」だが製造コストが非常に高いため、他の中〜低高度空域対空ミサイル・システムと組み合わせて部隊配備されている。
現在、KBPが「ツングースカ」の後継として開発した96K6「パーンツィル(Pantsir:甲冑)S1」自走対空システムの部隊配備が2012年から開始されており、「ツングースカ」も「パーンツィルS1」で使用されている最大有効射程20,000mの57E6対空ミサイルを使用できるよう、近代化改修が行われることになっている。


<2K22M1ツングースカM1自走対空システム>

全長:    7.93m
全幅:    3.236m
全高:    4.021m
全備重量: 34.0t
乗員:    4名
エンジン:  V-46-4 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 780hp/2,000rpm
最大速度: 65km/h
航続距離: 500km
武装:    80.5口径30mm連装対空機関砲2A38M×2 (1,904発)
        9M311/9M311M/9M311M1対空ミサイル4連装発射機×2 (8発)
装甲厚:


<9M311対空ミサイル>

全長:       2.56m
直径:       0.076m
翼幅:       0.50m
発射重量:    57.0kg
弾頭重量:    9kg
誘導方式:    指令誘導
最大飛翔速度: 900m/秒
有効射程:    最大8,000m
有効射高:    最大3,500m


<9M311M1対空ミサイル>

全長:       2.56m
直径:       0.076m
翼幅:       0.50m
発射重量:    57.0kg
弾頭重量:    9kg
誘導方式:    指令誘導
最大飛翔速度: 900m/秒
有効射程:    最大10,000m
有効射高:    最大3,500m


<参考文献>

・「パンツァー2011年9月号 武装コンプレックスを採用した初の対空自走砲 2S6(2K22)ツングースカ」 三鷹聡
 著  アルゴノート社
・「パンツァー2001年10月号 ソ連・ロシア自走砲史(13) 対空自走砲の開発」 古是三春 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年6月号 ロシア南部軍管区のAFV」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2021年4月号 戦後のソ連軍対空戦車」 大村晴 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  潮書房光人新社
・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著  三修社
・「世界の装軌装甲車カタログ」  三修社
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー
・「世界の最新陸上兵器 300」  成美堂出版
・「ミサイル事典」 小都元 著  新紀元社


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